農作業安全指導で信頼強化 JAえちご上越2014年9月8日
25年度農作業危険箇所改善コンクール最優秀賞
JAグループや日本農村医学会など8団体で構成する全国農作業事故防止連絡協議会は、JAでの農作業安全のレベルアップと、組合員・JA役職員のモチベーションアップをめざし、平成25年度に初めて「農作業危険箇所改善コンクール」を実施。全国の先進事例10団体を表彰した。コンクール最優秀賞を受賞したJAえちご上越の取り組みを紹介する。
◆ひとつの事故が、組織の存亡につながる
JAえちご上越では平成21年3月、営農生活部内に担い手担当部署として新たに農業経営サポートセンターを設置した。同JAが本格的に農作業安全に取り組むきっかけとなったのは、このセンター設置直後の秋、立て続けに2件の大きな事故が発生したからだ。
1件は米の乾燥機の修理中に起きた落下事故だった。事故に遭った専業農家の男性は1カ月間意識不明の重体の後、意識は回復したものの車椅子生活を余儀なくされ、介護のため家族は仕事を退職せざるを得なくなった。2件目は法人での作業中に起きた草刈機による両足切断事故だった。
ひとつの事故が家族全体に影響を及ぼすだけでなく、働き盛りの担い手が離農すれば、集落営農組織の存続すらも危ぶまれる。
このことから、JAでは、農作業安全のための研修会や資格取得の促進、労災保険の加入促進、朝礼での意識啓発とマニュアル作成などさまざまな取り組みを、営農指導、農機、資材購買、広報といった各部門が連携して積極的に進めていった。
◆他産業からノウハウを学ぶ
法人での危機管理意識を高めるために、JAでは「安全衛生管理者を置く」、「朝礼を実施する」といった他産業で事故を減らしたノウハウを、労働基準監督署や社会保険労務士からの指導のもと取り入れた。朝礼を実施しやすくするための「安全作業マニュアル」も1年がかりで作成。25年3月から活用を呼びかけている。
組織内での安全教育の徹底を図るために行った農作業安全管理者研修では、朝礼の実施、作業計画づくり、作業環境の点検や危険箇所の改善、安全用具の着用などを指導している。農閑期の冬場に計3回開催し、3回とも出席した人に修了証を交付した。22?24年の3年間で修了者は240人になり、25年度には修了者を対象にしたフォローアップ研修も行うなど、安全作業に対する意識の継続にも注力している。
そのほか、大特、牽引、刈払機、チェーンソーなど特殊免許を取得するための講習会も実施。25年度までに刈払機で574人、チェーンソーで93人が資格を取得した。
(写真)
農作業安全管理者フォロー研修での農業機械安全使用の指導のようす
◆重症事故防ぐため、中山間地対策
研修会に参加したある組合員は「これまで農作業安全の意識がない中で作業していた。研修をうけて、労働者をもつ事業主としての責任の重さを痛感した」として、朝礼で作業計画と安全対策、終礼でヒヤリハット報告をするよう改善したという。そのほか、「事故事例の研修会で、危険性がよくわかった」「農道環境の整備が必要だと感じた」など、研修の成果は多数報告されている。
また、JAが農作業安全対策を進めたことで、「法人や農家とJAとの信頼関係が高まってきた」(農業経営サポートセンター)と、組合員との結びつき強化にもつながった。
労災保険の加入者も年々のびている。取り組み本格化前の20年には、個人84人が加入するのみだったが、25年には2475件に増えた。とくに法人組織や、その労働者の加入が進んでおり、法人組織では管内約150のうち130ほどがすでに労災に加入している(26年8月現在)。
これについてサポートセンターでは、「労災加入が目的ではなく、安全対策が目的。農作業安全研修会や資格取得を勧めることで、徐々に保険加入が増えた」と、安全作業の意識啓発を徹底した成果の一つとして労災加入が増えたと分析している。
JAでは、安全対策のさらなる取り組みとして、今後は、より重症事故になるケースの多い中山間地での事故対策を強化していく考えだ。すでに25年度から大学などの協力を得て、農業土木の観点から農道や乗り入れ口の環境調査を行っている。これからは、これらの環境と事故との関連性を調べ、研修会などで報告していくことにしている。
(写真)
危険箇所としてほ場への乗り入れ口を改善した

◇
「農作業危険箇所改善コンクール」は、農水省を主催に加えて26年度も開催される。12月1日?19日まで応募を受付け、来年1月26日に結果発表と表彰式を行う予定だ。
JA全中では、農作業事故防止の優れた取り組みを全国に広げるためにも、幅広く事例を募集している。
(関連記事)
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