【近藤康男・TPPから見える風景】財務省は拙速? 肉牛農家に冷たい? それとも些細な問題か?2018年3月29日
他紙ではあるが、“内閣官房、TPP11(以下CPTPP)で自民部会に説明、「牛肉のセーフガ-ド(以下SG)は、TPP参加国からの輸入がほとんどなので、TPP(12ヶ国の)発効後はTPP以外の国への適用を廃止することを決めたが、米国が離脱したので、当面CPTPPに参加していない国(米国も含む)への牛肉SGは継続」”という記事(3月14日付け日本農業、23日付日経)が目に付いた。
私自身は農業分野に係る協定内容にはあまり踏み込まず、地域の主権や地域経済を制約する分野を中心に通商協定の内容に目配りをしてきた。そのため牛豚肉の関税やSG問題に関して、TPP合意を受けて、SGの一部であれ廃止の決定がされていたことに全く気がついていなかった。本当に影響はないのか? 今影響なしとしても、将来を考えてわざわざWTOでも確保し、法制化したものを脱ぎ捨ててよいのか? と疑問を持ち、少し調べて見た。
◆TPP原協定に基づく政府の検討
不勉強の誹りを免れないが、財務省は、15年10月大筋合意後、16年2月の合意署名もされていない15年12月3日付の「TPP実施のための個別物品等に係る法令整備」で、関税暫定措置法の改正の必要性と改正の方向性について、「牛肉については日本の輸入のほぼ99%がTPP参加の米国・豪州・NZ・カナダ4ヶ国で占めており、TPP協定に従ったSG措置でカバ-出来る。従ってTPPに参加していない国・地域に対するWTOの特別SGは実質的に適用対象が無くなるので廃止が望ましい」と提起している。そして、16年3月8日に国会に提出されたTPP関連法案の一つである、関税暫定措置法改正案では、牛肉の特別SGは削除された。豚肉については削除されていない。
そして米国離脱後合意署名されたCPTPPの関連法案が3月27日に閣議決定され、国会での審議が始まることになるが、冒頭の報道の通りであれば協定の外にいる米国への対策上、WTOに基づくSGは継続されるようだ。しかし元々廃止の決定をしていた政府が、どのような書き様をしているかは気になるところだ。
◆拙速で生産者への配慮に欠ける財務省、将来に禍根を残さないか?
牛肉生産・輸出大国はTPP参加の3ヶ国と米国だけではない。ちなみに、16年生産量では、米国1150万トン⇒ブラジル928万t⇒EU783万t⇒中国700万トン⇒インド420万t⇒アルゼンチン265万tの順だ。そして16年輸出国は、インド176万t⇒ブラジル170万t⇒豪州148万tの順となっている(農畜産業振興機構17年8月号「畜産の情報」から)。
敢えて理屈を言えば、農産物の生産国、輸出国は大豆や小麦等を取っても、20~30年で大きな変化が見られる。牛肉の生産輸出大国に付いて言えば、インドは(水牛も含むが)宗教上の理由で消費が少ない(輸出余力が高い)と同時に、菜種の生産大国で、濃厚飼料の原料の菜種粕の潜在生産力も高いし、ブラジルやアルゼンチンもエサとしての穀物の生産大国でもある。
つまり、長期的な変化の可能性も考えると、果たしてWTOで確保している特別SGをわざわざ放棄する必要はあるのだろうか? ということだ。
加えて言えば、牛肉SGはTPPでカバ-出来ると言うが、そのTPP自体が、「発効16年目以降は4年連続で発動が無ければSGは廃止される」としている。財務省の考え方は余りに拙速、生産者への配慮に欠けるのではないだろうか?
◆CPTPP協定6条(見直し条項)でSide Letterくらいは考えなかったのか?
2月1日のコラムで、政府が日本の懸念を担保したと繰り返すCPTPP協定6条が、文言を何度読んでも、農業分野の懸念(米国離脱前の相当数量分だけ乳製品の低関税枠の米国実績相当分を豪州やNZが埋め、一方、日米2国間交渉で米国の要求は必至で、低関税枠は実質的に増えてしまう、牛肉SG発動の天井は高くなるので数量を圧縮しなければ発動が難しくなる)を担保するものは書かれていない、と書いた。おまけに各国の交渉関係者がいなくなれば誰も将来の日本のことなど気にもかけないはずだ。
今回、日本が各国に宛てたSide Letterを読んでみた。美しいことに、大半の文書において、"互いにこの内容についての確認(あるいは理解)を共有する"という、約束に近い文言が記載されていることが目にとまった。
政府には、協定6条で日本の懸念を担保するために、せめて上記の文言を含むSide Letterなどは考えなかったのか? と問いたい。
(関連記事)
・TPP11 協定案と関連法案が国会へ(18.03.29)
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