JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
事業譲渡はどのような場合か―M&Aの際の手法 一部事業の切り離しにも2017年1月10日
株式会社クリフィックスFASマネージング・ディレクター竹埜正文氏
一般の株式会社において、事業譲渡とはどのような場合、どのような形で行われるかを竹埜正文氏が、新世紀JA研究会の危機突破セミナーで報告。以下は、その要旨を同氏にまとめてもらった。
【1 事業譲渡とは】
事業譲渡とは、会社法において、(1)一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要なる一部を譲渡し、(2)これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、(3)譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に旧商法25条に定める競業避止義務を負う結果を伴うものとされる(最判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁)。従って、単なる資産、権利あるいは義務の譲渡は、事業譲渡に該当しない。
【2 事業譲渡が用いられる場面】
事業譲渡は、M&A(企業買収または事業再編)の場面で、一般的に用いられる手法の一つである。実務的には、例えば、(1)経営戦略としての中核事業の強化目的等による非中核事業売却、(2)経営革新あるいは後継者育成目的等のためのグループ内再編、(3)経営効率化等のための事業分社化、(4)事業再構築等の一環としての不振事業または優良事業の売却等の場面で活用されている。以上とは別に、(5)買い手側の意向として株式譲渡の代替手法として事業譲渡が選択される場合もある。
【3 M&Aの手法】
実際のM&Aでは、(1)「株式譲渡」等の持分移転型、(2)「事業譲渡」等の事業移転型、および(3)「合併」等の合体型の再編手法があり、それぞれの手法の特徴、関係当事者の事情、あるいは当事者の判断等により、具体的な手法が選択されている。
【4 事業譲渡の特徴】
一般的な事業法人(株式会社)において、事業譲渡を選択するメリットとしては、(1)法人の営む一部の事業のみの譲渡が可能であること、(2)簿外資産または簿外負債を承継しないこと、(3)承継する従業員および契約を限定できること、(4)特に約定しない場合、(譲渡側に)20年間競業避止義務が発生(会社法第21条)すること、および(5)のれん相当額について償却(費用化)ができるため、(譲受側に)税務メリットが生じることがあること等があげられる。
一方、事業譲渡のデメリットとしては、(1)個別の資産、取り引きごとに譲渡の手続が必要で、(他の再編手法と比較して)手続が煩雑な場合があること、(2)免許および許認可等が承継されないこと、(3)(当事者が望む)取引先との契約等を承継できないリスクがあること、(4)税法上は資産等の譲渡と同様であり、譲渡益が生じる場合には、当該益に対して(譲渡側で)課税が発生することがあること等があげられる。
【5 事業譲渡の手順】
一般的な事業法人(株式会社)が事業譲渡を行う場合、原則として株主総会の特別決議が必要とされる。会社法では、「事業の全部又は重要な一部の譲渡」を行う場合、株主総会の特別決議つまり議決権の3分の2以上にあたる賛成が必要となる(会社法467条1項、同法309条2項11号)。(ただし、譲渡する事業の規模が小さい場合等には、簡易な手続きでできる例外規定もある。)
実務的には、(1)譲渡側および譲受側の両当事者による譲渡検討についての基本合意、(2)譲受側による譲渡対象事業の調査、ならびに両当事者による譲渡条件の交渉等を経て、(3)譲渡条件について合意され、(4)当該合意を前提とした事業譲渡契約が締結される。(5)株主総会承認が必要な場合、株主総会による事業譲渡契約承認を経て、(6)資産あるいは債権譲渡、債務引受等の手続きを行う。特に、契約引継ぎについて契約の相手方の承認が必要な場合には、当該契約の相手方との交渉も必要となる。
最終的に、(7)事業譲渡契約等により定められた効力発生日に事業が譲渡される。また、事業譲渡の対価がある場合には、対価が支払われる。なお、不動産のように登記手続きが必要な資産については、変更登記等の手続も必要である。
当事者間で契約される事業譲渡契約における主な合意事項としては、(1)目的、(2)対象事業、(3)譲渡財産、(4)譲渡価額・支払方法、(5)譲渡日時、(6)移転手続、(7)事業譲渡承認時期、(8)譲渡会社の善管注意義務、(9)表明保証、誓約事項、(10)競業避止義務、(11)従業員の引継、(12)事情変更、(13)効力発生時期、および(14)その他の契約事項等があげられる。
【6 事業譲渡事例】
近年実施された公開会社の事業譲渡の事例を前掲の分類に整理すると、次の通りである。
(1)経営戦略として核事業の強化目的等による「非中核事業売却」
・グンゼ株式会社(平成28年2月開示)
・三信電気株式会社(平成28年2月開示)
(2)経営革新あるいは後継者育成目的等のための「グループ内再編」
・古河電気工業株式会社(平成28年9月開示)
・藤田観光株式会社(平成27年11月開示)
(3)経営効率化のための「事業分社化」
・クックパッド株式会社(平成25年11月開示)
(4)事業再構築等の一環としての「不振事業または優良事業売却」
・ユニーグループ・ホールディングス株式会社(平成28年3月開示)
・データリンクス株式会社(平成28年2月開示)
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