農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(25)【防除学習帖】 第264回2024年9月7日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。IPM防除は、①化学的防除、②生物的防除、③物理的防除、④耕種的防除の4つの防除法を効率よく組み合わせて、作物の生産圃場を病害虫雑草が生きていきづらい環境、いわゆる病害虫雑草自身の生命活動を維持しにくい環境にすることで効率的に防除効果を発揮しようというものだ。
このため、病原菌種別や害虫種別、雑草種別に使えるIPM技術を整理すると、作物が異なっても応用しやすくなるので、現在、病害虫雑草別に主として化学的防除を除いたIPM防除法の組み立て方を検討している(化学的防除法の詳細については病害虫別に後日整理する)。
現在害虫別にその生態と防除について紹介しており、今回はアザミウマ目を紹介する。
1.アザミウマ目の種類と生態・被害
アザミウマ目には、シマアザミウマ科とアザミウマ科およびクダアワミウマ科の3科があるが、農林業では、アザミウマ科とクダアザミウマ科のアザミウマが重要な防除対象害虫が多い。
アザミウマ目は節足動物門、昆虫網に属し、作物を加害する主な防除対象アザミウマは、アザミウマ科ではイネアザミウマ、サトウキビチビアザミウマ、チャノキイロアザミウマ、ネギアザミウマ、ヒラズハナアザミウマ、ミカンキイロアザミウマ、ミナミキイロアザミウマ、クダアザミウマ科ではカキクダアザミウマ、ワサビクダアザミウマである。
アザミウマ目は一般的に加害する作物が多く、特に果菜類では花や幼果への加害が多いため、著しい品質低下と収量減を起こす。幼虫、成虫ともに作物の表面組織から吸汁することによって、加害部位が変色したり、萎縮や奇形といった作物に形態的な変化を引き起こし被害が大きくなる。体長が1~2mm程度と非常に小さくて見えづらく、花や果実の基部などに潜んでいる場合などは特に見つけづらくなる。このためアザミウマ目の発生に気付くのは、葉脈間組織の壊死による白色小斑点などが目立つようになってからが多く、このような状況になった時はアザミウマ類がかなり増えてしまっていることが多い。このため、アザミウマ類は被害が目立つようになってから防除していたのでは防除効率が低くなるので、発生前からの予防的防除が重要で開花前より防除作業を開始するようにする。
2.アザミウマ目の防除対策
(1)殺虫剤の使用 [化学的防除]
アザミウマ目の防除では、目に見えづらく、いつ侵入してくるかわかりにくい害虫なので、生物的防除や物理的防除を併用しながらの化学的防除を行うのが最も効果が高い防除法である。
なお、アザミウマ目は殺虫剤抵抗性の発達が多い害虫なので、化学的防除を行う際には抵抗性の発達を防ぐため、作用性の異なる薬剤をローテーションで使用する。
(2)圃場周辺雑草の防除[化学的防除・耕種的防除]
アザミウマ目は圃場周辺の雑草などを経由して圃場に侵入してくることが多いので、圃場周辺の雑草防除を徹底することで、圃場への侵入数を減らすことができる。草刈機による除草[耕種的防除]や、除草剤による除草「化学的防除」を適宜使い分けて、ほ場周辺の雑草管理を徹底する。
(3)生物農薬の活用[生物的防除]
アザミウマ目の生物的防除法には、アザミウマ類を捕食する天敵類を有効成分とするものと、アザミウマ類に寄生する糸状菌を有効成分にするものがある。
天敵を製品化した生物農薬は、作物に有効成分である天敵をきちんと定着させることが防除成否の鍵になるので、製品の使用方法・注意事項を着実に守って使用する。
一方、糸状菌を有効成分にする生物農薬は、アザミウマ類の身体で付着・増殖して効果を発揮するので、アザミウマ類の体に有効成分が付着させないことには効果を発揮することができない。なので、ボタニガードES・水和剤のように水で希釈して散布するものは、アザミウマ目が潜んでいるところをめがけて、アザミウマの体に薬液が付着するように丁寧に散布する必要がある。
また、パイレーツ粒剤は作物の株元周辺の土壌表面に散布して使用する。これは、アザミウマ類の幼虫が蛹になるために作物の茎葉部から土壌に落下する性質があることを利用しており、落下してきた時に製剤に触れさせて有効成分である菌がアザミウマ類幼虫に感染して死亡させる。このため、落下してきた幼虫を確実にパイレーツ粒剤に触れさせるように落下してくる可能性のある範囲に均一に散布しておくと効果的である。
このように天敵微生物を有効成分とする生物農薬を使用する場合も、使用方法・使用上の注意を確実に守って使用するように徹底する。
アザミウマ類を防除できる生物農薬一覧(4)防虫ネットの使用[物理的防除]
施設栽培の場合、防虫ネットを側窓に設置してアザミウマ類の侵入を防ぐことが有効である。
ただし、アザミウマ類は微小であるため、侵入を防ぐには網目が細かい防虫ネットを設置する必要があり、網目が細かいと施設内な換気機能を低下させて施設内温度が上昇しやすくなる。作物によっては、高温を避けなければならない場合があるので、このような場合は、アザミウマ類の侵入を防げるほど細かい網目の防虫ネットは使用できないので注意が必要である。
(5)蒸し込み処理[物理的防除]
施設栽培の場合、夏場にアザミウマ類の被害を受けた作物残渣を株元でカットするか根こそぎ抜き取り、ハウス土壌表面に放置する。このままハウスを密閉するか残渣にビニルフィルムをかけて密閉する場合は天窓をあけて作物残渣を高温・多湿条件で保持する。保持後は、ハウス内温度(被覆内温度)が40℃以上になる期間が10日以上(目安)になるように蒸し込みして、アザミウマ類を高温で死滅させ、蒸し込み後の作物残渣を丁寧にほ場の外に運び出して適切に処分する。周辺への拡散や次作での発生量を減らすように、方法を行う場合は、アザミウマ類をほ場の外に出さないようにハウス内に封じ込めるように心がける。
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