【ゲノム編集技術を知る】遺伝子組換えとどう違う?2021年1月28日
2020(令和2)年12月11日にわが国初のゲノム編集食品としてGABA(ギャバ、ガンマ-アミノ酪酸)含有量を高めたトマトの届け出を厚生労働省と農林水産省は受理した。開発企業は今年5月ごろから希望者に家庭菜園向けの苗を提供し、秋には生産者向けの種子販売も始める予定だ。ゲノム編集技術を活用した超多収の米や天然毒素を作らないジャガイモなどの開発も進められている。ゲノム編集は従来の品種改良の延長線上にあるものと国は位置づけでおり農業者にとっても身近な問題となっている。本紙でもゲノム編集技術についてこれまでも解説してきたが行政や研究機関など情報をもとに改めて整理してみる。

(参考リンク)
ゲノム編集食品 「届け出」で栽培・販売可能に 高栄養トマト 実用化へ準備
意図しない変異も 安全性の検証議論不足 実用化に国の規制必要
2020年のノーベル化学賞は、狙ったゲノムを的確に切断するクリスパー・キャスナイン(CRISPR/Cas9」という画期的なはさみタンパク質を開発した2名の女性研究者に贈られた。独マックス・プランク感染生物学研究所のエマニュエル・シャルパンティエ所長と米国カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授だ。
クリスパー・キャスナインは2つの部分で構成されており、クリスパーはゲノムの狙った場所にくっつくRNAで、キャスナインは切断するハサミの役割を果たす酵素だ。高GABA(ギャバ)トマトを開発した筑波大学の江面浩教授は2015年からクリスパー・キャスナインを使って研究を続けた。
江面教授によると、トマトはもともとギャバを合成する酵素を持っているが、その生成を自己抑制する機構もあり、抑制に働くDNAをクリスパー・キャスナインで切断したところギャバの蓄積が高まったという。
届け出にあたっては事前に厚労省や農水省と相談し、安全性に問題がないか両省の求めに応じてデータを提出してきた。厚労省は食品として、農水省は規格外トマトが飼料として利用される可能性もあることから飼料としての安全性を確認した。このように将来は飼料としてもゲノム編集農産物が使用される可能性もあるわけで畜産も含め生産現場にとってこの技術は無縁ではない。
ノーベル化学賞で注目され、日本初のゲノム編集食品が認められたことから関心が高まっているが、まずは遺伝子組換え技術とどう違うのか、という点を整理しておきたい。
外来遺伝子を組み込むか、組み込まないか
ゲノム編集はもともと生物が持っている遺伝子を改変し性質を変える技術だ。高ギャバ・トマトを例にすると、ギャバの生成を自己抑制する働きを持つDNAを切断し働かなくすることによって、ギャバが増える、ということになる。
これに対して遺伝子組換えは外から新たな遺伝子を入れてもともと持っていない新しい性質を付け加える技術だ。特定の除草剤に抵抗性を持つ性質を付け加え、その除草剤が散布されても生き延びる大豆や、害虫に抵抗性を持たせたトウモロコシ、果肉が渇変しないリンゴなどさまざまな形質を持つ遺伝子組換え農産物が世界では栽培されているが、それは外から新たな遺伝子を入れた作物であり、安全性の審査が必要だ。これに対してゲノム編集は外来遺伝子を入れない、従来の突然変異などを利用する品種改良と同じだとして国は「届出制」とした。

ゲノムとは遺伝情報一式
ところでゲノムとは何か? ゲノムとは生物が持つ遺伝情報をひっくるめて指す言葉で、ヒトゲノムといえばヒトがヒトたるための遺伝情報一式であり、これが子どもたちに伝わっていく。遺伝情報はDNAに保存されており、DNAは4つの塩基(アデニン=A、グアニン=G、チミン=T、シトシン=C)で構成されている。遺伝情報とはこの塩基の並び順として、いわば暗号化されており、生物の性質や形が指定されている。
DNAは2本で対になっているため塩基が1000個並んでいると1000塩基対と専門用語では言う。ヒトゲノムは約32億塩基対という気の遠くなるような数があるが、その遺伝情報がヒトの全部の細胞1つ1つに詰め込まれている。
イネゲノムは3億9000万塩基対ある。イネゲノムの全塩基配列を解明、といったニュースを聞いたことがあると思うが、実はゲノム編集はこうしたゲノム情報が解明され、どの部分がどのような機能を持っているかが分かってきたからこそ、効率的な品種改良に利用できるようになったといえる。
この品種改良がなければ人間は十分な食料を得ることはできない。人間は自然界で起きた突然変異で形質が変化したものを選抜することから始まった。イネも小麦も籾が落ちにくくなるという突然変異が起きたものが選ばれ、ナスも突然変異で、受粉しなくても果実が大きくなるもの発見された。その後、異なる品種を掛け合わせる交配育種や放射線など利用した人為的な突然変異、そして遺伝子組換え技術が利用されるようになり、ゲノム編集技術も実用化を迎えたということになる。
農林水産省はゲノム編集技術を従来の育種で行ってきた技術にあると位置づける。農林水産技術会議事務局の菱沼義久事務局長は「育種は食料生産に直結する根源的なもの。育種にまさる技術なし」と強調する。
今後は基礎から応用、そして社会実装していくことが重要で「国民のニーズに応えるゲノム編集技術を使った農産物をつくる必要」と話している。
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