JAの活動:JAアクセラレーターがめざすもの
AIと収穫ロボットで人手不足を解決 AGRIST 高橋慶彦取締役COO【JAアクセラレーターがめざすもの】2020年9月15日
JAグループのさまざまな事業と、技術やアイデアを持ったスタートアップ企業などをむすびつけ社会課題の解決をめざすアグベンチャーラボは全中、全農、農林中金などが運営している。このアグベンチャーラボの中核となっているのが「JAアクセラレータープログラム」で、スタートアップ企業とJAグループが連携して事業化を促進する。今回は第2期で採択されたAGRISTの高橋慶彦取締役COOに同社の事業とJAグループとの連携でめざす農業の未来像について聞いた。
AGRIST 高橋慶彦取締役COO
農家のアイデアで開発
国際特許を申請中の収穫ハンド--最初に事業の概要を聞かせてください。
私たちは宮崎県新富町でAIと収穫ロボットにより人手不足を解決しようとしています。私は秋田出身で地方から地域課題を解決するビジネスを成長させようとしてきました。根本にあるのは持続可能な農業と地域社会をどう実現するかです。農業をはじめ一次産業がいかに地方で重要かを認識しています。
そのために解決したい課題が農業の人手不足で、とくに収穫です。宮崎は10月から6月までピーマンを収穫していますが、過酷な環境での農作業で人手が集まらず、そもそも人口流出と高齢化が進行しており、町の農家のみなさんから聞いたのが「絶対にロボットしかない」という声でした。JA児湯の理事や青年部のメンバーです。そこから収穫ロボットの開発を始めました。設立は2019年の夏。つまり、農家の課題が先にあったということです。
--開発にはどう取り組んでいますか。
実際に農場に行ってみると剪定した葉が落ちていたり、加温用のダクトが地面を走っていました。従来は、たとえばマーカーを設置してその上をロボットが走るといった技術ですが、それができません。そこで「空中を走れないか?」という農家のアイデアから、ロープウェイのように空中をワイヤーをつたって移動するロボットを開発しました。
ロボットがハウス内のワイヤーをつたって巡回してカメラがピーマンを認識して収穫するという仕組みを昨年8月から開発をはじめ、1年で農場で実際に使えるまでになっています。夜間の実証も行っています。
この収穫ロボットの鍵は吊り下げ式であるということと、収穫ハンドです。従来はいわゆるロボットアーム、人の手のようなハンドが実をもぎ取るという方式ですが、私たちはハンドの中に実を巻き込みながら収穫するというロボットにしました。これも農家のアイデアから生まれたものです。
これまで収穫ロボットなど本当に実現できるのか、とずっと言われてきたと思いますが、そこを脱出して実現できるところまできており、国際特許も申請中です。
AIでハウス全体を分析
--収穫以外にどんな機能がありますか。
ロボットはワイヤーをつたってハウス内を巡回しますから、さまざまなデータを取得していきます。ハウス内のセンシングは、これまではハウスの真ん中にセンサーを置き、それで全体のデータを取得して管理しようとしていましたが、ハウス中央と隅では環境が異なり、隅では病害が発生しているということもあります。これに対して私たちはハウス内を巡回して隅々の生育状況を画像で取得するとともに、気温、湿度、日射量、Co2などの数値データも取得して、AIで分析し他のエリアと明らかに違う生育状況があればアラートを出すということも考えています。早期に警告を出すことによって収穫の安定化につなげたいということです。今は1人の農家が管理できるのは70aが限界だといわれていますが、意欲ある農家の方は1haをめざしています。そうなると農家の目に代わる機械が必要だと思います。
私たちはこのようなロボットとAIで農家が儲かるビジネスモデルを考えており、導入費用は軽トラックを買う程度とし、農家からいただく手数料についても実際にロボットを導入して増えた収穫分に対しての10%というかたちで料金を設定したいと考えています。
収穫ロボットの導入によって、収穫の取りこぼしを減らし単収の増加につなげることができればロボットの導入経費も数年でまかなえますし、さらに規模拡大することもできると思います。
今回、現場の農家から言われたのは、100%完璧なロボットを開発しても高価なら手がでない、20%の機能でもいいから安いものを作ってほしいということでした。そこでもっとも実現可能なシンプルな果菜類であるピーマンからスタートしました。ほぼ年中収穫が可能ですから、ロボットを毎日改善できるという環境もあります。こうした共同開発が強みで、現在、収穫可能なピーマンの70%はこのロボットで収穫できることが実証できています。
食料問題にも貢献
--JAグループとの連携で何をめざしますか。
JAアクセラレーターに採択されたことでJAグループと連携して2021年秋から主要産地へサービスを提供していきたいと考えています。
農家がきちんと儲かることで絶対に地域が元気になります。私たちはテクノロジーをツールに、農家をサポートするロボットなどを低コストで開発していきたいと考えています。そのため現場の農家のみなさんとチームをつくり現場で使える技術をスピード感を持って実現していきたい。テクノロジーを通じて世界の食料問題の解決にも貢献できればと思います。
(関連記事)
【JAアクセラレーターがめざすもの】
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(171)食料・農業・農村基本計画(13)輸出国から我が国への輸送の状況2025年12月6日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(88)ジチオカーバメート(求電子剤)【防除学習帖】第327回2025年12月6日 -
農薬の正しい使い方(61)変温動物の防除法と上手な農薬の使い方【今さら聞けない営農情報】第327回2025年12月6日 -
スーパーの米価 前週から23円上昇し5kg4335円 過去最高値を更新2025年12月5日 -
支え合い「協同の道」拓く JA愛知東組合長 海野文貴氏(2) 【未来視座 JAトップインタビュー】2025年12月5日 -
【浜矩子が斬る! 日本経済】『タコ市理論』は経済政策使命の決定的違反行為だ 積極財政で弱者犠牲に2025年12月5日 -
食を日本の稼ぎの柱に 農水省が戦略本部を設置2025年12月5日 -
JAの販売品販売高7.7%増加 2024年度総合JA決算概況2025年12月5日 -
ポテトチップからも残留農薬 輸入米に続き検出 国会で追及2025年12月5日 -
生産者補給金 再生産と将来投資が可能な単価水準を JAグループ畜酪要請2025年12月5日 -
第3回「食料・農林水産分野におけるGX加速化研究会」開催 農水省2025年12月5日 -
新感覚&新食感スイーツ「長崎カステリーヌ」農水省「FOODSHIFTセレクション」でW入賞2025年12月5日 -
(464)「ローカル」・「ローカリティ」・「テロワール」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月5日 -
【スマート農業の風】(20)スマート農業を活用したJAのデジタル管理2025年12月5日 -
「もっともっとノウフク2025」応援フェア 農福連携食材を日替わりで提供 JA共済連2025年12月5日 -
若手職員が"将来のあるべき姿"を検討、経営層と意見交換 JA共済連2025年12月5日 -
IT資産の処分業務支援サービス「CIRCULIT」開始 JA三井リースアセット2025年12月5日 -
「KSAS Marketplace」に人材インフラ企業「YUIME」の特定技能人材派遣サービスのコンテンツを掲載 クボタ2025年12月5日 -
剪定界の第一人者マルコ・シモニット氏が来日「第5回JVAシンポジウム特別講演」開催2025年12月5日 -
野菜との出会いや季節の移ろいを楽しむ「食生活に寄り添うアプリ」リリース 坂ノ途中2025年12月5日


































