衆院農水委で論戦 米価引き下げ一辺倒に危惧も 増産と補償「熟議の焦点」に2025年5月30日
5月28日、衆議院農林水産委員会で小泉進次郎農相の所信に対する質疑が行われた。立憲民主党、国民民主党、日本維新の会は党首級が登場し、注目を集める中、随意契約を使った米価引き下げ策をめぐって多角的な論戦が繰り広げられ、今後の増産に伴うセーフティネットのあり方が議論の焦点に浮かんだ。
衆議院農林水産委員会に出席し与野党議員の質問に答える小泉進次郎農相(5月28日)
同日の衆院農水委では、小泉農相肝入りの「随意契約での備蓄米放出」を中心に米政策に質問が集中した。野党3党は党首クラスを投入し、関心の高さがうかがえた。
バナナの叩き売りじゃない
立憲民主党の野田佳彦代表は、「5月21日の党首討論で(石破)総理が米の適正価格について(精米5キロ)3000円台とおっしゃった。これも驚いたが、たちまち小泉農相は2000円程度と。バナナの叩き売りじゃない。気合はわかるがそれが適正価格か。消費者は安いほどいいが、一方で生産者にとっても適正価格は何なのかと農政はバランス良く考えるべきだ」と「引き下げ一辺倒」への危惧を述べた。
小泉農相は「石破総理が3000円台と言っているのは、今4200円の(精米の店頭小売価格の)全国平均だ。私が言っているのは備蓄米で、古い備蓄米を卸していく価格としては適正だと思う。高すぎるマーケットを安定した方向に下げていくことで、消費者の米離れを防ぎたい」と持論を述べた。
「2000円台では生産者はやっていけない」農相認める
国民民主党の玉木雄一郎代表が適正価格を問うと、小泉農相は「一番いいのは(精米5キロ)4000円であっても消費者のみなさんが不安なく買えるような日本経済を作っていくこと」とかわしたが、玉木代表は「主食用米は5キロ2000円台だとさすがにまずいと思うか」と重ねて質問。小泉農相は「2000円ではやっていけないというのが生産者の思いであると思う」と認めた上で、「(高騰した米価を)1回落ち着かせることで、農家さんの努力が報われる価格はどこなのか、消費者も含め一緒にご理解いただく契機にしなければいけない」とした。
困っている現場に届くのか
日本維新の会の前原誠司共同代表は、24年産の銘柄米、競争入札で放出した備蓄米、随意契約で放出した備蓄米と分かれた価格が「下がった形で一元化するのか」と質した。小泉農相は「ブランド米と古米、古古米、古古古米、同じ価値があるものではない。ただ安く買いたい方に選択肢を増やすことで、高止まりしている米価が落ち着いていく状況を作りたい」とした。
前原氏は「備蓄米は全国民に行き渡るか。随意契約で安値で出すなら、学校給食とか病院、介護施設、子ども食堂といった配慮されるべきところに優先して渡すべきではないか」とも質問。小泉農相は「北海道から沖縄まで、同時同量で行き渡るということはない。今回スピードを重視した。次の随意契約では町のお米屋さん、中小スーパーを対象にする」とし、「無償交付ができる範囲は法律上限定されている」としつつ、学校給食への配慮やフードバンクなどへの無償交付実施にふれた。
「増産と所得補償こそ」「すべてテーブルに乗せる」
増産への転換と米作りへのセーフティネットについても議論が交わされた。
玉木代表が「減反はやめたが主食用米の生産を絞っていく政策を続けたことが、米の不足、米の高止まりの遠因になっている。国が価格政策からは手を引き、値段の低下に対しては直接所得を補償していく(べきではないか)。国がプライスに関与しててんやわんやになっていること自体、資本主義じゃない」と指摘すると、小泉農相は「今玉木代表が話したような思いを持ち続ける総理ともよく話しながら、令和9年にむけて米政策を変えていく」と応じた。
玉木代表が「増産と所得補償、同時にメッセージを出すことが米高騰の解決策になる」と迫ると、小泉農相は「(基本計画の)KPIでも(米の生産目標を)800万トン台で出している。どう支えるか、セーフティネットが問題になる。(野党が提案する)直接支払い、別の支え方、すべて(議論の)テーブルに乗せた上で(解を)見出していかなければならない」と述べた。
増産に伴うセーフティネット
セーフティネットをめぐっては野田代表も「旧民主党政権下で戸別所得補償を導入した時、(小泉)大臣は厳しい評価だった。でも大臣は、米は作りたい人がもっと作っていいというお立場ではないか。国内需要を超えて生産すると米価が生産コストを割り込む懸念が出てくる。そういう時に米のトリガーを発動して主食用米を販売する生産者に交付金を出す直接支払制度を(立憲民主党は)提案している。ご見解を」と提案型の質問。小泉農相は「方向性として私は、意欲ある方にお米を作っていただきたいと思っている」と認めた上で「中長期のことも政府をあげて検討したい」とした。
随意契約は「例外」、「出口」どこに
公明党の角田秀穂議員は「国の財産売り渡しは競争入札が原則だ。随意契約は例外的な措置である以上、いつまで行うのか。流通量や小売価格がどの程度になったら、どれだけ続いたら原則に戻すのか」と「出口」について問うた。小泉農相は「まず米の高騰を抑え、これからも消費者のみなさんが安心してお米を買ってくれる、そういうところに早くもっていきたい」とした。
与党から「信念がない」との指摘も
自民党の鈴木貴子議員は「(米の)価格に対して政治がそこまで言う必要があったのか。今の石破政権に私は、目先の対応はあっても中長期的な食料安全保障に対しての信念がないと、非常に残念に思っている」と痛烈な指摘。小泉農相は「生産者、消費者に加え、いまマーケットと向き合っている。......こちらが断固たる決意で安定した価格に落ち着かせていくということも兼ね備えたメッセージを発信しなければ今の局面は変えられないという判断もあって、こういった説明をしている」と答えた。
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