関係人口広げ 豊かな社会へ 利他の心で協同を紡ぐ(2)文芸アナリスト 大金義昭氏2024年2月1日
第69回JA全国女性大会が1月17、18の両日、東京都内で開かれた。大会を機に、JA女性組織の活動を長い間見てきた文芸アナリストの大金義昭氏に寄稿してもらった。大金氏は「市民社会の真ん中で『関係人口』を増やす」活動や、「利他の心を磨き協同を紡ぐ」ことを期待する。(関連記事にJA全国女性大会詳報、JA全国女性協会長インタビュー)
関係人口広げ 豊かな社会へ 利他の心で協同を紡ぐ(1) より
文芸アナリスト 大金義昭氏
「関係人口」の拡大
「過疎」という言葉がある。この言葉は1960年代後半に「人口減少地域における問題を"過密問題"に対する意味で"過疎問題"」と呼ぶ「行政用語」として登場した。「関係人口」も同様だ。総務省が設置した「これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会」(2016年・小田切徳美座長)が18年に公表した報告書によれば、「関係人口」は次のように定義される。すなわち「移住した『定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、地域や地域の人々と多様に関わる者」である。
JAグループもこれを受けて「関係人口」の拡大を掲げたに違いない。「関係人口」とは言い得て妙だ。この言葉は、カール・マルクスが「フォイエルバッハにかんするテーゼ」で唱えた「人間の本質とは、現実には、社会的諸関係の総和である」(岩波文庫『フォイエルバッハ論』)という定義を想起させる。人間存在の本質が「社会的諸関係の総和」なら、「関係人口」の拡大こそ農業・農村を豊かにする基本ではないか。
毎月顔を合わせる友人にMさんがいる。彼は06年までニュージーランドで22年間生活し、ホテルや旅行業などのツーリズムに携わってきた。ホスピタリティー・マインドに溢(あふ)れ、コミュニケーション力に長けたネイティブ並みの英語力が「強み」だ。パートナーに親の介護が求められ、一緒に帰国して宇都宮市に定住した。
栃木県には観光地として国際的に知られる日光がある。持ち前の英語力を駆使した通訳案内士として、世界各国から来訪する観光客のガイドに忙しい。そんな彼がある日、ヨーロッパから訪れた一人の老婦人を案内し、別れ際に告げられた言葉がある。「この旅であなたと出会えたことが一番の土産だ」と。通訳案内士冥利(みょうり)に尽きると、彼は半白のいが栗頭をなぜながら教えてくれた。
「他者の痛み」を共有
絶対的な少数派(マイノリティー)に転じた農業・農村が復活する契機はあるか。確実にあり、「関係人口」の拡大が突破口だ。そのためにはまずJAが男性中心の「親方日の丸」的な発想から脱却し、外部に広く開かれた説得力のある組織・事業・活動を展開したい。
男性集団が黒づくめで一堂に会し、ひとえに「最適解」を求めるような旧来のイメージを払拭しなければ、「関係人口」からのリスペクトは得られない。口先だけでなく「他者への配慮」を実践し、「利他の心」を磨いて「多様性」のなかに互恵的な関係を広げる。市民社会の真ん中に「食と農」を守るJAがいて協同組合の役割を発揮すれば、得がたい「よりどころ」として幅広い共感や共鳴の輪が外延的に広がるはずだ。
友人のMさんのように「あなたと出会えたことが一番」と言われるような関係を地道に積み重ねたい。同時代人として互いに喜び合える「他者との共存」を目ざす。そうした機運が確実に広がっている。食農教育・学校給食・こども食堂・フードバンク・ファーマーズマーケット・地消地産・有機農業・農福連携・グリーンツーリズムなど、積み重ねてきたキャリアがあり、女性や青年がその中心にいる。
JAは正組合員と准組合員の数が逆転し、総組合員数の減少が進行している。JAに結集する女性や青年がいかに貴重な存在か。彼らが責任ある立場で存分に活躍できる環境や条件を整える。なかでも男女共同参画はその要(かなめ)だ。ジェンダー・ギャップ指数で下位の常連に居座るこの国だからこそ、JAは思い切った共同参画を促進したい。
海外報道によればドイツでは政府の農業補助金削減計画などに抗議する農民の大規模なデモが全土に広がっているという。ドイツやフランスなどの高い食料自給率は、地政学的な要因からも農業・農民をリスペクトする市民意識に支えられていると聞く。農民と市民との間には確かな信頼関係が築かれているのだろう。
ふり返って、この国の場合はどうか。農業者やJAの言動がとかくに「我田引水」と受け止められ、真意が伝わらずに誤解されてきた。そのためか「運動」という名の「運動」がすっかり影を潜めている。いま流行りの「レジリエンス」(回復力)を活性化するためにも、旧来の「運動」を乗り越える新しい「運動」の形態を再構築したい。それはどのような形態になるのだろう。格差と貧困そして分断と孤立が深まる中で、他者の痛みや喜びを共有し、協同組合としてのJAが経済・社会的に果たす役割は大きい。
今西錦司が説く「変わるべきときがきたら、皆いっせいに変わる」進化論のように、JAもまた男女共同参画を基軸に、皆いっせいに変わるべき時代に直面している。
(関連記事)
JA全国女性協・久保町子会長に聞く(1)食と農の大切さ自明 女性の観点もっと
【JA女性組織活動体験発表】
(1)JA女性部の仲間と共に 秋田県 JAあきた湖東女性部 菅原まり子さん
(2)素敵な仲間と可能性広がる女性協活動を 群馬県 JA前橋市女性協 北爪きよ子さん
(3)地域と親子をつなぐために、私たちができること 静岡県 JAとぴあ浜松女性部 二橋佳子さん
(4)ピンチはチャンス! ~新たな活動の始まり 和歌山県 JAありだ女性会 田中清美さん
(5)「信頼・思いやり・感謝」手と手でつなげよう女性部活動 島根県 JAしまね出雲女性部乙立支部 今岡千恵子さん
(6)想いを紡ぎ次世代へ~私たち女性部活動の新たな挑戦~ 福岡県 JAふくおか八女女性部 松田玲子さん
重要な記事
最新の記事
-
【第46回農協人文化賞】地域包括医療を推進 厚生事業部門部門・長野県厚生連佐久総合病院名誉院長 夏川周介氏2025年7月15日
-
【特殊報】ナシにフタモンマダラメイガ 県内で初めて確認 島根県2025年7月15日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 島根県内全域で多発のおそれ2025年7月15日
-
【注意報】野菜類、花き類、ダイズにオオタバコガ 滋賀県内全域で多発のおそれ2025年7月15日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 栃木県全域で多発のおそれ2025年7月15日
-
米価 7週連続で低下 5kg3602円2025年7月15日
-
農業法人 米販売先 農協系統がメインは23% 日本農業法人協会2025年7月15日
-
2025年産米 前年比56万t増の見込み 意向調査概要2025年7月15日
-
テキサス洪水被害は対岸の火事か 公務員削減が安全・安心を脅かす 農林水産行政にも影響2025年7月15日
-
コメ増産政策に転換で加工用米制度も見直しが急務【熊野孝文・米マーケット情報】2025年7月15日
-
青森米パックご飯ご愛顧感謝キャンペーン 抽選で200人にQUOカード JA全農あおもり2025年7月15日
-
農機担当者向け「コンプライアンス研修会」を初開催 JA全農やまなし2025年7月15日
-
農機フェア2025を開催 2日間で5309人が来場 富山県JAグループ2025年7月15日
-
GREEN×EXPO2027 特別仕様ナンバープレート交付記念セレモニー開く 横浜市2025年7月15日
-
「幻の卵屋さん」アリオ北砂で5年ぶり出店 日本たまごかけごはん研究所2025年7月15日
-
子ども向け農業体験プログラム「KUBOTA AGRI FRONTの夏休み2025」開催 クボタ2025年7月15日
-
香春町と包括連携協定締結 東洋ライス2025年7月15日
-
官民連携 南相馬市みらい農業学校生へ農業経営相談機能等を提供 AgriweB2025年7月15日
-
鳥インフル 米ワシントン州などからの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年7月15日
-
鳥インフル ブラジルからの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年7月15日