「モノ」より「コト」を売る オタフクホールディングス 佐々木茂喜社長に聞く(2)ブランドよりファン2024年1月19日
原爆で焼け野原となった広島で生まれたソウルフードの「お好み焼」。鉄板と小麦粉、キャベツがあれば、安く簡単に作ることができ、復興に奮闘する人々の胃袋と心を満たした。オタフクソース(株)(広島市)の、お好み焼きに欠かせない「お好みソース」をメイン商品に、お好み焼き文化を全国に発信している。第12回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞(経済産業大臣賞)を獲得、「団らん」をキーワードに、社員を大切にする企業運営が評価された。オタフクホールディングス(株)の佐々木茂喜社長に聞いた。
「モノ」より「コト」を売る オタフクホールディングス 佐々木茂喜社長に聞く(1)お好み焼きで「団らん」 から
ブランドよりファン
当社の経営は、ブランディングへのこだわりをやめました。それよりはファンをつくることが大事だと考えました。これは、負けが続いてもファンが離れないプロ野球の広島カープに学ぶところがあります。ファンが増えれば業績は後からついてきます。
近江商人は買い手・売り手・社会よしの「三方よし」がありますが、当社は「八方よし」です。「三方」のほか、安全で安心な原料をつくる生産者や、それを支える地域の人々、そして社員などステークホルダースすべてを含めて「よし」にならないと「いい会社」とは言えません。
当然、トレードオフ(両立しない関係性)も生じますが、それぞれの関係性のなかで、どこかバランスの取れるところがあるはずです。それを見つけるのが経営者の役割だと思います。
――オタフクソースは社員教育で知られていますが。どのような取り組みをしていますか。
"非日常"を研修に
佐々木 「非日常」な研修を取り入れています。つまり五感を使った体験型の研修にすることです。内部で教育大綱をつくり、新入社員教育、専門教育、階層別教育など行ってきましたが、これら座学は詰め込み教育で、終わった後、社員の印象に残ってないのではないか、と反省しました。
ほかのことは忘れても、子どものころの修学旅行はだれもよく覚えています。それは、「ワクワク」アンテナと「ドキドキ」アンテナが目いっぱい開いているからです。当社では無人島研修を行っていました。眠るための小屋をつくる大工道具と米とみそなど最低の食材と調理道具持参で2泊3日、江田島沖の島で過ごし、非日常からさまざまなことを学びます。
もちろん私も参加しました。1泊では分からない社員の性格も2泊するとよく分かります。率先して小屋づくりをする社員、いわれなければ動かない社員など、はっきり分かれます。今ではかまどでの調理や工作など、五感を研ぎすます施設を構え、研修や福利厚生に活用しています。
研修には、お好み焼きの具材に欠かせないキャベツの栽培体験もあります。春の植え付けからマルチング、収穫、調理までやって、キャベツの一生を語れるようになります。また事業のコアであるお好み焼きを学ぶため、わが社にしかない「お好み焼課」の社員を講師に、実際に焼いてふるまうところまでやります。社員は全員、上手にお好み焼きを焼くことができます。
――貴社にとって社員はどのような存在ですか。
社員は"家族"と同様
佐々木 「家族」だと思っています。家業のころは、家族であれば親身になって考えますが、会社が大きくなって「社員」になると、会社のもうけをメインに考えがちです。身内か社員かの違いですが、家族と同じ気持ちで接し、ボーナスもしっかり出すと、社員は会社を大事に思ってくれます。社内では肩書きでなく「さん」付けで呼ぶようにしています。私も「茂喜さん」ですよ。
ここに社員をコストとしてみるか、利益としてみるかの違いがあります。効率の追求も必要ですが、人を育てるのに手間暇を惜しんではなりません。社員が長く安定して働ける、いい会社にするのが経営者の役割だと思っています。
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