JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
【意見交換】資材価格の引き下げ 販売増と規模拡大へ2018年7月24日
・農家の立場に立った事業推進
6月に開いた第19回セミナーで報告のあったJA全農の生産資材価格の引き下げは参加者の関心を集め、意見交換では活発な発言がありました。特に資材価格低減だけでなく、それを規模拡大や経営改善に生かす方策が必要だとの意見が聞かれました。またJA水戸による、商系との資材店の共同運営は、全国でも例がなく、新しいビジネスモデルとして注目されました。意見交換の内容と、JA魚沼みなみの米販売戦略の報告を紹介します。
【肥料・農薬事業の取り組み】
【竹内】農薬の担い手直送規格は大規模農家から高く評価されています。しかし、荷姿についてドラムが大きく硬いため、処分が大変だという声を聞きます。使用後の回収を含めた検討をお願いしたい。そして、ジェネリック農薬については、今後増えていくのか。その開発状況、先行剤との価格差がなくなってきていることについてお聞かせください。
【引屋敷】担い手直送規格の包材の処分については多くのご意見をいただいています。特に、GAPの取り組みをしている法人などでは、その処分が要件の一つになっていることもあります。どのような荷姿がいいか(どのような工夫ができるか)検討をしているところです。ジェネリック農薬は、まず一剤についてパートナーと開発に着手しています。各種試験、申請から登録までに時間を要するため、販売は早くても5年後になるでしょう。価格については、既に上市しているジェネリック農薬でみると、先行剤も値下げしてきており、現状では価格差がない状況です。
しかし、われわれが取り組んだことにより、先行剤の価格が下がったとも言えるのではないでしょうか。農薬取締法改正後、生産現場で求められているものを見極め、次にどの剤に取り組むのかを検討していきたい。登録までにかかる費用が削減できれば、より開発に着手しやすくなり、価格にも反映できると考えています。
【福間】全体の組合員渡し価格の引き下げ状況はどうなっているのですか。
【引屋敷】自己改革の取り組みは、最終的に生産者の評価が決め手になります。組合員価格がどうなっているか、今後その点について、フォローをしていきます。また、生産者の皆様の声を新聞に取り上げる取り組みも行なっています。
【萬代】全農は世界規模で肥料原料の安定供給、品質管理などに取り組んでいるが、その役割については農家に理解されていない面があり、もっとアピールするべきです。また、取り組みの成果もしっかり説明していただきたい。
【白石】肥料は土壌診断が基本になります。北海道のJAでは、土壌診断に基づいて農家に資材を選んでもらうなどの仕組みがとられています。このように、部門間で連携をとっていくことが重要だと思いますが、この点はどのように認識していますか。
【引屋敷】ご指摘のように、今後はTAC、農業機械など他部門と連携し、ドローンの普及やIOTの活用などの環境変化に対応し、農家の立場に立った事業推進に取り組むことが重要だと考えています。
(写真)意見交換するセミナー報告者
【アイアグリとJAの共同店】
【福間】全国的にもJAと商系の共同店舗は例がないと思いますが、ほかに同じような事業展開をしているところはあるのですか。また、JAの足りない点はどういうところでしょうか。
【木村】こうした共同店舗はJA水戸だけですが、JAとの連携の取り組みは高知や徳島県で行っています。これまでの私どもの経験から、店舗展開で大事なことは「魂」(たましい)ではないかと思います。ただ店を出せばいいというものではなく、人が大切で、魂を入れないと成功しません。
【小倉】商系との価格差、商品知識の習得、土壌診断の費用、検査項目、期間などについて聞きたい。
【木村】農薬の価格はJAの方が安い。ご存知ない人が多いようですが、農協改革の中で、特に水稲農薬は銘柄の集約や担い手直送規格でかなり安くなっています。「農家の店しんしん」における商品知識の習得は、ベテラン店長を中心に、社員の勉強会を行って知識の習得に努めています。土壌診断は1検体当たり1080円で、コストの面で頑張っています。1週間程度で結果が分かります。ここがポイントですが、結果を知るためには、利用者に店舗まで来ていただいています。こちらからは出向くことはありません。
【植木】JAとしては農家へのサービスに徹したいと思っています。近くに民間のホームセンターができたので、それへの対応という意味もありました。
【木村】店舗名が「農家の店しんしん」のため、勘違いする人もいますが、非農家の皆さんを含めて利用されることを期待しています。開店後の状況ですが、開店して初めての春を迎え、野菜苗など品揃えを準備し多くの来店客を期待しましたが、天候不順もあり、あまりふるいませんでした。開店時には、一般家庭のお客さんも多く来ていただきました。
【竹下】店内には「米の契約栽培募集」の幟(のぼり)が見えますが、その場合、生産者が契約するのはJAですか、「農家の店しんしん」ですか。また、JA水戸のような形での鹿児島への出店計画があると聞いていますが。
【木村】契約栽培は、JAと当社がそれぞれでやっています。鹿児島は10念前から商品供給を行っています、当時は商品契約だけでしたが、JAとの取り組みは前向きに考えているので、提携の要望があれば取り組みを協議する準備があります。
【藤井】アイアグリの木村社長の話に、JAは魂の入った仕事のやり方ができていないという指摘がありましたが、どういう意味でしょうか。
【根本】この分野で一人前になるには10年はかかります。しかしJAの場合3年ぐらいで異動になります。魂が入るというのは、本当に利用者に喜ばれるには、どうするべきかということ、つまり農家の目線に立った活動を徹底するということです。
【白石】各部署の活性化を持続することは、組合員との関係が持続できるかということだと思います。この点で他の部門への異動が多い農協の弱いところかも知れません。
【西岡・田中・福間】JA水戸とアイアグリの共同店舗のメリットや仕組みはどうなっていますか。
【植木】総合JAとしての相乗効果や最終的には農家のメリット向上です。
【真野】運営はいろいろな面でJAと相談し、共同でやっています。アイアグリとしては、ダイレクトメールやチラシの配布など販促手法についてノウハウを持っているので、そうしたものを提供しています。
【根本】ジェネネリック農薬の販売について、JAからは二つの反応がある。面白いから使ってみようというという見方。もう一つは安いだけではという警戒感。ポイントは、ちゃんとした説明ができることが重要です。いくら拒絶しても農家は安くていいものを選ぶ。量質兼備でやっていくことです。
【長谷】生産資材について、農家規模の対象はどう考えているか。アイアグリの通販実績は。
【真野・根本】通販の実績は20億円で、年に110%伸びています。
【農業機械の取り組み】
【白石】農作業事故で圧倒的に多いのは農業機械によるものです。原因は多様ですが、農業機械というハードの面からどのような配慮をしていますか。また、北海道などでは、農機の見本市での見聞によって農機メーカーとの交渉が行われるなど、グローバルな展開が行われているようですが、この点の取り組みについてはどうですか。
【冨田】農作業の安全性・作業性の面から、オートマチック機能やキャビン付き形式の採用など様々な面で改善しています。また乗り心地や振動、騒音対策にも配慮しています。
海外展開などを見据えた見本市については、水稲などはアジア市場が中心になるでしょう。また規制改革推進会議では、韓国に比べて農業機械は5倍するなどと極端な議論がありましたが、北海道はともかく、本州以西では部品対応や国内修理の面から、国内メーカーとの連携が重要となると考えています。
このため、国内農機メーカー4社との間で標準化・簡易化・コスト低減などを進めています。またトラクターなど、国内需要が減る中で輸出が伸びている機種があり、こうした輸出効果を国内に還元できないか、検討しています。コンバインのシェアリースは、30チームつくる計画ですが、応募は今17~18チームです。意欲的に規模拡大に取り組んでいる農家など、ぜひ申し込みをお願いしたい。
【小暮】生産コストの削減が進んでいますが、価格が下がるとJAの購買取扱額に影響するが、それはどう考えたらよいでしょうか。
【駒形】生産コストの削減は農家の規模拡大などに貢献するものでなければならないと思います。
【冨田】コストを低減するとともに、JAの集荷率を高め、全体の販売量を高めることが重要だと考えています。広く農家の需要に応え、規模拡大にも貢献していきたい。
【JA魚沼南の取り組み】
【竹内】 肥料について県下統一銘柄の使用を推進し10%のコスト低減をめざすということですが、銘柄集約の状況と経営規模の関連、また集約にあたっての課題は何でしょうか。
【駒形】昨年から、米専用で4種類に銘柄集約を進めているが、実際には1割程度しか進んでいません。進め方としては、予約申し込みを受ける中で、予定価格を提示して集約していくのが効果的だと思います。本格的にはこれからなので、いろいろな意見を聞きながら進めて行きたいと考えています。
※主な発言者は次の各氏(発言順)。
▽竹内幹高・JAとぴあ浜松購買課係長
▽引屋敷透・JA全農肥料農薬部長
▽福間莞爾・新世紀JA研究会常任幹事
▽萬代宣雄・新世紀JA研究会名誉代表
▽白石正彦・東京農大名誉教授
▽木村泰行・アイアグリ(株)社長
▽小倉一男・JA魚沼みなみ組合長
▽植木隆一・JA水戸経済部長
▽竹下幸治・JAあいら経営企画室長
▽藤井貴弘・田中雅典・監査法人トーマツ公認会計士
▽根本和幸・アイアグリ(株)販売部長
▽真野暁史・アイアグリ(株)企画室長
▽冨田健司・JA全農生産資材部長
▽小暮博光・JA埼玉ひびきの常務理事
▽駒形正樹・JA魚沼みなみ営農部長
▽西岡博幸・山口東経済部長
▽長谷祐・農林中金総研研究員
(文責・新世紀JA研究会)
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
新世紀JA研究会のこれまでの活動をテーマごとにまとめています。ぜひご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(113) -みどりの食料システム戦略対応 現場はどう動くべきか(23)2024年10月12日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(30)【防除学習帖】第269回2024年10月12日
-
農薬の正しい使い方(3)【今さら聞けない営農情報】第269回2024年10月12日
-
女性の農園経営者【イタリア通信】2024年10月12日
-
JA全農あきた 24年産米の仮渡金(JA概算金)、追加で2000円引き上げ 収量減に対応2024年10月11日
-
農場へのウイルス侵入防止強化へ 衛生管理徹底を 鳥インフルエンザ対策2024年10月11日
-
(405)寄付【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年10月11日
-
外国産農産物の調達 価格面で「懸念あり」円安も影響 食品産業対象調査 日本公庫2024年10月11日
-
JA全農みやぎ 24年産米の仮渡金(JA概算金)、3品種で3000円引き上げ 集荷力強化2024年10月11日
-
冬の床冷え対策に「くらしと生協」人気の「アルミシート入りラグ」に新商品登場2024年10月11日
-
大阪産「夢シルク」のさつまいもあんぱん新発売 クックハウス2024年10月11日
-
障がい者が活躍を応援「エイブル・アートSDGsプロジェクト」開催 近畿ろうきん2024年10月11日
-
「第11回豆乳レシピ甲子園」2200件の応募から最優秀賞を決定 日本豆乳協会2024年10月11日
-
サヤインゲン目揃い会で出荷規格確認 JA鶴岡2024年10月11日
-
くん煙剤やナブ乳剤を展示 「第14回農業WEEK」に出展 日本曹達2024年10月11日
-
和の技と肉の魅力を融合 新感覚「肉おせち(二段重)」数量限定発売 小川畜産食品2024年10月11日
-
青森県産青りんご「王林」使用「J-CRAFT TRIP 王林サワー」再発売 三菱食品2024年10月11日
-
持続可能な農食産業発展へ 名大と「未来作物ラボ」開講 グランドグリーン2024年10月11日
-
山形県のブランド米「つや姫」使用の乾麺「つや姫麺」新発売 城北麺工2024年10月11日
-
茨城県産レタス使用「モスの産直レタス祭り」茨城県で開催 モスバーガー2024年10月11日