農政:緊急特集・衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたち
浜矩子 同志社大学教授 「今以上の歪みを許すまじ」【衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたち】(上)2020年5月13日
「世のため人のため」よりも「我がため」優先の安倍政権
コロナショックによる非常事態が続くなか、法改正による権限強化を狙う動きが世界レベルで台頭している。浜矩子同志社大学教授は、有事の今こそ民主主義や人権、言論の自由を守る必要があると指摘する。
浜矩子 同志社大学教授
◆昨日までの真理が今日は虚偽
「激震コロナショック:どうするのかこの国のかたち」。これが、今回頂戴したテーマだ。なかなか難しくて重い。まず、我々が新型コロナウイルスの襲来に見舞われる前の時点で、この国のかたちがどうなっていたのかを抑えておく。ここから始めるべきだろう。
コロナ前のこの国のかたちは、相当に危険な変形を強いられようとしていた。そう言わざるを得ないだろう。今や、どこにどう仕舞い込まれてしまったか分からない「モリカケ問題」。どう改善されていくのか方針が示されないまま放置されている基幹統計の不正集計問題。「桜を観る会」の総理大臣による私物化疑惑。これら一連の問題にまつわりつき、とぐろを巻く「忖度」と「改ざん」という二つのイヤな言葉。
年金収入のみでは、生活費が「30年で2000万円」不足する。この分析を含む金融審議会の報告書が、明るみに出るという騒動もあった。この一件については、今になってこんなことが判明するという不始末もさることながら、そのことに対する政府の反応に唖然とさせられた。所管大臣である麻生太郎金融担当大臣は、この報告書の内容は政府方針にそぐわないとして受け取りを拒否した。政府が受け取らないのだから、この報告書は存在しない。そういうことになってしまったのである。
これには背筋が寒くなった。ここで、ある小説に思いが及ぶ。かのジョージ・オーウェル作の恐怖の近未来物語「1984年」である。徹底的な独裁体制と徹底的な監視社会の下で、人々は「二重思考」を強いられる。昨日までの真理が今日は虚偽になる。ある出来事が、突如として起こっていなかったことになる。頭の中で白を黒に塗り替える。しかも、自分がこの塗り替えを行ったという事実を、瞬時にして脳内で抹殺する。これらのことができない者は存在自体が抹殺される。
目の前にある報告書が、大臣の一言で目の前から消える。なかったことになる。「ある」が瞬時にして「ない」になる。相当に高度な「二重思考」を要する芸当だ。それを国民に強要してはばからない。コロナ前夜のこの国では、こんな行動原理に従っている人々が政策を取り仕切っていたのである。
◆コロナ対応もパフォーマンス
この状態でコロナショックに突入した。そして何が起こったか。我々が目の当たりにしたのは、実に場当たり的かつ情報開示不足で、やり過ぎと及び腰の間を右往左往する対応だった。なぜ、こういうことになるのか。それは、政策責任者たちが政策責任の何たるかを理解していないからだ。理解する気がないからだ。
何しろ、国民に「二重思考」を強いるのが当たり前だと思っているような連中である。公式行事を私物化して平気の平左の集団だ。自分の野望や下心やご都合主義やお仲間優遇のためなら、行政にどこまでお先棒担ぎ役をやらせても構わない。権力とはそういうものだ。そう考えているとしか思えない。そんな人々に、まともな有事対応ができるわけがない。
彼らの辞書には、「世のため人のため」というフレーズが含まれていない。全てが「我がため我がため」だ。だから、コロナ対応もしょせんパフォーマンスに過ぎない。パフォーマンスが滑ってはまずい。どうすれば、パフォーマンスの好評を確実なものにできるか。ひたすら減点回避型で、もっぱら加点指向型。これが彼らの基本的な構えだ。このような構えから出て来る対応は、せいぜい下手くそなモグラたたきだ。
しかも、ここに来てさらに唖然とすることが起こっている。今、まさにこの時、政府は検察庁法改正案を国会に持ち出している。検察官の定年を引き上げるとともに、内閣や法務大臣の判断で定年を延長できる規定を盛り込んだ提案である。事の発端は、1月に黒川弘務東京高等検察庁検事長の定年延長を閣議決定したことだ。これによって、安倍政権に近いと目される黒川氏に検察トップの検事総長就任への道が開けた。今回の検察庁法改正案は、後付け的にこの閣議決定に法的根拠を与えようとするものだ。
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