新規就農者数全国一 環境制御システムの活用で園芸振興の担い手続々 現地レポート/JAさが・みどり地区トレーニングファーム(下)2026年3月2日
佐賀県では園芸振興をめざし、最先端の「環境制御システム」を導入したトレーニングファーム(TF)を2017年に設置、毎年、新規就農者を育成している。きゅうりでは新たに24人が就農し、TF設置前の栽培面積1200aが2024年には2300aへとほぼ倍増した。販売金額では6.7億円から16.7億円と倍以上に伸びた。環境制御システムの導入によって高収量を実現し、産地としての信頼も高まっている。現地を訪ね新たな担い手たちの思いを聞いた。
原田諭さんと理香さん夫妻
県の最優秀賞に輝く
山口さんたちの指導を受けて2020年に経営を開始したのが原田諭さん(41)、理香さん(41)夫妻だ。ともに介護の仕事に携わっていたが、「家族の時間を持ちたい」との思いから夫婦で農業をとTFの2期生に応募した。
ハウスに入ったとき、それまで考えていた農業のイメージが変わった。「勘や経験ではなく、数値で言葉を交わしている。きゅうりの声を聞き、理想的な環境に整えていく。工場のようだと思いました」。

環境制御装置できゅうりの生育を最適に
ハウスは6連棟で27a。TFに導入されているのと同じイノチオアグリ社の環境制御システム「エアロビート」と自動灌水制御システム「アクアビート」を導入している。
このシステムは、センサによってハウス内環境(温度、湿度、CO2濃度、土壌温度、灌水量など)とハウス外環境(外気温、日射、風速・風向など)をリアルタイムで計測するとともに、光、温度、湿度などを作物の「光合成が最大になるよう調整する」。換気窓やカーテンの開閉、冷暖房、CO2、ミストなどの作動をコンピュータで制御する。センサからのデータをもとに季節や時間帯による温度の変化にも対応できる。「アクアビート」は時間制御、流量制御、液肥倍率制御による灌水ができる。
一方、土壌や肥料などのアドバイスや、センサが示すデータの見方などについてはイノチオアグリ社のアドバイザーがフォローアップしている。
「きゅうりの栽培管理や光合成についてなどしっかり学ぶことが大事ですが、データを駆使して植物が求める環境をつくれば1年目からベテラン農家の域に近づけるシステムだと思います」と原田さん。
実際、就農3年目にはJAの勧めで県の共進会に挑戦したところ、最優秀賞に輝いた。その年の10a当たり単収は42t。全国平均は同18tだから、驚異的とも言える高単収を実現した。目標はこの単収を超えることと秀品率の向上だ。
理香さんは「就農に不安はありましたが、今は家族との時間も持て精神的に全然違います」と話す。
農家の意識改革にも
TFが環境制御システムによるきゅうり栽培を始めたことで地域の農家の意識にも変化が生まれてきた。原田さんのように実績が示されたからだ。
親元就農をした山口弘嗣さん(34)は5年前にエアロビートとアクアビートを導入した。
山口弘嗣さん
「それまではカーテンの開閉も手作業だったが、それがなくなり観察の時間もできました」と話す。環境制御システムを導入して気付いたのは、手作業での灌水では不足していたこと。システムの導入で収量も向上した。スマホによる遠隔操作もできるため、ハウスを離れることができるようになり、仲間の部会員のハウスを視察するなど行動の幅が広がった。
自動で開閉する施設
山口さんはきゅうりのほか、稲作と今年からは麦作も行っている。「環境制御システムを入れているから複合経営もできる。経営の展望が持てるようになりました」と話す。
灌水も自動化
最先端の技術の導入と新規就農育成によって生産量を伸ばし、産地としての信頼も獲得している。JAさが杵藤園芸センターの大久保光賢課長は「生産者も若返り、産地に対する市場の目が変わってきました」と手応えを話す。
JAさがの大久保課長
【JAさが みどり地区トレーニングファーム】
きゅうりのほかトマト、2025年からはイチゴもスタートした。研修生の要件は農業に対する強い意志と意欲のある新規参入者、後継者。みどり地区(武雄市、鹿島市、嬉野市、大町町、江北町、太良町)で居住し就農できること。18歳以上で概ね50歳未満だが、50歳以上でもやる気を重視。研修費用は無料で、生活費は国の新規就農者育成総合対策事業の就農準備資金を活用する。要件に該当しない場合はJAが独自資金で支援(年120万円)する。ほかに自己資金概ね300万円の用意も要件。
研修中に就農の準備も進める。ハウスの建設には国、県、市町の補助金とJAの助成を活用するが、ハウスはJAのリース事業として就農者に貸し出す。ハウスにはイノチオアグリ(株)のエアロビート、アクアビートを始めとした機器を導入する。同じ機種を導入することで生産者間での情報共有を図ることも狙いだ。
研修2年目には1年目の研修生に指導するが、パートを雇用することを想定し、雇用トレーニングの意味も持つ。新規就農者の増加で雇用の場も生まれて地域の活性化にもつながっている。
【エアロビート、アクアビート】
エアロビートは環境制御システム。ハウス内の温度、湿度、CO2濃度などと、ハウス外の気温、風速、風向、日射量、降雨などの情報をセンサが測定し、それをもとに作物にとって最適な栽培環境を設定できる。それによって換気窓やカーテンの開閉、冷暖房の稼働などハウス内の設備をエアロビート1台できめ細かく制御することができる。あらかじめの設定に従い、たとえば日射量が多くなりハウス内の温度が上がれば、換気窓を開けるなど、適切に設備を動かすことができる。エアロビートはハウス内のさまざま設備を無駄なく効率よく動かすためのコントローラー、いわばオーケストラの指揮者の役割を果たす。
アクアビートは自動灌水制御システム。設定した内容で灌水が自動で行われるため人の手による作業は必要ない。エアロビートと連携させれば日射量に応じて灌水を細かく調整することができる。
こうしたシステムの導入と活用によって、急な天候の変化でハウスに駆けつける、そのために遠出はなかなかできない、自分の時間が作れないといった環境を変えることができる。現地レポートで紹介したように仲間のハウスに見学に行き、栽培技術の向上に役立てたり、米麦との複合経営も可能となるなど足腰の強い農業づくりに貢献している。
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