農業のあらゆる分野をコーディネートするF-TACへ2017年11月22日
・農業の喫緊の課題「事業承継」にTACが取り組む
今年で10回目を迎えた「TACパワーアップ大会2017」は、既報のように11月16、17日に新横浜プリンスホテルで開催された。今年の大会では、初めて特別表彰として「事業承継部門」が設けられ、JA岩手ふるさととJAしまねが受賞した。また、神出元一全農理事長は、TACがさらに進化し農業のあらゆる分野をコーディネートするよう呼びかけた。これらを中心に、今回のTACパワーアップ大会を振り返ってみる。
(写真)大会宣言する中江さん
◆進化し続けるTACに-神出理事長
大会では、長澤豊全農会長のあいさつなどに続いて、神出元一全農理事長が「TAC活動10年間の成果と更なる飛躍に向けて」と題して基調講演を行った。
神出理事長は、現在のJAを取り巻く環境の変化とそのなかでのTAC活動の10年を振り返り、現在のTACは▽担い手だけではなく地域に貢献、▽担い手の手取り最大化の取り組み開始、▽JA提案型の担い手の総合経営支援を開始するなど「飛躍期」にあると位置づけいくつかの具体的な事例を紹介。そのうえで、▽生産者手取りの最大化を目指した購買事業、販売事業の実施、▽合理化・効率化をすすめ重点施策分野へ経営資源を集中している全農の具体的な取り組みを紹介し、「新たな営業拠点『営業開発部』」を設置。チームMDによるバリューチェーンを構築し付加価値を提供するなど、全農グループ販売6社の機能を融合した直販事業の拡大をしていくと述べた。
そして、年間70万件の担い手面談情報がTACシステムに蓄積されているので、このビッグデータをJA事業に反映する仕組み構築や労働力支援の取り組みを通じて、農業のあらゆる分野をコーディネートする「F-TAC」(Fixer-TAC)(仮称)へ進化するよう呼びかけた。
◆TACが先駆けとなり農業の課題に挑戦を―戸井チーフオフィサー
全農「営業開発部」を立ち上げるなど、いままでにない営業活動を展開する中心人物として注目を集めている戸井和久チーフオフィサーも、「生販バリューチェーンに向けて―TAC活動に期待すること―」と題して基調講演した。
戸井チーフオフィサーは、2010年には普及率が僅か9.7%だったスマホが16年には71.8%までに普及しているなどのデータを示し、世の中が大きく変化していること。生産年齢人口が圧倒的に不足していることや食の志向が変化しているなど、農業を取り巻く社会的環境も変化、そうした時代の趨勢に対応して小売・流通業界も変動していると語った。
そして、そうした社会の変化のなかで、TACの活動は「現場に入り込んで数多くの意見を拾い上げ、フィードバックしている。現場の重要さを活かした非常に意義のある活動」と評価。そのうえで「今は購買事業のヒヤリングが中心と思われるが、生産者は一方で消費者でもあるので、生産者は実はもっといろいろなニーズを抱えているはず」なので、そうしたニーズも大切にして欲しいと希望した。
そして「JAグループとして一丸となって日本の農業の課題に取り組んでいかなければいけないタイミングであり、TACがその先駆けになって欲しい」と結んだ。
◆次世代に生産基盤を引き継ぐ―事業承継で表彰
今年新設された「特別部門」(事業承継部門)では、JA岩手ふるさと、JAしまねの2JAが表彰された。
担い手農家の高齢化がすすむなかで、後継者へ農業基盤を引き継ぎ、国産農畜産物の生産量を維持するためには、事業承継は極めて重要な課題だと考え、TAC活動の大きな柱として取り組みが始まっている。
JA岩手ふるさとでは、水稲は集落営農法人が設立され事業継続の受け皿が整備されていること、園芸農家の場合は平成17年から実施している農業マスター制度の研修や国の支援で新規就農者が増加し生産基盤が維持できており、事業承継の優先順位が低いことから、29年度は喫緊の課題となっている畜産農家の事業承継を重点的に支援していくことにした。
具体的には、黒毛和牛肥育農家の81歳の経営者と55歳の後継者(娘婿)の事業承継について、相続で事業を承継すると多大な相続税が発生するので、税務対策の重要性を強く認識した対応を協議し、後継者を代表とする法人を設立し。棚卸資産を圧縮し相続税を減少して事業承継した事例が報告された。同JAではこれ以外でも3件の個別相談会を実施し、課題解決への支援を行っている。
JAしまねでは、基本は農家組合員すべてを対象とするが、積極的にアプローチする対象として▽TAC訪問先に選定する担い手農家▽JAしまね青年組織協議会盟友▽集落営農組織▽後継者不在の担い手経営体を設定。
「兄弟で引き継ぐ―親子間での話し合いのきっかけづくり」(JA青年連盟盟友)。「構成員の世代交代―各世帯で集落営農を考えるきっかけづくり」。「世代間の意識の差をうめる―若手構成員が考えるきっかけに」などに取組んできた。担い手からは▽本音や今後の農業経営について議論ができる場ができた▽計画的な引継ぎによる経営の一貫性が保持できる▽集落営農の1世帯複数組合員化などを評価する声があがっている。また経営者・親からも「計画を事業承継ブックに落とし込むことにより、引き継ぐ側・引き継がれる側の認識を同じにできた」と評価する声が上がっているという。
そして事業承継には「部門間連携が不可欠であり、事業承継支援はJAの総合力の発揮そのもので、これができなければ総合力の発揮はできない」とし、JA自己改革の一つとしてTACから取り組みをスタートしようと呼びかけている。
◆創造的自己改革の一環として新たな方向性を
大会はJA岡山市の中江智子さんの発声で(写真=ページ上)
JAグループ創造的自己改革の一環として
1.TACの原点を踏まえ、新たな方向性を見出します。
1.JAグループ内外に認められるTACを目指します。
1.TACが起点となったJAグループの総合力発揮で、次世代に農業をつなぎます。
という大会宣言を、全員一致で宣言した。
(関連記事)
・TACパワーアップ大会開催(17.11.16)
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