農業知らずの財務省【小松泰信・地方の眼力】2024年11月13日
財務省は11月11日、国の農業予算に対する考え方を明らかにし、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会に示した。
財務省が求める農業の「構造転換」
財務省は、OECD(経済協力開発機構)が開発したPSE(農業保護水準を示す指標:Producer Support Estimate)をOECD各国と比較し、日本は相対的に高い状況とする。具体的には、農業者受取額(農業粗生産額+直接支払受取額)に対するPSE比率は41%。最も多いのがノルウエーの60%。スイスは47%。農業者の皮膚感覚からすれば、にわかに信じがたい数値。スイスに匹敵する農業保護とは、驚き、桃の木、財務の奇。
国際的義務に従って、世界の貿易の多角的かつ無差別的な拡大に貢献することを目的のひとつとして運営されているOECDが開発した指標に立脚し、「法人経営や大規模化、輸出の推進等、可能な努力を積み重ね、多額の国民負担に支えられている日本の農業を自立した産業へと、まさに『構造転換』していく必要がある」と、迫ってくる。
要するに、小規模家族経営が大宗を占める現在の農業構造は、多くの国民に負担を強いる自立できないお荷物産業。これを法人化、大規模化、そして輸出を促進することによって、自立した産業にしていく『構造転換』が必要、と財務省は考えている。
構造転換のターゲットは何?
「供給熱量の高い米・麦・大豆等は、食料安全保障上、重要な作物」とした上で、「これらを生産する土地利用型農業では、経営所得安定対策等として多額の財政負担が生じており、支出のあり方等について常に検証が必要」とする。
すなわち、構造転換のターゲットは、米・麦・大豆等の土地利用型農業。
「現在の輸入品の大宗は、政治経済的に良好な関係の国からのもの。こうした品目については、あえて国民負担で国内生産を拡大するということではなく、輸入可能なものは輸入し、他の課題に財政余力を振り分けるという視点も重要ではないか」と、自国生産、すなわち自給にこだわるべきではない、と穏やかに諭す。
しかし、今日の世界情勢をみるときに、「政治経済的に良好」であることがいかに危ういものであるかは、多くの国民が知るところである。まして「輸入」を奨励している品目は、国民の生命に直結する食料である。さらに、気候変動や世界的人口増加等々を考慮に入れたら、たとえ「政治経済的に良好」であっても、それが反古にされざるを得ない事態を想定しておかねばならない状況である。だから、当コラムなどは食料自給率にこだわっている。この国の食料自給率は、国民の基礎代謝量すら賄えない38%。すなわち危険水域にあることを、カネカネカネの財務省はご存じないようだ。
財務省の問題発言
その食料自給率に関しては、改正食料・農業・農村基本法において、食料自給率の位置付けが格下げされたことから、「食料自給率は複数の目標の中の1つとして規定され、位置づけが相対化されていることに留意」と念を押す。
さらに、「政策的に働きかけることが困難な個人の食生活に左右される食料自給率を、食料安全保障の確保に関する政策目標として過度に重視することは不適当」、さらには「食料自給率は、多額の補助金を投入しても、実際に上昇効果があるのか判断が難しい面がある。また、例えばかなりの年月をかけて自給率を数年で数%上昇させることが可能だとしても、それにどれほどの意義があるのか熟考する必要。さらに、補助金が剥落すると自給率も落ちるのであれば、なおさら、その意義について慎重に考えざるを得ない面があるのではないか」と、問題発言のオンパレード。
まず、「過度に重視することは不適当」であることは否定しない。ただし、当コラムが不適当とするのは、あくまでも「過度」であること。危険水域と認識するから警鐘を乱打しているだけ。
「OECD(経済協力開発機構)が開発したPSEを過度に重視することがよっぽど不適当」と考えるがいかがですか。
次に、費用対効果について指摘しているが、これは考えているふり。カネを出さない奴の決め台詞。
さらに、自給率上昇に「どれほどの意義があるのか熟考する必要。さらに、補助金が剥落すると自給率も落ちるのであれば、なおさら」とくると怒りしかこみ上げてこない。意義は「兵糧攻め」にあえばわかる。しかしその時は終わり。財務官僚が落命するのは自己責任だが、財務省の出し渋りによる人災は御免被る。
そしてご丁寧に、補助金が剥落したとき、連動して自給率も落ちる可能性に言及しているが、補助金を剥落させないのが国家の責務。そんなイロハのイもわからない連中が税金を扱っているわけ。とにかく出さない理由を上げているだけ。
日本人は輸入米を食え!?
ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉で受け入れることになった、ミニマム・アクセス(MA)米が76.7万トン。加工用・飼料用等として販売することで多額の財政負担が発生しているため、緊急時には市場に影響を与えない範囲で活用するルールを設けるなどにより、備蓄の量的・金銭的負担の減少の検討を求めている。
ここにもふたつの問題がある。ひとつは、本来義務でなく「輸入機会の提供」に過ぎないMA米輸入の常態化の提起であり、もうひとつが、輸入米を主食用に仕向ける道を開くことである。
まったくこれまでの経過や、国内生産者の状況を無視し、さらには日本人の主食をないがしろにした暴論提起である。
財務省に「兵糧攻め」
財務省は、今後想定される「稲作を中心とする副業的経営体に属する基幹的農業従事者(現在60万人)」などの離農を、「農地の最大限の集約化や効率的な法人経営・株式会社の参入推進といったチャンスに変えるという視点が重要」とする。
水田政策の見直しにあたっては、「食料自給率に過度に引きずられることなく、国民負担最小化の視点は重要」と念を押す。そのためにはまず「水田活用の直接支払交付金における(自給率の観点からも非効率な)飼料用米の交付単価について、来年度予算においても引き続き引き下げを実施し、まさに『安定運営できる水田政策』においては交付対象から外すべき」とまで提起する。
飼料米生産は、自給率の向上はもとより、稲作農家にとっても畜産農家にとっても、意義のある取り組みである。さらには、水田が守られ、多面的機能の持続的創出に貢献する公益性の高いものである。
多面的機能の持続的創出などについても一顧だにしない財務省には「兵糧攻め」あるのみ。
「地方の眼力」なめんなよ
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