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シリーズ:時の人話題の組織

2015.09.14 
石田 敦史・パルシステム生協連 代表理事 理事長 学び合い合意形成 農協と共に地域づくり一覧へ

・失敗しても自分たちで決める
・くらしの変化に対応できる仕組み
・共感することで商品を選択する
・多くの地域を不幸にするTPP

 今や生協の事業の柱となった「個配」を開発したパルシステム生協連の新理事長に6月に就任した石田敦史氏に、パルシステムの在り方やこれからなどについて聞いた。

◆失敗しても自分たちで決める

生協連・石田理事長 6月の総代会で専務理事から理事長に就任したが、「理事長は専務理事とは仕事の内容ががらっと変わるので、まだうまく切り替えができていません」という。専務理事の時は、事業の執行責任者なので、物流とか情報システムなどのインフラづくりや、会員生協に対して「こういう風にやりましょう」と提案し、新しいことを実現していくのが仕事だった。ところが理事長は、地域で活動する会員生協の共通の課題やグループとして取組む課題を引き出し、全体としての方向を方針化していくことが仕事で、多くの人に共感してもらうプロセスが大事だからだ。
 理事長として石田さんが大切にしていることは、「効率やスピードを犠牲にしても、組合員にとって何が大事かを考えること」だという。
 そして「生協とは何かと考えると、組合員・職員・仕事の依頼先・生産者・加工して納品してくれる人たちなど、さまざまな人たちがつながって、手を携えて何かを行い、学び合い、新しい発見や政治的な主張をトップの意思ではなく、みんなで発見し、"ああ、そうだね"となる...。自分で考え、どういう行動をとるべきかとなる。それが生協という組織の原点だと思います。それがいいと思う人が、商品も利用するわけです」
 つまり「事業が先ではなく、人が成長することが先」だという。最近は「事業ありき」の議論が多いが「地域で何をするかは、失敗しても自分たちで決めることで、誰か優れた人が決め、それに従って実行するのは協同組合ではない」。大事なことは「自分たちの地域で何が足りないのかを議論することで、誰か優れた人や中央が決めると損益が合わないから...」となってしまう危険性が高いからだ。
 そしてその時に「一人ひとりの組合員は違う。自分とは違う人がいることを認め、そのうえで、一緒にできることは何かと考えることの大切さ」を強調する。そして「合意できるところで合意していくのが民主主義であり、協同組合運営の基本は民主主義だから」とも。
 パルシステムは、社会や組合員のくらしの変化をみながらさまざまな仕組みを開発してきた。


◆くらしの変化に対応できる仕組み

 90年には、個配の実験供給を始める。当時は班中心の生協から、『個配は、生協を壊す』と批判されたが、いまや生協事業の重要な柱となっている。
 さらに、2001年にインターネット受注「オンラインパル」の運用を開始するとともに、組合員のライフステージに合わせたカタログを導入。14年には、若い人のライフスタイルに対応し、スマホで商品情報を提供し、スマホで受注するペーパーレスなサービス「タベソダ」を開始。今年には、高齢者のために、カタログに直接、注文数量などを記入できる「きなりセレクト」を始めた。
 パルシステムの成功をみて、大手量販店などで、ネットで注文を受け、宅配(個配)する事業を展開しているところが増えている。生協は週1回決まった曜日だが、毎日届けることで生協に勝てるとの見込みなのかもしれないが、採算面ではかなり苦しい。なぜか?
 それは仕組みの問題と組合員の意思の問題という2つの要素があるからだと石田さんはいう。
 まず仕組みだが、「週1回、決まった曜日に来るのは、多くの主婦にとってはその日が『生協の日』という生活のパターンとなり、けっこう使いやすい」からだ。
 意思の問題は「量販店のように何でも品揃えしているから好きなものを選べではダメで、組合員は生協の商品への思い入れや期待があり、自分たちに必要なものに絞り込まれているので選びやすいことや、商品の安全性を含めて信頼があることが強みなっている」ということだという。


◆共感することで商品を選択する

 さらに、「産直の時代は終わった」といわれていた2000年ころ、生産者ときちんとつながることが大事だと考え、産直にこだわってきた。「商品を選ぶのは、価格やおいしさという客観的な価値だけではない。どういう人が作っているのか、その人とどういう関係にあるのか、その生産者がどういう苦労をしているのかを知り、その生産者や農畜産物に"共感"することで、商品を選ぶ。だから産直が大事だ」というのが、パルシステムの考えであり、今日までその考え方は変わらない。
 「食と農を基本に協同の地域づくり」が2020年ビジョンのメインテーマとして掲げられている。これは「産地と協議して商品をつくり、それを組合員が利用することで、産地が、その地域が変わる。そのことで組合員が産地を理解し、さらに利用する」という好循環を創りだすということでもある。
 これは、農業だけではなく漁業や林業にもおよんでいるが、農業で一例をあげれば「飼料用米の利用を増やせば、耕作放棄地がなくなり、秋になればその田に豊かに稔った稲穂が揺れます。そういう景色への都市(組合員)の共感が生まれる。日本の景色や環境を守ることに協力をしていると共感してもらえる」。そのことで「生協の仕事をしていて良かったな」と実感できると石田さんは、嬉しそうに語る。


◆多くの地域を不幸にするTPP

 パルシステムグループの理念は「心豊かなくらしと共生する社会を創ります」だ。この理念に反することにははっきり異議を表明してきている。
 現在の日本の状況について「TPPや安保法制関連法案、原発問題などが同時多発的に起きている。これはどういう社会を創るのかという方向性を問う問題だ」と石田さんは指摘する。
 それが一番分かりやすいのは、TPP問題だとして、次のように話してくれた。
 「TPPは、参加国の市場を同一化することで、それは強いもの勝ちの社会をつくること。一番強いトップが総取りする社会をつくるということになり、地域で弱い商品は全部切り捨て、その代わりに外から商品を入れることになります」。
 「そこには低賃金化や失業が生まれ"TPPで幸せにつながるという価値観"はありません。多くの地域に不幸を生みますし、パルシステムの理念と正反対の社会ですから、TPPは絶対に反対です」と明快に言い切る。
 さらに、TPPで「一部の商品が輸出で伸びるでしょうが、それは一部の地域だけで、圧倒的多数は弱くなります。本来、地域は弱い人も包含し、昔から続く文化があります。地域ごとに成立っているそういう文化がなくなれば、どこもかしこも"東京の文化"になってしまう」。それは「日本を愛することにも、日本を守ることにもならないでしょう」と続けた。
 インタビューの最後に「農協は地域を代表する組織ですから、その組織とパルシステムがつながることで、お互いに生産者と生協組合員との橋渡しの役割を果たしていきたいです。そしてできれば新しい商品、とくに加工食品の開発などで協力することで、地域づくりに協力できれば嬉しいです」と語ってくれた。

(いしだ・あつし)
 1954年生まれ。74年東京南部生協入協。88年Eコープ(現・パルシステム東京と共同電算室を設立。92年首都圏コープ事業連合(現・パルシステム生協連)へ移籍、2002年執行役員、06年常務執行役員、11年専務理事、15年6月22日代表理事・理事長に就任。パルシステム静岡代表理事・理事長、パルシステム共済連代表理事・理事長、日本生協連常任理事、東京都生協連常務理事を兼務。

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