酪農 オス子牛「持っていけないから殺して下さい、とも」 現場の窮状訴え 農政審畜産部会2022年11月8日
農林水産省は11月7日、食料・農業・農村政策審議会畜産部会(部会長:三輪泰史・日本総研創発戦略センターエクスパート)を開き、畜産・酪農をめぐる情勢と政策課題について意見交換した。酪農家は副産物の子牛価格が半値となるばかりか、業者から引き取りを断られることもあるといった窮状を訴えた。対策の課題として配合飼料価格安定制度の見直しや、生乳の需給調整への国の関与を求める意見が出された。
北海道の酪農家、角倉円佳委員は「今まででいちばん厳しい状況」と話した。飼料や電力など生産コストの高騰に加え、副産物の子牛価格が半値にまで下落していることが経営に打撃を与えている。さらにオスの子牛は引き取りを断られ「持っていけないから殺してください」と処分を迫られることもあると、時には涙声で訴えた。牛乳の消費拡大のPRにもっと力を入れるべきと強調した。
神奈川県の石田牧場の石田陽一委員は「今、酪農は危機に瀕している」と話した。自身の経営をシミュレーションすると年末に立ち行かなくなる見込みで経営を継続させるために自給飼料の確保量に合わせ、飼養頭数を減らした。「売り上げを下げても生き残っていくには必要」と話すとともに、生産コスト高騰への支援策が必要だと訴えた。
和牛の一貫生産をしている福永畜産の福永充委員は、畜舎の建設費が30%程度上昇しており、補助率の見直しなどを求めた。養豚経営のセブンフーズ代表取締役、前田佳良子委員は「座して死を待つわけにはいかない」と子実用トウモロコシを8ha栽培した。畑に比べて排水の良くない水田では収量が低下するなどの課題が出たが、今後の飼料生産拡大に向け種子と技術の研究を国に求めた。
採卵鶏経営の現場からも厳しい声が聞かれた。神奈川中央養鶏農協組合長の彦坂誠委員は、卵の卸売価格は上昇しているものの、配合飼料価格の高騰とエネルギー、人件費などで「相殺されている」と実情を話した。そのうえで生産費の上昇がタイムリーに経営安定対策に反映させる仕組みが必要だと主張した。
畠中育雛場代表取締役の畠中五恵子委員は飼料高騰などの経営環境の悪化に加えて、例年になく多発している鳥インフルエンザに「気が気じゃない」と現場の緊迫感と、従業員の雇用を守る不安を話した。
こうした窮状に対する対策として、配合飼料価格安定制度などの見直しを求める意見が出た。日本飼料工業会会長の正好邦彦委員は、コスト上昇分を製品価格へ転嫁しなければ畜産の再生産はできないとして、価格転嫁への政府による強力な対策が必要だと求めるとともに、配合飼料価格安定制度で飼料会社など民間が基金を積立てている制度の見直しを求めた。
日本乳業協会副会長の松田克也委員は生乳の需給均衡に向けて、生乳の生産抑制を国が指導する必要があることなどを訴えた。
JA全中専務理事の馬場利彦委員は配合飼料価格の高騰は「今後も心配」だとして、飼料価格が高止まりすると補てん金が出なくなる現行制度について検討や、副産物価格下落への対応、子実トウモロコシなど国産飼料のの流通保管、耕畜連携などへの支援が必要だと指摘した。
また、「再生産に配慮した価格で生産されることが大事。食料安全保障上も重要なことだと消費者に理解を醸成する必要がある」などと話した。
三輪部会長は「自給飼料の生産拡大が最大の課題。国産飼料を使った畜産物を消費者が評価する仕組みも検討すべき」と話した。
意見交換を受け渡邉洋一畜産局長は「国内で生産される飼料に立脚した畜産に大きく舵を切ることが求められている。転換を支援していきたい」と述べるとともに、酪農をはじめ生産コストを「製品価格に反映させることが基本」と強調した。
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