JA出資型法人 事業分野拡大し地域農業再建2017年12月18日
・JAは総合的な対応を
・人材と産地育成
・集落営農は小さな農協
JA全中は12月14日、東京都内で29年度JA出資型農業法人全国交流会を開いた。JA担当者ら約120人が参加し先進事例の報告などをもとにJAによる農業経営の課題を考えた。
◆JAは総合的な対応を
平成27年の基幹的農業従事者数は175.4万人で5年前の22年とくらべて30万人減少、▲14.6%となっている。この5年間は年間▲6万人だったが、28年から29年にかけては▲7.9万人と減少が加速化している。耕作放棄地も年々増加し27年には42.3万haになった。
こうしたなかJAグループは第27回全国大会決議で、担い手不在地域での農地管理や、新規就農者育成を進める手段のひとつとしてJAによる農業経営に取り組むことを決議した。
現在、JA出資型法人は全国で646法人あり、JA直営型経営59と合わせて、JAによる農業経営は705法人(平成29年5月末)となり取り組みが拡大している。全国交流会ではJA全中の肱岡弘典常務が「正組合員はもちろん、内外からJAがあるから農業と農地が守られていると言われるような取り組みを」と呼びかけた。
基調講演は東京農業大学の谷口信和教授による「地域農業の担い手問題の最新局面とJAによる農業経営の新地平」。
谷口教授は、担い手育成や耕作放棄地対策などの課題解決に向け、JAによる農業経営こそ「総合的な追求」が求められていると強調した。
たとえば、耕作放棄地を活用した新規就農の促進、放牧を活用した鳥獣害対策、新規就農者もすぐに参加できる農産物直売所の拡充、飼料用米生産と耕畜連携への取り組みなど、いくつもの課題を連関させた地域農業維持・再建こそJAによる農業経営の意義だと指摘した。
そのうえでこれまでのJA出資型法人の発展の姿を整理した。ひとつは家族経営では維持できなくなった水稲作を中心に、作業受託を請け負う目的で設立された法人が全面的に農業経営を行う組織となり、品目も野菜や果樹、畜産へと部門を広げた。
さらに耕作放棄地復旧、再生、新規就農者研修など地域農業資源そのものの創出への取り組みや、地域に存在する農業関連事業者などと連携して出資法人を設立し、出資者の枠と経営部門も総合化するなどへ発展をした事例もあることなどを指摘した。
また、岐阜大学応用生物科学部の李侖美准教授がJA出資型法人の全国アンケート調査分析を発表した。それによるとJA出資型法人の耕作放棄地の復旧実績は2008年調査では78.4haだったが、2016年には409.1haまで急増したことが明らかになり、李准教授は「JA出資型法人は重要な貢献をしている」と評価した。
◆人材と産地育成
実践報告は、静岡県のJAとぴあ浜松出資の(株)とぴあふぁー夢・小松義久事業部長が「玉ネギ産地再興への挑戦」と題して行った。
同社は1月から3月にかけて出荷できる白玉ネギ、黄玉ネギを強みに、遊休農地を露地野菜栽培のために復旧してきた。また、担い手育成のための研修事業や、地域住民の雇用拡大なども目的にしている。玉ネギの作付け面積は平成22年の118haから28年には153haに拡大した。
復旧した農地はJAが調整機能を果たし、既存の農業者の規模拡大のために再配分したり、新規就農者22名にも活用されいる。また、JAは新たな遊休農地を同社が借り受ける機能も果たしている。産地復活とともに人材育成を通じた地域農業への貢献もめざしている。
(写真)小松義久・(株)とぴあふぁー夢事業部長
長野県のJA佐久浅間の出資法人、(株)グリーンフィールドの高栁利道社長は「肉用牛・養豚から耕種部門にまたがる総合経営」と題して報告した。平成16年に設立し遊休荒廃農地の活用と畜産農家支援を柱にJAとともに農業振興してきた。
農場事業部門は耕作放棄地を解消してキャベツ、ハクサイ、レタスなど加工業務用向けや直売所向けの野菜生産と、学校給食用の主食用米、ビール会社向けの小麦、ホップの生産を行うとともに、農業後継者の育成にも取り組んできた。役員・従業員30名あまりの体制でこれまでに農地をのれん分けして4名が農業者として自立したという。
畜産事業部門はJA佐久浅間が農家との間で預託した家畜を肉牛11牧場で肥育する事業が中心。繁殖も含めて1700頭を飼養している。また、牛よりも出荷サイクルの早い養豚事業も導入し2500頭を出荷。同社の販売金額は11億円を超えた。
地域では畜産農家の高齢化が深刻となっており、同社が核になってブランドを確立し畜産物の安定的な供給を担うことがいっそう重要になるなか、安定経営と生産拡大をめざす。
(写真)高栁利道・(株)グリーンフィールド社長
◆集落営農は小さな農協
宮崎県のJA都城管内の(農)きらり農場高木の松原照美代表理事組合長は「集落の農地を守る集落営農法人とJAとのかかわり」と題して報告した。
同法人の理念は「農地は高木地区のみんなで守ろう」。昭和60年代から営農改善組合を組織し、機械の共同利用や農作業受託に取り組んできたが、農地の利用権設定と農産物の販売など一つの経営体として農地を守ろうと平成18年に設立した。
構成員数は340名あまりで農地面積は203haある。短期、長期で利用権を設定し、水稲、甘藷、バレイショ、サトイモ、ソバ、飼料用米、野菜など多彩な作物の連作体系を築き、耕地利用率は100%以上を実現している。
JAからの出資を得ることによって、JAが法人にコーディネーターを配置し、JAの販売事業と連携した契約栽培、栽培品目提案と生産資材の一括予約による価格引き下げなども実現している。契約栽培等の実現によって「われわれ法人は安心して栽培できる」という。法人化によって遊休農地の解消や地域雇用の場を作り出すことも実現。今後は農地の長期利用権設定面積の拡大による集落一農場体制をめざすといい、JAには「農協としての集落営農法人の活動支援を」と期待を込めた。
(写真)松原照美・(農)きらり農場高木代表理事組合長
(関連記事)
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・【農協研究会・報告(3)】JAの強みで地域農業の再建を 谷口信和・東京農業大学教授(17.12.18)
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