農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(61)【防除学習帖】第300回2025年5月31日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。
みどり戦略対策に向けたIPM防除でも、必要な場面では化学的防除を使用し、化学的防除法以外の防除法を偏りなく組み合わせて防除効果の最大化を狙うのだが、農薬のリスク換算量を減らせる有効成分や使用方法を選択できるようにするためには、農薬の有効成分ごとにその作用点、特性、リスク係数、防除できる病害虫草等を整理すると、より効率良く防除できてリスク換算量を減らすことができる道が探れると考えている。そのため、有効成分の作用機構ごとに分類し、RACコードの順番に整理を試みている。現在FRACコード表日本版(2023年8月)に基づいて整理し紹介しているが、整理の都合上、FRACコード表と項目の並びや内容の表記方法が若干異なることをご容赦願いたい。
27.DMI殺菌剤
(1)作用機構:[G]細胞膜のステロール生合成
(2)作用点: ステロール生合成におけるC14位の脱メチル化酵素
(3)グループ名:DMI殺菌剤(脱メチル化阻害剤)(SBI:クラスⅠ)・グループコード:[3]
(4)殺菌剤の耐性リスク:中
(5)耐性菌の発生状況:複数の病源菌で耐性菌発生
(6)化学グループ名/有効成分名(農薬名):
DMI殺菌剤には、ピペラジン、ピリミジン、イミダゾール、トリアゾール、トリアゾリンチオンの5つの化学グループがあり、とりわけイミダゾールとトリアゾールには多数の有効成分がある。そのため、全ての有効成分を一度に紹介することができないので、DMI剤については、順次化学グループごとに紹介する。今回は、DMI殺菌剤1番目の化学グループであるピペラジンとそれに属する有効成分を紹介する。
[1]ピペラジン/トリホリン(サプロール)
(7)グループの特性:
卵菌類を除いた多くの糸状菌は、病原菌の細胞内でエルゴステロールまたは類縁のステロール類を合成し、そのステロール類は、細胞膜の強度を保ったり、物質透過性や各種の膜酵素の機能を発揮する際に重要な働きをする。このグループ[3]DMI殺菌剤は、このステロール類の生合成を阻害し、病原菌の細胞膜が十分な強度を保てなくなったり、膜酵素が機能しなくなったりりして、正常な生育ができなくなって死滅する。
うどんこ病などの子のう菌類や、さび病などの担子菌類、不完全菌類など幅広い病原糸状菌に効果を示し、強い浸透移行性によって優れた治療効果や耐雨性も発揮する。ミツバチなどの訪花昆虫への影響が少ないので開花期にも安心して使用できる。本グループでは、うどんこ病や黒星病などに耐性菌の発生が認められているので、同じグループの連用を避け、場合によっては保護殺菌剤との混合剤を使用するなど、耐性菌対策を万全に実施する必要がある。
(8)リスク換算係数とリスク換算量削減の考え方:
この化学グループに属するトリホリンのリスク換算係数は0.316で、基準年出荷量は0.5トンである。リスク換算係数も低く、出荷量も少ないことに加え、バラうどんこ病防除など特定分野で安定して使用される殺菌剤であることから、耐性菌対策に留意して使用を継続する方が得策である。
(9)ピペラジン剤の農薬登録がある主要病原菌一覧
ピペラジン剤の農薬登録がある主要作物・病害名・病原菌の一覧を次表に示した。これらは、ピペラジン剤を含む農薬が農薬登録を取得している作物・病害を整理したもので、本化学グループが活性を示す病原菌群を示したものである。実際の使用前には必ず農薬ラベルにて登録内容(作物・病害名)を確認して正しく使用するようにしてほしい。
【お詫びと訂正】
前号(No.299)の記述のうち、下記の部分(下線部)に誤記があったので訂正してお詫びする。
26.OSBPI(オキシステロール結合タンパク質阻害)殺菌剤
(6)化学グループ名/有効成分名(農薬名):
(誤)[1]OSBPI(オキシステロール結合タンパク質阻害)殺菌剤
/オキサチアピプロリン(ゾーベックエニケードOD)
(正)[1]ピペリジニルチアゾールイソキサゾリン/オキサチアピプロリン(ゾーベックエニケードOD)
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