【今川直人・農協の核心】急がれるデータ活用2024年8月5日
最長の政策 経営所得安定対策
令和6(2024)年基本法改正にあたって「価格転嫁」が議論された。実効を期すれば輸入品への転換や消費の減退が懸念され、乳価のような公の交渉の場は他部門では難しい。議論は、価格政策は市場原理で、経営・所得政策は直接払いで、という基本を再確認させることになった。
日本はガット合意(1993年)後の10余年を構造対策に費やし、2007年に所得支持政策を導入した。農業産出額(収穫量×庭先価格)は2010年の8・1兆円を底に上昇に転じ、制度発足10年後の2016年に9兆円まで回復し、現在この水準で推移している。米の全量買い入れ・二重米価は1952年から1969年までである。経営所得安定対策は単独の政策としてすでに最長である。
今次基本法改正に先立つ「食料・農業・農村政策審議会」答申(令和5年9月)は、諸施策の見直しの項で、「経営安定対策の充実」と継続を明記し、「各種品目別の経営安定対策や、収入保険等のセーフティネット対策を引き続き講じていくとともに、普及・利用促進を行う」としている。
担い手対策の担い手
改正農基法は「農業経営の支援を行う事業者の事業活動の促進」(第37条)を新設した。農水省の改正基本法地方説明会資料「食料・農業・農村基本法改正のポイント」(令和6年7月)は37条の事業者を「サービス事業者」と名付け、「農作業受託、機械リース、人材派遣、農業経営に係る情報分析・助言等の農業経営の支援を行う事業者」と定義し、さらに、次のように支援事業を例示している。いずれも「スマート農業」である。
・専門作業受注型(農作業受託)=ドローンによる防除や追肥作業、リモコン草刈り機等を活用した畦畔(けいはん)管理の代行
・データ分析型=ドローンを活用した作物の生育状況のセンシング 、生産や市況のデータの分析による最適な出荷時期の提案
農基法に、担い手・後継者の確保が困難な小規模農家への表立った支援策はないが、この階層は農協正組合員390万の太宗を占めている。このサービス事業、また就労可能な366万人を蔵する「農福連携」(46条)等への農協の対応は、大規模農家と同時に担い手不足の小規模農家対策として重要である。
農協事業の新たな地平
令和6年農業構造動態調査結果(令和6年2月1日現在。標本調査)によると、「データを活用した農業を行っている農業経営体」の総経営体に占める割合は、前年の26・1%から27・7%に高まっている(組織経営体と一戸一法人を合わせた「団体経営体」では60・7%から62・7%に)。
しかし、2020年センサスに基づく「データを活用した農業経営の分析について」( 農水省 令和3年2月)によると、普及率は北海道が49・1%と突出しているが、農業地帯でも普及率が低いところが少なくない。
本紙のコラム「スマート農業の風」はデータ利用の費用対効果に触れているが、全農の営農管理システムZ―GISは廉価である。都市農協の特定生産緑地の管理にも活用されている。スマート農業の入り口としてのZ―GISの普及と農協の分析技術の蓄積は、大規模農家対策として極めて有効であり、急を要する。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日