流通:時の人話題の組織
【時の人 話題の組織】熊倉功夫・静岡文化芸術大学学長(日本食文化の世界無形遺産登録に向けた検討会会長) 日本の食文化を見直し継承するスタートに2013年12月19日
・日本料理の頂点・会席料理で検討
・商業主義はユネスコ精神に反する
・日本人全体で担っている「和食」
・和食の本質はご飯・漬物と一汁三菜
12月4日、アゼルバイジャン共和国のバクーで開催されていたユネスコ無形文化遺産保護条約「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表(代表一覧表)」への記載に関する審議(政府間委員会)で、日本が提案していた「和食:日本人の伝統的な食文化」について「記載(登録)」が決議された。
ユネスコへの提案内容を検討した「日本食文化の世界無形遺産登録に向けた検討会」(以下「検討会」)の会長を努められた熊倉功夫静岡文化芸術大学学長に検討会における経過などを聞いた。なお、熊倉学長は、「和食」のユネスコ無形文化遺産登録申請を契機に、和食文化を次世代へ継承するため、その価値を国民全体で共有する和食文化の保護・継承プロジェクトを展開している「『和食』文化の保護・継承国民会議(和食会議)の会長として活動されている。
「和食」がユネスコ
無形文化遺産登録
◆日本料理の頂点・会席料理で検討
検討会は平成23年7月5日に第1回会合が開催され、同年11月4日まで4回開催されている。
検討会に当初提案されていた「登録する日本食文化の内容」(骨子案)は、その名称が「会席料理を中心とした伝統をもつ特色ある独特の日本料理」となっており、「日本料理の洗練され、凝縮された形が、会席料理」とされていた。
その後も9月28日に開催された第3回検討会には、京都市内に拠点を置く日本料理店の店主や調理学校関係者らが設立した「日本料理アカデミー」と京都府が連名でユネスコへの「日本料理の登録名称を『日本の懐石料理』と定義」した「提案書」を提出し、会席料理が日本の食文化の頂点にあるという方向で検討が進められてきた。
そこには、日本の外食産業を中心に「日本料理をもっと世界に発信しよう」、そのことでビジネスチャンスをという発想があったといえる。
◆商業主義はユネスコ精神に反する
しかし、検討会を重ねながら「勉強するなかで、商業主義的な発想はユネスコ精神に反するものだということが、だんだんに分かってきた」と熊倉功夫学長。
例えば富士山の文化遺産登録においても「登録されればお客が集まるだろうという思惑があれば、それはユネスコの精神と反するわけです。ユネスコの考え方としては、富士山の環境をどう守るかが大事です」
「和食でいえば、日本人の食文化をどうやってこれから守っていくのか。守っていく義務がわれわれ日本人に課せられてくるわけです」
「そう考えると、初めは『日本料理』と考えていましたが、これは料理屋さんの肩を持つことになるのではないか。そういう意味で、特定の業種とか集団が利益を得るという印象がない」ものでなければいけないのではないかという発想の転換がされてくる。
◆日本人全体で担っている「和食」
そして「日本の伝統的な食を考えたときに、日本料理ではないとしたら何だろうかということになり『和食』が提案」された。
「『和食』は日本人全体が担っている食文化で、特定の集団とか、特定の技術者が保存しているのではない」こと。そしてユネスコの無形文化遺産の登録の傾向をみると、従来は「能楽といえば能楽協会に入っている能役者や能の音楽関係の人とか、紙漉きならば紙を漉く技術を持っている人たちとか、技術の継承者として誰か、あるいは集団を特定して、この人たちが技術を継承する人たちだと認定するのが文化財保護の考え方でしたが、最近のユネスコの考え方は、フランスの美食術のように国民全体が担い手だというように、特定の集団ではなく、広く社会慣習として継承されている」という方向に変わってきているのではないか、ということがわかってきた。
そこで登録の名称を「日本人全体が、日本人の伝統的な食文化を担っているんだという意味を込めて」、「和食:日本人の伝統的な食文化」とした。
ここに込められた検討会委員の思いは一言でいえば「和食の危機」つまり「日本人がいままで普段に食べていた家庭の食が、いま失われている」。この「衰退しつつある日本の伝統的な食文化を今後、どのように保護していくのかが、一番のポイントであり、目的」ということだ。そして「今回、ユネスコ無形文化遺産に登録されたことに、日本人自身が誇りを持ち、それをもう一度取り戻すチャンス」であり、「『和食』を見直し継承していくスタート」にしたいと考えている。
「保護というと昔のモノをそのまま守るんだと感じられますが、けしてそうではなく、日本人は昔から、その時代時代の新しい工夫を伝統に加えることで、次の世代に繋いできた歴史があります。『和食』をあまり固定的に考えずに、これを次の世代に繋いでいく工夫が必要だと思います」
◆和食の本質はご飯・漬物と汁とお菜
それでは次の世代に繋いでいく「和食」とは何か。
「『和食』の本質は、ご飯と漬物と汁そしてお菜から成る形が基本的な構造」だと熊倉学長は定義する。それを一言でまとめれば「ご飯と漬物と一汁三菜」ということになるが、ご飯と漬物は変わらないが「一汁三菜」は「変数」で「二汁五菜」でも「七菜」でもいいのだという。
「お菜が豚カツのように洋風なものでもいい」が、「和食」文化として大事なことは「ご飯を中心に、身の回りにある季節の氏素性がはっきりしたモノを、家族が一緒になって食べること」だと強調する。
ユネスコ無形文化遺産を日本人の伝統的な食文化である「和食」を見直し継承するチャンスとすることができるのかどうか、日本人の責任がいま問われているといえる。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(173)食料・農業・農村基本計画(15)目標等の設定の考え方2025年12月20日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(90)クロロニトリル【防除学習帖】第329回2025年12月20日 -
農薬の正しい使い方(63)除草剤の生理的選択性【今さら聞けない営農情報】第329回2025年12月20日 -
スーパーの米価 前週から10円上がり5kg4331円に 2週ぶりに価格上昇2025年12月19日 -
ナガエツルノゲイトウ防除、ドローンで鳥獣害対策 2025年農業技術10大ニュース(トピック1~5) 農水省2025年12月19日 -
ぶどう新品種「サニーハート」、海水から肥料原料を確保 2025年農業技術10大ニュース(トピック6~10) 農水省2025年12月19日 -
埼玉県幸手市とJA埼玉みずほ、JA全農が地域農業振興で協定締結2025年12月19日 -
国内最大級の園芸施設を設置 埼玉・幸手市で新規就農研修 全農2025年12月19日 -
【浜矩子が斬る! 日本経済】「経済関係に戦略性を持ち込むことなかれ」2025年12月19日 -
【農協時論】感性豊かに―知識プラス知恵 農的生活復権を 大日本報徳社社長 鷲山恭彦氏2025年12月19日 -
(466)なぜ多くのローカル・フードはローカリティ止まりなのか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月19日 -
福岡県産ブランドキウイフルーツ「博多甘熟娘」フェア 19日から開催 JA全農2025年12月19日 -
α世代の半数以上が農業を体験 農業は「社会の役に立つ」 JA共済連が調査結果公表2025年12月19日 -
「農・食の魅力を伝える」JAインスタコンテスト グランプリは、JAなごやとJA帯広大正2025年12月19日 -
農薬出荷数量は0.6%増、農薬出荷金額は5.5%増 2025年農薬年度出荷実績 クロップライフジャパン2025年12月19日 -
国内最多収品種「北陸193号」の収量性をさらに高めた次世代イネ系統を開発 国際農研2025年12月19日 -
酪農副産物の新たな可能性を探る「蒜山地域酪農拠点再構築コンソーシアム」設立2025年12月19日 -
有機農業セミナー第3弾「いま注目の菌根菌とその仲間たち」開催 農文協2025年12月19日 -
東京の多彩な食の魅力発信 東京都公式サイト「GO TOKYO Gourmet」公開2025年12月19日 -
岩手県滝沢市に「マルチハイブリッドシステム」世界で初めて導入 やまびこ2025年12月19日


































