【熊野孝文・米マーケット情報】「パスタの量産体制を」中食団体が文書2018年6月5日
30年産米の第一便が今月から出回り始める。石垣島で生産された沖縄県産ひとめぼれで価格は那覇着1万6200円。量は1500tほどしかないが、物珍しさもあってネット上では5kg3500円の販売価格を設定している業者もいる。この後に続くのが鹿児島、宮崎の早期米で、気象条件にも恵まれ順調に生育、7月末には刈り取りが始まるものと見込まれており、首都圏のコメ卸関係者も値決めのために現地に飛んで交渉を始める。
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30年産についてコメの集荷業者や流通業者がどのような見方をしているかと言うと一言でいえば"戦々恐々"である。もちろんそうした見方をしていない業者も大勢いるが、戦々恐々の思いが強くなった最大の要因は29年産米の売れ行き不振。足りなくなるはずの29年産米が端境期を迎えた現在余ってきたというのだからこの見込み違いはあまりにも大き過ぎる。玄米相場動向に詳しい仲間業者は、量販店での定番商品が売れなくなっていることから「30年産の上げ材料は一つもない。4年前の相場に戻り、不作でも200円から300円下がる」とまで言っている。それだけ玄米の荷動きが良くないということで30年産も悲観的な見方をしている。
この業者だけでなく玄米の下げは一時的なものと見ていた仲介業者もいまだに買いが入るのは新潟コシヒカリと山形つや姫ぐらいで他の銘柄には一向に買いが入らず、相場の下げが止まらない現状から先行きについても弱気になっている。
農水省が公表した4月までの29年産米の累計販売数量をみても155万4000tと前年同期比で6万3000t少なくなっている。平均価格は9%高い1万5779円になっており、価格が上がった分、消費が減ったということもできる。中食業界団体ではコメの消費が減ったのは中食業界だけではないと言っている。団体の顧問はある会合で主婦から衝撃的な事実を打ち明けられた。
この主婦には高校生の男の子と中学生の女の子がいるが「コメが高いのでご飯の代わりにパスタを食べるようになった」と言うのだ。この顧問はその発言を聞いて自らご飯とパスタの価格比較をやってみた。購入したのは2kg1050円の北海道産ゆめぴりかと1kg179円のイタリア産パスタ。100g当たりの単価はコメが52円50銭、パスタが17円90銭になる。コメを炊飯、パスタを茹でて、一食分をごはんは214g、パスタは255gにしてそれぞれの1食分のコストを計算すると100g当たりパスタが7円で済むのに対してご飯は3.5倍の24円50銭になる。EUとのEPA合意ではパスタの関税が無税になるためイタリア産パスタはkg当たり30円安くなり、益々価格競争力が増す。
すでにコンビニ、スーパーの総菜売り場ではパスタ類の商品が増加していることから、この顧問は会員社に対して「炊飯業界もパスタ類の省力化量産体制を構築すべき」とする文書を出している。
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中食業界団体等で組織される国産米使用推進団体協議会は「30年産米価格の行方?」と題して以下のような内容の文書を作成している。
「国内のコメ購入者(消費者、実需者、卸業者)は相対取引価格3年間連続値上げにより毎年1200億円(3年間では3600億円)の負担を強いられ、コメ消費も大きく減少した。値上げの原因は平成25年6月の農家所得倍増及びコメ生産コスト4割削減の閣議決定が基にあるが、倍増計画は地域の活性化、魅力ある農業への布石として賛成ではあるが、先ずなすべきは『コストダウン、生産性の向上』等であろうが最初に『概算金を値上げ等の政治誘導、介入!』により相対取引価格(米価値上げ)を行ったことが米価アップの原因である。農協として傘下の会員の所得アップは当然の使命ではあるが、財源を有しないJAは値上げの財源はコメ購入者への価格転嫁しかないことは承知のはずである。また、恒常的コメ不足に因る米価高騰は生産者の高齢化によることも指摘されている。さらに財務省の財政制度審議会でも『生産が需要に追い付かない』のはエサ米生産の誘導の効果で『需要に見合った生産』が妨げられているとの意見もある。飼料用米政策導入の当初目的のひとつに『減反による耕作放棄地解消!』があったが、現時点では耕作放棄地減少は見えてこない。
平成30年はコメ関連企業にとっては40年間続いた縮小均衡の生産調整(減反政策)が廃止され大転換・大改革の年になった。中食業界では『今後は生産者の経営判断によってコメ生産』が行われる政策となり、明るい未来ある稲作産業を期待していた」。(原文ママ、以下略)。
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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
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