農政:どう思う!菅政権
農業の規制改革 立ち止まって見直せ 山田俊男参議院議員【どう思う? 菅政権】2020年10月6日
菅政権は安倍政権の政策を継承すると発足した。では安倍政権時代の農政はどのようなものだったのか。評価と菅政権の農政の課題と期待を山田俊男参議院議員に聞いた。
山田俊男参議院議員
--安倍政権時代の農政をどう評価しますか。
安倍政権は長期にわたって安定的な政権をつくってきました。しかし、農業政策に限って、また農協政策に絞って考えてみると大変厳しい時代だったと思います。
もちろん米の過剰問題が続き、あるいは諸外国との貿易協定交渉が継続しているというなかでの安倍政権発足でしたから、農業が焦点になるのは明らかだったわけで、農業が主要政策課題とされたことには意義があったと思っています。
しかし、その際、大きく目立ってしまったのは規制改革推進会議や、国家戦略特区をはじめとする諮問会議などの動きです。結局は特区で株式会社の農地所有による参入を容認しました。
農業現場自体が高齢化と担い手減少のなか、地域の農業を支える担い手は多様化せざるを得なかったという側面はあります。それは認めながらも株式会社の農業生産への参入や、さらにそれを促進させるようなさまざまな提案が規制改革推進会議などから出され、やはり農業者と農業者とともに歩んでいる農協組織にとって大変厳しい政権の時代だったと思います。
とくに農協改革では、私も所属していた全国農業協同組合中央会が農協法の世界からはずされてしまい、本当に残念で仕方がありません。農協改革は自らの取り組みとして進めなければいけないというのは、当然のことですが、もっと地域を支える協同の取り組みを強化するかたちでの地域政策や農業政策、そして農協政策であることを期待していましたが、そうはならずに来てしまったのは大変残念だと思っています。
今回、自民党の各グループが圧倒的に菅前官房長官を応援するかたちで政権が誕生したわけですが、菅総理は規制改革を強調されており、それは今後、どんなかたちで進めていくつもりなのかいうことについて非常に心配せざるを得ないという思いがあります。
たとえば国家戦略特区では株式会社による農業参入が具体化しており、また、全国的に株式会社の農業法人化も進み数も増えてきています。こういうことに対して、わが国の地域農業をいったいだれが支えていくのかということについて改めて考えなければなりません。それは基本的には農業者であり、地域に根ざした法人組織であるということですが、今の方向ではそれが希薄化してくると懸念せざるを得ません。
--では菅政権の農政はどうあるべきだと思いますか。
私は規制改革推進会議や国家戦略特区諮問会議などのメンバー構成を思い切って多様化していくことも含めて、地域の農業を誰がどんなかたちで支えているのか、そのなかで株式会社の参入の是非であったり、農業者を中心とした法人組織がどのように加わっていくのか、そこに農協組織がどう関わるのかということについてもう一度しっかり議論しなおすということを望みたいと思います。
国家戦略特区での株式会社の農地所有は、実際にはごく限られた例にとどまっており、実態はほとんどかたちになっていないのではないかと思います。そういう実態をしっかり検証したうえでどう見直していったらいいのか考えるべきだと思います。
やはりこの困難を乗り切って将来を切り拓いていくことが求められています。
その意味で食料・農業・農村基本計画は安倍政権が閣議決定したものですが、党でも熱心に議論して作り上げてきたものです。地域に根ざした法人組織をどんなかたちで作り上げるか、さらには多様な担い手をどう確保するか、そのために必要な農業高校や農業大学校をはじめとしてどうすれば卒業生が就農し現場に定着していけるかをなどを議論したうえで基本計画に盛り込んでいます。
これを政策の具体的な柱に位置づけていかなければなりません。新しい政権は今までの踏襲ということではなく、新しい基本計画の議論で作り上げてきた思想を具体化する、ということをやってもらいたいと思っています。
また、追い打ちかけるように米の検査制度の見直し問題なども出てきています。これはきちんと地域の米の生産から販売にいたるまでの信頼を持ち得る制度にする、という確信を持って議論を進めなければなりません。検査制度があることによって生産数量や流通数量の把握ができていて、そのことが産地の生産、流通、販売の取り組みのベースにすることができているわけです。
かりに検査の仕組みをきちんと作ることができないということになった場合、地域の農業、とくに米の生産は崩れていくのではないかと心配です。
--総理は農産物輸出に力を入れる方針です。どう考えますか。
農産物の輸出拡大は、それだけの生産力があるということであり、そのためにはより一層の基盤整備が必要であり、生産をきちんと支えていける経営安定対策を充実することが必要になります。だからと言って輸出拡大を後ろ向きに捉えているわけではありません。農業者の所得向上と生産力の拡大という立場から輸出は伸ばしていきたいと思います。
ただ、就農者が不足して労働力を海外に依存するというようなかたちではいけませんから、これもきちんと点検しどこでどんなかたちで輸出に向けた生産拡大ができて、それで地域の活性化が可能なのかというプランをつくりあげなければならないと思います。前向きに所得向上につながる道筋をていねいに作り上げることが必要です。
日本はとくに四季という気候を抱え、そうした国土、環境のなかで農業生産をやっていくわけです。まして耕作地の全部が平野というわけではありません。おのずから限界、制約を抱えていることは間違いありません。けれども、もっと作物の多様化への取り組みや、機械化、スマート農業の展開や、若い就農者の参画、試験研究の拡大による新しい品種、品目の生産、そしてそれを支えるヨーロッパ並みの経営所得安定対策がある、ということが総合的に確保されなければいけないと思います。
それらが確保できて農業生産が拡大し、国内での需要をまなかいつつ、海外にも展開していけるということになって、本格的な農業者の所得実現が可能になるわけです。その方向にまったく異存がないわけで、問題はそれを具体化していくことです。その手順を政策的に作り上げていかなければなりません。ややもすると生産者や農業団体の努力が足りないとか、株式会社が参入して合理的に農業をやればこれは進むんだという議論がありますが、決してそんなことではないんだ、ということをしっかり認識する必要があると思います。
政権交代は一度立ち止まって見直すといういい機会だと思っています。生産現場の実態をふまえれば転換しなければいけない農業の課題は山積しています。そこに着実に手を打っていく取り組みが必要だと思っています。
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