【緊急特集】気候変動で迫る食料危機(3)資源・食糧問題研究所代表 柴田明夫氏に聞く 「国内資源フル活用 持続可能な農業を」2021年11月15日
国連は今年9月に食料システムサミットを開催した。生産から流通、消費までを食料システムとして捉え、その持続可能性をめざしCO2の排出削減も含めた課題に各国が取り組むことに合意した。そのきっかけとなったのは新型コロナウイルス感染症のパンデミックである。温暖化対策に通じる持続可能な食料生産に向けて日本の農業のあり方を見直すときだとの指摘もある。(株)資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は日本は地域の資源をフル活用する農業生産に改めて転換すべきだと強調する。
資源・食糧問題研究所代表
柴田明夫氏
日本は食料自給率37%が示すように、農業を外部化してきたのが戦後の歴史でした。その結果、国内の農業生産基盤がどんどん弱体化してきました。さらに、グローバル化してサプライチェーンを広げれば広げるほど、コロナ禍で示されたようにサプライチェーンの寸断という現象が起こった。
一方で労働力の問題では、ILOなどの指摘では国際的にも1700万人の労働者の移動がストップしました。その結果、農業の働き手が不足するという事態に陥ったわけですが、日本でも3000人を超す技能実習生の不足問題が起きました。
この食料システムの脆弱(ぜいじゃく)性は現在も続いています。
そこで食料システムの見直しが必要だということから、国連は9月に食料システムサミットを開催しました。国連のグレーテス事務総長は、今は食料システム危機であるという認識です。しかし、もっと深刻なことは気候危機、気候大変動があるということです。
食料品価格の高騰
この一年間、大豆、小麦、トウモロコシの価格上昇が目立ちますが、実はあらゆる食料品価格が高騰しています。
国連食糧農業機関(FAO)が食料価格指数を毎月発表していますが、昨年6月から今年5月まで12カ月連続で前年比プラスとなり、6月には一度落ち着くかに見えましたが、また8月、9月と上昇し始めました。
油糧種子も穀物も、そして砂糖、肉、酪農品が上昇しています。コーヒーもです。
豚肉、鶏肉、そして牛肉の値上がりというミートショック、食料ではありませんが、木材価格が上昇するウッドショックも起きました。農業関連では最近の肥料価格の上昇です。たとえば、世界のリン鉱石の生産量は2億4000万tほどですが、中国とモロッコと米国で7割以上を占めます。日本は100%輸入です。米国は1997年に早々とリン鉱石の輸出は止めましたから、中国とモロッコから輸入するという構図になっていますが、いつ中国が日本向けに輸出を止めるか、これは大きな問題です。
危うい農政の方向
本来、食料は腐りやすいことや、輸送コストを考えれば国内で生産する地域限定な資源だと思います。ここをふまえて食料政策を見直さなければいけないと思います。
ところが規模拡大で生産性を上げ、6次産業化で付加価値をつけ、輸出に打って出るということが一直線につながった政策をとり、国際マーケットにつながればつながるほど食料の安定供給、食料安全保障が達成できるという考え方が依然として続いています。しかし、その危うさが、今回のコロナ禍で身に染みたと思います。
今後は大半の条件不利な農地と零細な家族経営の農業が担っている農地や地域の水など、資源の保全といった問題に国として目をつけていかないと大変なことになってしまうのではないか。
それにはやはり地域に合った複合経営で、米も作れば野菜も果実も作る。そして酪農、畜産にも取り組む。さらに再生エネルギーを含めた地域農業のあり方ということが模索されるべきだと思います。
CO2排出を削減するには、経済成長とは何なのかということも考えなくてはなりません。スローライフ的な暮らしという意味で地域の農業は大きな役割を果たすと思います。エネルギーの供給システムも地産地消型に移り、農家や地域住民は電気エネルギーの消費者であると同時に生産者にもなる。それもソーラー発電だけではなく小水力発電、風力、バイオマス発電もあるというように多様な地域の資源をフルに活用していく方向に進むべきだと思います。
世界の農業考える
昨年は国連食糧計画(WFP)がノーベル賞を受賞しましたが、その50年前は緑の革命への貢献を評価されたノーマン・ボーローグが受賞しました。私はちょうど1回転したという感じがします。
ボーローグは食料生産の生産性を上げるために、高収量の品種や農業の機械化、規模拡大などを導入しました。たしかに生産性を上げましたが、それがいわゆる単作化、特定のもうかる作物を大量に作っていくことに特化していくことになった。農業の近代化ですが、植物の多様性が失われ、伝統的な農業を壊しました。
それを突き進めてきた結果、現在、世界の穀物生産の8割近くは3大穀物の米、小麦、トウモロコシに絞られています。それは自然の復元力や環境の収容力を超えるような農業開発が進んだということであり、マーケットが非常に荒れ出しました。確かに穀物生産量は27億tを超えて、過去最高を更新しています。
同時に消費量はそれを上回って増えています。非常に不安定な要因を抱えているのが世界の食料の状況です。
地域ごとに農法と農業のあり方を考えていくべきだと思います。日本はひたすら欧米の大規模経営を模索してきました。その欧米は乾燥地帯であり地力も弱くできるだけ機械化して労働も節約し、粗放的な農業を進めてきました。一方、日本などアジアはもともと湿潤地帯で地力も十分あり、手を加えれば加えるほど生産は上がる。にも関わらず日本が目指してきたのは規模拡大でした。ここに今、限界が来ている。
したがってもう1回日本がめざすべきは、狭い国土のなかでいかに資源をフル活用する農法を考えるかだと思います。もっと産地の農業資源をフル活用して持続可能なものにしていく。それが本来の姿だと思います。
【略歴】
しばた・あきお 1951年生まれ。東大農学部農業経済学科卒。76年丸紅(株)に入社。丸紅経済研究所主席研究員、代表などを経て2011年(株)資源・食糧問題研究所を開設。
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