【アグリビジネスインタビュー】農業の成長路線を後押し 住友化学 藤本博明常務執行役員アグロ事業部担当2023年5月15日
コロナ禍による物流の混乱と需要低迷に加え、ウクライナ問題による資材価格の高騰などで農業は大きな打撃を受けているなか、持続可能な農業による食料生産力の維持、向上が課題となってきた。こうした課題にどう対応するか。今回は住友化学(株)アグロ事業部担当の藤本博明常務執行役員に聞いた。
住友化学(株)アグロ事業部担当 藤本博明常務執行役員
水田農業の底上げへ
――コロナ禍やウクライナ情勢のもと、日本の農業をめぐる情勢や課題をどう考えますか。
今まさに国内で食料安全保障への意識が高まっていますが、国内農業は縮小傾向がずっと続いており、やはり国内農業を成長路線に戻すことが求められていると思います。
国では食料・農業・農村基本法の見直しも進められていますが、ぜひ成長軌道に乗せる農業政策をしていただきたいと思っています。
そのためには、やはり輸出の拡大が必要ですし、かつ日本の最重要作物は米ですから、水稲の生産拡大が基本的な方向ではないかと思っています。輸出に関しては果物や加工品も増えていますが、もっとも基幹的な作物である水稲について、長年にわたり作付けを制限してきた方向が変わることを期待しております。
米の輸出を拡大し作付けが増えることは有事に食料安全保障に寄与するし、それによって農家の皆様の意欲も高まると思います。
一方で生産資材の高騰にはわれわれも胸を痛めているところであり、肥料だけでなく農薬も海外から原料を輸入して製造していますから、結果的に業界全体で生産資材が高騰しました。
こうした中、われわれとしては農薬をより有効に使えるように現場に入って支援していくとともに、新製品を開発してよりコストパーフォーマンスの高い製品を継続的に提供してまいります。
また、農薬の進化だけではなく、IT技術を使ったスマート農業にも踏み込んで生産現場に貢献できればと考えています。
――今後の事業の重点事項をお聞かせください。
水稲では、昨年発売した「アレス」シリーズを中心として箱剤を重点に普及推進に力を入れているところです。これは幅広い殺虫スペクトラムを持ち、既存剤に抵抗性を持つ害虫にも効く新規殺虫成分「オキサゾスルフィル」を有効成分とした水稲育苗箱処理剤で、環境負荷も低く持続可能な農業に貢献できる製品と考えております。
一方、除草剤もすでに多く上市していますが、さらに省力化にも貢献するためにドローン散布に適した自己拡散性を持つFG剤をシリーズ化し登録を増やしていきたいと考えています。
「オキサゾスルフィル」のほか2020年を目標とした新規原体開発剤として3つの化合物があります。その1つが園芸用の殺菌剤「インピルフルキサム」で、製品名「カナメフロアブル」と「ミリオネアフロアブル」として上市しました。それぞれ様々な果樹病害とテンサイ根腐病などに対して高い評価をいただいており、引き続き普及拡大を推進していきます。
2つ目の新規殺菌成分である「メチルテトラプロ-ル」は「ムケツDX」として、てんさいの褐斑病で登録を取得し、今年1月から販売を開始しています。
3つ目の新規殺菌成分「ピリダクロメチル」含有の製品は、今年度に登録を取得する見込みです。
バイオラショナルにも力
一方、みどり戦略(みどりの食料システム戦略)をふまえた一層の環境負荷低減や持続可能な農業に資するという観点では、バイオラショナルと呼んでいる天然物由来の資材も化学農薬との両輪として開発していくという方針です。
住友化学グループでは、天然物由来の微生物農薬、植物成長調整剤、根圏微生物資材などや、それらを用いて作物を病害虫から保護したり、作物の品質や収量を向上させたりするソリューションをバイオラショナルと定義しています。住友化学はバイオラショナルとして、ジベレリン剤などの植物成長調整剤や、自然に存在するBT菌という微生物からできた殺虫剤「ゼンターリ顆粒水和剤」などのBT剤を提供してきました。この4月にはブドウの着色不良を解決する「アブサップ液剤」を上市し、製品群を拡充しました。
化学農薬の開発は年々ハードルが上がってきていると感じていますが、われわれはR&D型メーカーとして、より安全性が高く効果の高い新規農薬化合物を開発していくという方向は従来どおり続けます。ただ、将来を見据えた農業への期待ということからすれば、バイオラショナル系の資材も活用することで、サステナブルな防除体系を作っていくことが可能だと考えております。
一方、バイオスティミュラントという分野が農薬業界のみならず肥料業界からもみどり戦略の実践で注目されています。この分野の製品群の拡充も今後、注力していきたいと思っていますが、このバイオスティミュラントの開発に当たっては、サイエンスベースでしっかりそれらの作用を検証していきたいと考えています。
また、これらの製品化に力を入れていくと同時に、従来の流通に乗せるだけでは普及が難しい時代になってきていると考えており、現場にどういう方法で普及推進していくかについても新しい視点から検討していかなければならないと思っています。
それらを解決しバイオラショナル製品群を拡充していくことによって、最終的には化学農薬との両輪で作物保護分野に貢献していくというのがわれわれの方向だと考えています。
「持続可能型製品」を開発
――すでにお話いただいているテーマですが、改めてみどり戦略への対応をお聞かせいただけますか。
今申し上げたように、化学農薬はより安全性の高い新製品を創製し、より安全で環境負荷の少ない施用方法を提供していくということです。その中にはスマート農業も含まれます。
同時にバイオラショナル製品群を拡充することで環境負荷軽減を進め、みどり戦略に合致する方向に進めてまいります。
また、みどり戦略ではIPМ(総合的病害虫管理)もしっかり取り組むことが必要になります。まさにIPМに適合した資材を組み合わせることで防除し、最終的に環境負荷も軽減、かつ収量も確保していく必要がありますが、農家の皆様にとっては経済的に成り立たせることが重要だと考えております。
化学農薬のほかにバイオラショナルという資材があることでIPМ体系が組みやすくなります。
ただ、IPМ体系を作り、かつ農家の皆様の収益が上がるようなところまでもっていくには、現場の普及活動が大事だと思います。現場での防除体系を変えていくというのはそれなりに手間がかかりますので、そこをどうサポートできるか、人手不足も課題となっている中、DXを活用した支援ができるような仕組みをわれわれからも提供しなければいけないと考えています。
これからの日本の農業は、みどり戦略に対応しつつ、生産力を底上げし、冒頭申し上げたように農業を成長路線に乗せていくことが大切だと思います。
住友化学としましては、環境負荷の軽減や省力化に資する製品等を今後の社会や農業の抱える様々な課題を解決する「持続可能型製品」の開発・普及を重点取り組み課題と位置づけ、これを社員一丸となって着実に進めていくことでサステナブルな農業に貢献してまいります。
JAと現場技術普及
――最後にJAグループへの期待を聞かせてください。
まさに農家の皆様にいちばん近いところで仕事をしておられるのがJAであり、JAを通じて生産資材を届けていただいていますし、技術指導もしていただいていることにわれわれメーカーとしても非常に感謝しております。
われわれもできるだけ現場に入って新たな技術の普及などのサポートをしてまいりますので、今後もご協力をお願い致します。
また、農産物の輸出もJAグループの積み上げで動いていくところが大きいと思いますので、輸出拡大への役割にも期待しております。
【住友化学株式会社】
1913年創業の総合化学メーカー。銅の製錬に伴い発生する排出ガスから肥料を製造し、環境問題克服と農産物増産をともに図ることから誕生。現在、住友化学グループは、エッセンシャルケミカルズ、エネルギー・機能材料、情報電子化学、健康・農業関連事業、医薬品の5事業分野にわたり、幅広い産業や人々の暮らしを支える製品をグローバルに供給している。健康・農業関連事業部門のアグロ事業部は、国内においてグループ会社とともに農薬、肥料、農業資材等の農業関連製品を販売している。
【藤本博明常務執行役員略歴】
(ふじもと・ひろあき)
昭和61年4月住友化学工業株式会社(現:住友化学株式会社)入社、平成19年2月同社農業化学品研究所研究グループグループマネージャー、23年4月同社アグロ事業部肥料営業部長、26年4月同社アグロ事業部営業部長
令和2年4月同社執行役員アグロ事業部長、令和5年4月同社常務執行役員アグロ事業部担当。
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