TPPには無理がある2014年3月10日
米価の下落が続いている。米の在庫量は高水準を続けている。先週末に発表された農水省の資料によれば、下の図のとおりである。
米をめぐる状況が先行き不透明だからである。TPPのゆくえが見えないし、減反政策の見直しの影響がどれ程になるかが見えないからである。
こうした中で、いま米政策は歴史的な転換点を迎えようとしている。

上の図のように、米価がだらだらと下がっている。在庫量は1月にしては、ここ数年来の高い水準にある。市場は、TPPがどうなるか、減反がどうなるか、かたずを飲んで見守っている。
◇
TPPには、もともと無理がある。日本のような東アジアの農業と、アメリカやオーストラリア、ニュージーランドなど新大陸の農業とで競争することに無理がある。ことに大規模ほど有利な土地利用型農業では無理がある。
東アジアと新大陸とでは、経営規模に隔絶した差がある。それが土地利用型農業の競争力を決めている。
経営規模に差があるのは、歴史の差が原因であって、政策が不適切だったからでもないし、農業者の努力が足りなかったからでもない。
◇
新大陸には、500年前に西欧文明が「発見」したとき、「持ち主のいない土地」が無限といっていいほどに広がっていた。だから農業経営の規模をどれほど大きくすることもできた。
500年前に発見したというが、しかし、それ以前にも大陸はあった。そこには原住民が広い土地で狩猟採集生活を営んでいた。
土地の持ち主がいなかった訳ではない。この土地に生息している動物は、この部族が獲っていい、という土地にたいする権利は決まっていた。つまり、土地の所有権者はいた。ただ所有権が部族にあって個人に所有権がなかった、というにすぎなかった。
そこを西洋人たちは曲解して、無所有地とし、だから発見者の所有になるという西欧法をおしつけて、原住民の土地を法律的に、つまり暴力的に奪い取って、原住民を追い払ってしまった。こうした非人間的な恥ずべき歴史のうえに新大陸の今があり、新大陸農業のいまがある。この歴史的事実は否定もできないし、変えられもしない。
◇
東アジアには、こうした歴史はない。例外的に狩猟採集民族であるアイヌ民族と、農耕民族である大和民族とのあいだに、新大陸と同じような、反省すべき歴史があった。だが、これは例外といっていい。
東アジアでは、共同体のなか、限られた土地で、最大限の数の家族員が生活できるような農業を営んできた。新しい農地を開拓できれば、規模を拡大するのではなく、家族員を増やした。だから小規模農業がつづいてきた。その上、稲作は土地生産力が高いという事情もかさなって、いまでも小規模な農業がつづいている。
こうして新大陸との間の規模の違いが、機械化農業になると、国際競争力に決定的な違いをもたらした。
◇
日本や韓国などは、経済が発展していて、労働力の価値が高く、機械化農業になっているが、小規模農業なので、国際競争力がない。
しかし、同じ東アジアでも、ベトナムやタイや中国など、経済が発展途上の国で、労働力の価値が小さいときは、農業の機械化が進まず、低賃金を武器にして、大規模機械化農業と競争できた。ベトナムやタイや中国などの米は、今のところ低賃金を武器にしていて、新大陸の機械化稲作の米よりも国際競争力が、むしろ強い。
だが、これらの国も経済発展によって機械化農業になるだろう。そうなると、規模の小ささがそのまま国際競争力の弱さになり、やがて国際競争力を失うだろう。
◇
このような、各国の農業の歴史を無視したTPPの自由貿易論には無理がある。
無理やり大規模化して競争しようというのなら、歴史の経験を悪用し、恥を捨てて「原住民」である今の農業者を追い払い、その土地を奪い取るしかない。
だが、そんなことがいまの日本で、できる筈がない。そんなことをしたら、食糧供給の責任感に燃えた農業者たちが、鉄槌を下すだろう。それを大多数の国民が支持するだろう。
注意しなければならないのは、TPPとともに、いま政府が農政改革の中核に据えようとしている「農地中間管理機構」である。これは小規模農家の土地を奪い取る機構になる歴史的性格をもっている。それを財界が虎視眈々と狙っている。
(前回 地方経済の復興は農業振興から)
(前々回 TPP、日本政府の本音と誤り)
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