トランプ報道にみる民主主義の危機2017年2月6日
トランプ政治についての報道が、連日マスコミをにぎわせている。その主な内容は、トランプ政治は反人道的で反知性的だ、という点を強調し、それを攻撃するものである。
その一方で、一部のマスコミは、そのトランプ政治を多くのアメリカ国民が支持している、という世論調査の結果を伝えている。そうして、多くのマスコミを混乱させている。
いったいマスコミは、どうなっているのか。多くの国民が支持しているトランプを反知性的といって、断罪しているが、なぜ、反知性的と断ずるトランプを多くの国民が支持しているのか、についての分析や評論が全くない。これでは、マスコミの知性が疑われる。
マスコミは、かつては民主主義の守護神といわれてきた。しかし、いまは主権者である国民の多くがおかれている状態を見ようとしない。そうして、トランプ政治の非人道性と、反トランプの抗議集会が、あちこちで開かれていることだけを報じている。
アメリカ民主主義の危機は、こうしたマスコミの知性の退廃に、その原因がある。
上の図は、ロイター通信が発表したもので、トランプが発令した、イスラム圏の7か国からの入国を制限する大統領令について世論調査をした、その結果である。
この結果をみると、トランプの大統領令による入国制限に賛成する回答が49%で、反対する回答の41%より多かった。ことに議会の上下院で多数を占める共和党の支持者をみると、圧倒的多数の82%の人が、トランプの入国制限令に賛成している。
多くのマスコミにとって、この調査結果は予想外のことだったようだが、鈍感にも、うろたえている様子はみえない。
◇
ここで筆者が言いたいことは、だから多数の世論に従って、入国制限令に賛成せよ、ということではない。逆に、筆者はこの粗雑な入国制限令に反対する。ここで言いたいことは、マスコミの粗雑さ、である。
マスコミは、なぜ多くのアメリカ国民が、この非人道的でもある入国制限に賛成しているか、という分析をしないのか。賛成している人たちに目を向けないのか。
いったい、このような劇場的なトランプ政治に、多くのアメリカ国民が惹きつけられて、非人道的な政治に賛成しているのはなぜか。
◇
それは、アメリカの雇用状態の深刻さにある。
では、なぜ雇用状態が深刻になったのか。それは、これまで安定して働いていた労働者が、市場原理主義に基づくグローバル化の政治を真の原因にして、大量に解雇されたことにある。それを真の原因にして、中間層を貧困化し、経済格差を拡大し、それだけでなく、教育を破壊し、テロと犯罪と薬物を蔓延させてきた。
この真の原因に、マスコミは目をつむり、移民を大量に受け入れたことが原因になって、労働者が過剰になったとする。だが、それは、表面的な原因にすぎない。この表面的な原因で、社会が不安定になったと考えている。マスコミは、こうした浅薄な認識のもとで、多くの国民がトランプの入国制限令に賛成するのだろう、と考えている。
マスコミが社会の公器だといわれたいのなら、雇用問題の真の原因である市場原理主義政治にまでさかのぼって、鋭く、そして深く報じなければならない。だが、そうしない。
◇
もう1つ、つけ加えよう。それは移民の多くが、中東からの難民で占めていることである。
トランプが難民を受け入れないことを、マスコミは非人道的と非難するのだが、そこで思考を停止し、それだけで終わってしまう。そして、難民がなぜ生まれるのか、という根本的な原因については何も考えない。
だから、難民を発生させないための根本的な方法について、トランプがどんな政策を用意し、それが妥当なものかどうかについて、全く何も言わない。だから浅薄といわれてもしかたがない。
◇
トランプは常時、核戦争を始めるボタンを、身近においている。それだけに、われわれも常時トランプ政治を、深層にまで掘り下げて、厳しく監視しておかねばならない。それは、マスコミにとっても重大な社会的使命である。
最後にひと言。昨日の東京の区長選で、小池百合子知事が支援する候補が、自民推薦の候補に圧勝した。首都東京でも新しい政治の奔流が始まった。この奔流は、やがて農村でも荒れ狂うだろう。
(2017.02.06)
図の資料は...ココ
(前回 トランプの就任演説にみる危うさ)
(前々回 トランプ演説にみる国民統合と分断)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日