農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割
食料自給率と食料自給力(1)【田代洋一横浜国立大学・大妻女子大学名誉教授】2018年10月22日
国民が飢えずに豊かな食生活を営めるための指標や政策として、自給率、自給力、食料安全保障などさまざまな言葉が用いられている。その妥当性や相互関連から見えてくる今日の食料問題を考えたい。
◆カロリー自給率から食料安全保障へ
食料自給率は、農業基本法(1961年)を検討する頃から計算されており、昭和33年では85%だった。それは金額ベースだったが、今日的なカロリーベースが示されるようになったのは平成元年(1989)度の農業白書からだ。折からガット・ウルグアイラウンドが最終局面にあり、あわやコメ自由化という時だった。そのような時、「いざという時」に生存に欠かせないカロリーに着目したのは適切だった。
日本は長らく固有の食料安全保障政策をもたなかった。主食であるコメを守る食管法があったからだ。その食管法の下で深刻なコメ不足に陥った。そこでWTO体制下で食管法は廃止され、基本法も食料・農業・農村基本法(1999年)に改められ、5年ごとの基本計画で食料自給率の目標を定めることになった。
しかし農水省が食料安全保障課(今は室)を設置したのは、遅れて2008年のことだった(末松広行(初代課長)『食料自給率の「なぜ?」』扶桑社新書、2008年)。リーマンショックでマネーが穀物市場に流れ込んで価格を高騰させ、あわや食料危機という年だった。
このように日本の食料政策はほぼ10年おきに形を整えていった。
◆水増しされている自給率
基本計画は、自給率を「国内の現実の食料消費が、国内の生産でどの程度賄えているか」の指標とし、分母を食料消費、分子を「現実の食料消費に対応した国内生産」としている。しかし実際の計算ではそうなっていない。分子の国内生産には輸出も含まれているのからだ。
輸出が微々たる時には問題なかったが、今日のような輸出重視になると、問題が生じる。自給率計算の分子は「国内消費に対応した国内生産」と定義されるが、そこに国内消費に回らない輸出が含まれると、自給率が水増しされてしまうからである。「日本国内で生活する者の消費をどの程度賄っているか」を知るには、分子から海外で消費される輸出は差し引くべきだ。
経済学には「輸入浸透率」という概念がある。その分母は<国内生産+輸入-輸出>である (表)。定義からして輸入浸透率と自給率を足せば100%になるはずだが、実際には100%をオーバーする。自給率計算の方の分子に輸出を入れているからである。そこで分子から輸出を差し引いた修正(真正)自給率Cを計算し、それとD.輸入浸透率を足せばピタリ100%になる。BとCは21世紀には開きが大きくなり、今や金額表示の自給率は10ポイントもの水増しになってしまった。カロリー自給率にも同じ問題がある。
◆なぜ輸出を分子に入れたのか
輸出は「いざというときに国民へのカロリー供給食料に回せることから」というのが農水省の見解だ(前掲書)。これ自体は正しい。
しかし日本政府にとっては少々不都合がある。日本国は「WTO日本提案」(2000年)で、輸入国が輸入制限を厳しく禁じられるのに対して、輸出国の輸出制限が禁じられていないのは不均衡であり、それを是正すべきと主張した。すなわち輸出制限を禁じろという主張だ。
しかし自国民が飢えている時に輸出を禁じるのは国民のために当然だ。とすれば日本が主張すべきは「輸出制限が禁じられていないのと同様に、輸入制限も禁じられるべきでない」だったが、自由貿易の考えにとらわれて逆の表現になってしまった。
という次第で、「いざというときに国内消費に回せるから」というのは日本政府にとって禁句だ。というより輸出一辺倒の政府は「WTO日本提案」など、もう忘れてしまったのだろう。
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