【近藤康男・TPPから見える風景】ルール分野の日欧EPAとTPPとの比較事例2017年8月3日
◆"大枠合意"は秘密裏のまま最終合意に向かう道だ
日本政府は7月6日以降、外務省が「ファクトシ-ト」で関税分野についての説明とルール分野の抽象的な紹介、財務・経産・農水省が関税分野の資料を公表した。しかし関税分野以外はEUとのエ-ルの交換程度で、何を合意したのか具体的に分かることはほとんど無い。そしてEU側が7月6日の共同声明と同時に(最終合意ではないが関係者の懸念に配慮して、としつつ)いくつかの章の条文を公表したことに対して抗議をしている有様だ。
そのEUにしても、章ごとの条文については8分野、そして2分野の一部、まもなく公表するとされている4分野(交渉中1分野)、その後の追加公表が4分野でしかない。これも全体像を示しているかどうかは、何とも言えない。そしてEU側からは、本格的交渉はこれからだ、投資に関する紛争解決は見通しさえ無い、という声が聞こえてくる。
TPPでは、15年10月5日の"大筋合意"に続いて、11月5日に法的チェック前との但し書きで英文の条文が公表{日本も同日暫定翻訳条文}、翌年1月25日に最終版が公表された(日本語訳は2月2日)。日欧EPAは全く不透明だ。
TPP条文の分析を通じて感じたのは、外交文書は必ずしも明確でない表現も多いこと、章全体を読んで初めて収斂の方向が分かるということだった。各分野の小委員会での議論を通じての変更は、当然この収斂の方向に沿って進むはずだ。
つまり、本来、合意したら即全文を公表し、国民・国会による徹底議論をし、その上で署名の是非を決める手続きでないと適正な判断は出来ないということだ。
◆公共調達の資料に見る、不充分な情報開示とTPP以上の譲歩
公共調達は、農産品の交渉ほど注目されていなかったが、EUが日本の市場開放の焦点の一つとして拘った分野だ。しかし、EUでも8月1日現在"まもなく公表"扱いとなっている。そして外務省の「ファクトシ-ト」では2ヶ所で触れているがEUに比べ説明は不充分だ。
ここでは、EUの「ファクトシ-ト」からEUの狙い、TPPとの違いを検討したい。
EUは公共調達を焦点とした理由を、先進国での市場規模は経済規模の約15%を占めるものの外国企業への開放はEUで約4.5%、日本は約3.5%で参入の余地は大きく、しかも日本の場合は閉鎖性が強く、透明性を改善し規制を緩和する余地が大きいとしている。
そしてその結果TPPでの譲歩を上回る市場の開放がされることとなった。7月10日に市民団体のネットワ-クの強い働きかけで実現した外務省・農水省の課長級以上の出席による政府説明と意見交換会では、「WTOの政府調達協定よりも対象機関が増えたが、EU側にも開放を実現させ、バランスを確保した」との答えだった。しかし、TPPでは外国企業の参入を認める基準の金額が他の11ヶ国に比べほとんど全ての事業分野で低くなっており、日本の開放度は異常なほど、一方で対象機関は中央政府・県・政令指定都市、独立行政法人と国有企業は国の管理下のものだけだった。しかし、日欧EPAでは政令指定都市だけではなく人口30万人以上の中核都市を含め48市、加えてTPPでは対象外だった公立の教育研究機関(多分公立大学を含む?)や地方の公立病院などを含む70の機関が対象となっている。またEUが強く求めていた鉄道分野で、WTOでは除外されている「安全注釈条項」の撤廃にも同意している。よく分からないのが送配電事業体29社とあり、95年の電力事業自由化により生まれた事業会社と思われるが、これもTPPでは対象になっていないはずだ。
筆者は、EUと日本の譲歩の多寡を問題にしている訳でも、外国企業の参入を単純に批判する訳でもない。公共調達は地域の経済との関係が深く、病院経営は経済合理主義だけでは済まない経営実態がある。地域の経済基盤を支える意味では公契約条例などがもっと広がるべきだろうし、病院経営などには非商業的な援助も必要とされるという事情を大切にすべきと考えている。TPPやEPAはこのような地域政策のあり方への制約を強めるはずだ。
市民団体のネットワ-ク「TPPプラスを許さない!全国共同行動」では、8月29日(火)、9月13日(水)に、日欧EPA,RCEP,TPP11について引き続き政府からの説明会と意見交換を計画中だ。 |
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