JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
【総合JAビジョン確立のための危機突破・課題別セミナー】公認会計士監査移行の対策 JA横浜版を確立 2016年12月13日
内部統制常にチェック
四半期ごとに進捗状況報告
公認会計士監査に備えて、JAではどのような準備が必要か。この課題に対して、その取り組みが最も進んでいるJAの一つ、JA横浜の波多野優常務に報告してもらった。
今回のJA改革の柱として公認会計士監査の導入がある。現在、中央会が何とかしてくれるだろうと考えているJAと、自身でその対応策を検討しているJAがある。本セミナーもJA自身での対応策の一環で行われている。今までJA監査機構や常例検査に帯同した公認会計士の監査を受けたことはあるが、全面的に公認会計士監査を受けるのは初めてであり、その対応をどうすべきか、ここで内部統制と会計処理の妥当性という課題が浮上した。
内部統制については、JAでも法制化されることを想定して、平成20年から整備に取り組んだ経緯がある。結局、法制化はされなかったが、大会社や金融機関は会社法と金融商品取引法により内部統制整備が求められている。その各法の目的は、会社法が株主から経営を委ねられた取締役が健全な会社経営のために果たすべき善管注意義務・忠実義務がベースとなっている。
一方、金融商品取引法は、証券市場への投資家の信頼確保のために、財務報告の信頼性を確保することが目的とされている。
内部統制が法制化されていないJAの公認会計士監査が今後どのように行われるのか、不透明であるが、やはり信用・共済事業を営んでいる以上、また、イコールフッティングの観点から金融商品取引法に基づき実施されることを想定して監査対応を図るべきである。
内部統制整備については、法の目的に照らして整備されるべきもので、公認会計士監査を受けるために整備するものでないことは明白である。しかしJAにとっては、直近の課題として監査証明を得るためにまず内部統制整備を進めることが重要であるのも事実である。
内部統制の中身は、1.「全社的な内部統制」、2.「決算財務報告についての内部統制」、3.「業務処理統制」、4.「IT統制」の4つの要素からなることは周知のことだと思う。当JAでは平成20年から専任担当者を配置し、粛々と内部統制の整備を続け、金融商品取引法に求められている内部統制報告書も作成している。その結果が、事前レビューにあたる監査法人の短期調査においても良好な結果を得て、公認会計士監査に対処できる水準に達した感触を得ている。 本稿では、「決算財務報告についての内部統制」を中心にするが、当JAは内部統制整備計画を策定し、理事会承認を経て、四半期ごとに事務システム委員会で進捗状況が報告されている。そして、「全社的な内部統制」については、検査室が主管となり、検査マニュアル等を参考にしながらJA横浜版として34項目について各部門が評価し、検査室の評価を受け、組合長に報告されている。
「業務処理統制」については、8年間の積み重ねもあり、財務報告に影響のある業務を選定し統制文書等の3点セット(業務フロー・業務記述書・リスク統制手続対応表)を作成しており、各部門に内部統制担当者を配置し、統制文書に影響のある事務手続きが変更された場合、即座に統制文書の変更手続きに入る体制を整えており、職員にも内部統制の重要性を理解させるために研修も実施している。28年度も7つの統制文書の変更を行った。
「IT統制」については、独自システムを多数運用しており、大きな課題を抱えている。現在、監査法人とコンサルテイング契約を締結し、整備を進めている状況である。
さて、「決算財務報告についての内部統制」である。会計処理の妥当性と併せて、監査証明を得るための肝の部分である。適正な決算財務報告を行うには、最終的な財務諸表作成まで内部統制環境が整っているかということと、会計処理が適正に行われているか、ということが重要である。
利益操作は決して許されないため、それを防ぐための仕組みを財務諸表の作成段階においても作る必要がある。いくら他の内部統制が適正に実施されていても、財務報告の作成過程で適切な統制が利いていなければ、適切な財務諸表の作成は難しい。
JAの会計処理については、会計方針の選択と会計上の見積りが論点となる。今までは「中央会の指導通りで処理しています」で済んだことが、これからはJA自身で判断して、会計方針の選択や会計上の見積りを行うこととなるため、判断の根拠を合理的に整理し、公認会計士に理解してもらうことが必要になる。
会計処理の妥当性については、JA監査機構や常例検査等で監査を受けており大きな問題はないが、細部について課題が多数残っている状況である。総代会資料の注記表に記載される重要な会計方針、退職給付会計の割引率の選択、税効果会計の繰延税金資産の回収スケジューリング、固定資産の減損会計において、前提となる資産のグルーピング、部署別損益の把握、発生した場合の将来にわたる課税所得の見積もりなど合理的な根拠をもって説明することが必要となる。特に会計上の見積り項目など利益操作が発生する可能性の高い部分については注意が必要である。
当JAでは監査法人と昨年から会計処理について顧問契約を締結し、会計処理毎に検討を行っており、会計処理の適正化と担当者の資質向上を図っている。会計処理においては、例えば資産の償却・引当額の算定基礎となる資産査定業務が重要な位置づけとなり、その統制環境が重要になるということである。
ここでの4つの内部統制と会計処理は複雑に関係しており、監査対応のためだけでなく、内部統制整備を進めていくことがJAの将来にとって重要であることを結びとしたい。
(写真)JA横浜・波多野優常務
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