農政:緊急特集・衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたち
コロナ禍から「新たな生活様式」へ一歩を NPO法人ウィメンズアクションネットワーク 上野千鶴子理事長【衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたち】(下)2020年6月2日
非常事態で社会的弱者に及ぶしわ寄せ
介護現場はコロナ禍による行政の支援が不足
◆ケアを軽視した政策決定者の本音
介護についても同じことが言える。介護施設のクラスター感染が起こり、介護施設は外部としゃ断された。高齢者が集まるデイサービスやショートステイは閉鎖され、そうなると在宅するしかない。家に介護をする家族がいるというのだろうか。介護保険20年間のうちに、一人暮らし高齢者の数は急速に増えた。独居の高齢者のもとをホームヘルパーが訪れなくなれば、食事も排泄もアウトになる。
だが、医療現場への注目や感謝に比べて介護現場からの声は小さく、関心も低い。介護職は情報も装備も乏しく、無防備なまま発熱した利用者のもとを訪れる。それ以前から訪問介護はもっとも条件の悪い職種だった。現場は慢性的な人手不足にあえぎ、今年1月時点で有効求人倍率は13倍。そのくらい不人気な職種だったのだ。
そこにコロナ禍が直撃し、一層深刻になった人手不足に対して政府のとった対応策は、私をあぜんとさせた。医療職へは退職者の再活用や手当の増額をうたったのに、介護職については無資格者を採用してよいとしたのだ。
保育現場でも同じ対応がとられた。この措置ほど、育児・介護というケア労働に対する為政者のホンネをあらわにしたものはない。つまり、政策決定者たちはケアとは「女なら誰でもできる非熟練労働」だと見なしているのだ。
◆災禍に学び新しい生活様式へ転換
社会がサスティナブルであるためには、生産システムと再生産システムとがともに駆動しなければならない。生産とはモノの生産。再生産とはイノチの生産。つまり人を産み育て看取る生き死にに関わる活動である。再生産がタダではないことは、少子化でよく分かったはずだ。人は放っておいても子どもを産み育てるわけではない。イノチの再生産を支える労働がケア労働である。非常時にモノの生産が急ブレーキをかけられた時に、日々一日たりとも休むことのできないケアという労働がくっきりと「見える化」したのだ。そして、それをいったい誰が担っているかも。
コロナ禍が加速した変化にテレワークがある。ステイホームを余儀なくされた男性労働者は、家のなかで子どもたちがどんなふるまいをしているか初めてよく見たのではないか。
夫婦共働きがスタンダード化した今日では、テレワークをするのは夫ばかりではない。働く女性から、テレワークをしようにも家のなかで一人になれる場所がないという悲鳴を聞いた。これまで夫は外、妻は内。その妻のいる家はもっぱら「消費の場」だったが、いまや夫にとっても妻にとっても「おうちが職場」の一部になってきた。そして、それが可能だとわかれば通勤に伴うコストを支払う理由はもはやなくなるだろう。
もしかしたらコロナ禍がもたらす変化の一つには、新しい職住一致があるかもしれない。考えてみれば、職住分離は近代がもたらしたもの。前近代は家が生業の場で、家族は働ける者は全員働く一家総労働団だった。農家には、そもそも家事・育児専従の専業主婦などいない。
私たちは、男が100%の生産者、女が100%の再生産者であるといういびつな性分業の時代を過ぎて、男も女もいくぶんか生産者であり、いくぶんか再生産者であるという「新しい生活様式」のもとへ、一歩踏み出しているのかもしれない。
「もうコロナの前には戻れない」という標語が、望ましい変化をもたらすことを期待したい。だが、わたしたちは「3.11」の後にも、あの「敗戦」のあとにも、「あたかもそれがなかったかのように」ふるまう政治的リーダーをいただいてきた。今度の災禍からも、また私たちは何も学ばないのだろうか。
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