東アジア稲作構造の展望2014年3月17日
水田農業が歴史的な転換点を迎えようとしている。それは、日本の稲作の新しい展開に止まらず、東アジアの稲作構造の新たな展望を切り拓くものになるかもしれない。だが、他国が見習ってはならない反面教師になるかもしれない。
今年は、くしくも国連で決めた国際家族農業年である。FAOのジョセ・グラジアノ・ダ・シルバ事務局長は「家族農業以外に持続可能な食料生産のパラダイムに近い存在はない」とまで言っている。
今年から始める政府の新しい農政は、この考えを真っ向から否定するものに思える。つまり、家族農業を否定して企業に農業をゆだねる考えである。政府のこの考えを東アジア、いや世界の人びとは受け入れないだろう。
その一方で、新しい農政は水田の高度な生産力を利用した飼料生産を目指している。この点は、飼料の生産基盤を持たない東アジアから、将来の農業構造の展望として、期待をこめて注目されるだろう。飼料生産の拡大は東アジア農業の今後の歴史に課せられた重要な課題なのである。
東アジアの稲作は、今後、新大陸やヨーロッパの穀作とは全く違った様相で展開するだろう。
新大陸のアメリカやオーストラリアでは、農業の歴史が始まって以来、広大な土地を利用し、土地生産力を軽視した機械化による大規模な穀作を展開してきた。
これに対して東アジアはどうか。
東アジアでは、豊富な労働力を利用し、労働生産力を軽視し、土地生産力を重視した小規模な家族労作経営を続けてきた。それは、労働力を多投した、土地生産力の高い効率的な農業だった。
しかし、経済が発展するにつれて労働の価値が高まる。その結果、労働の生産力を重視する省力的な機械化農業を追及するようになる。そうなると、小規模経営での機械利用の非効率性が農業発展の桎梏になる。
この桎梏をどのように克服するか。この問題が東アジアに共通した歴史的な課題になる。その先頭に日本や韓国が立っていて、やがて東アジアの各国が、それに続こうとしている。
◇
こうした東アジア農業の課題に照らして、政府の新しい農政をみてみよう。3つの点を取り上げる。
1つめは、飼料生産の振興である。この点は高く評価できる。
日本の畜産は、輸入した外国の穀物を加工して畜産物にする加工業だ、という悪評を浴びてきた。畜産物の消費が増えるにつれて、食糧自給率を下げ、食糧安保を危うくしてきた。その主因は飼料の大量輸入だった。新しい農政は、ここから脱却しようというのである。
政府は、飼料としての米には450万トンの潜在需要量があるといっている。それを顕在化すれば、輸入飼料を450万トン減らせる。そうなれば、穀物の国内自給率は現在の29%から42%へと大幅に向上できる。
飼料米を毎年8万トンづつ増やすなどという、いまの政策ではなく、早急に450万トンの米の飼料化を計る意欲的な政策が期待される。
この政策は、農業者だけでなく、食糧安保をねがう大多数の国民から支持されるだろう。
◇
2つめは、経営の大規模化である。そうして機械利用の効率化を計る、というのである。それはいいのだが、詳しくみると問題がある。
行政が主導して、小規模農家、つまり、高齢農家や兼業農家の農地を集めて大規模化する、という。しかもその農地で企業が農業を経営するという。ここに問題がある。誰が生産を主導するか、が問題である。そのとき、農地を取り上げられた小規模農家はどうするのか。
小規模農家に対して農業からいっさい手を引け、というのなら、それは棄民政策である。そんなことは受け入れられない。
大規模農企業で働け、というのなら、それはFAOの事務局長の家族農業を重視する主張を否定することになる。
生産手段、ここでは農地だが、生産手段の支配者が生産を支配する、というのが経済の鉄則である。
株主などの出資者に任されて農地を支配する経営者が、生産を支配し、その指揮・監督の下で、高齢者は単純な労働者になってしまう。だが、単純労働者は生き物を育てることができない。それが、いままでの世界の経験である。
この点にどう対処するか。新しい農政の成否は、ここにかかっている。東アジアの人たちが、かたずを飲んで見守っている。
高齢者や兼業者が、生産過程の全部でなくてもいい、一部でもいい、そこで高齢者が、これまでの長い間の経験を生かして、活きいきと生産の指揮・監督にたずさわれるか。
◇
3つめは、再生産の確保である。政治の支援がなくて農産物の再生産はできない。このことは、世界の先進国に例外がない。そのための生産費の補償は不可欠である。
いままでは、戸別所得補償制度のもとで、不十分ではあるが生産費を補償して再生産を確保してきた。
新しい農政は、この制度を5年後に廃止するという。ここに最大の欠陥がある。
この政策を見直さないかぎり、新しい農政は失敗に終わるだろう。それは食糧安保の放棄に直結するからである。
TPPに加盟すれば、なんとかなるだろう、などという考えは論外である。
(前回 TPPには無理がある)
(前々回 地方経済の復興は農業振興から)
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