生産資材:元気な国内農業をつくるためにいま全農は
【肥料農薬部】上園孝雄部長に聞く 総合的イノベーションでコスト抑制を支援2013年10月11日
・海外肥料原料価格は右肩上がりに
・未利用資源「家畜糞堆肥」を有効活用
・撒きやすく低価格な「エコレット」
・高窒素なインド産ひまし粕を輸入
・「1日でも早く」高まる新ウンカ剤への期待
・順調に稼働する北部九州広域物流センター
肥料・農薬は水稲や園芸作物を生産するうえで欠くことのできない生産資材だ。なかでも原料の多くを海外資源に依存する肥料は、世界的な人口問題や食糧問題を無視して語れない要因が多い。そこで、上園孝雄肥料農薬部長に、現在の肥料を取り巻く問題を中心に聞くとともに、農薬をめぐる新たな取組みついても聞いた。
◆海外肥料原料価格は右肩上がりに
まず肥料原料価格について上園部長は「現在は窒素、リン酸原料が弱含みのため、為替変動による円安の影響をカバーできている」。しかし、5?10年という中長期的にみれば、「世界的な人口増加」や中国やインド、あるいはアフリカ諸国など新興国の食料事情の変化で、食料生産に欠くことのできない肥料需要は右肩上がりで増えてくるとみるべきだ。確かに「尿素やリン安の製造工場の建設もあり、供給は増えているが、今後は需要も増えて、肥料原料価格は上がるとみておいた方がよい」という。
すでに全農は、海外原料について、山元との関係強化や輸入元の多元化など購買力の維持・強化に取組んできている。と同時に、土壌診断に基づく適正施肥、PKセーブなど施肥コスト抑制銘柄の活用や省力化新技術の活用などによる「トータル施肥コスト低減」に取組んできている。
◆未利用資源「家畜糞堆肥」を有効活用
そして25肥秋肥8月から、地域で発生する家畜糞堆肥を原料とした安価な有機入り複合肥料である「混合堆肥複合肥料」7銘柄(園芸用3銘柄、水稲用1銘柄、水稲・園芸汎用3銘柄)を「エコレット」と名付けて、関東、近畿、東海・北陸事業所管内で先行して取扱いを開始した。
これまで肥料取締法で、堆肥と普通肥料を原料として混合した肥料の製造・販売が認められていなかった。しかし、全農の強い要請により平成24年9月に肥料の公定規格が改正され「混合堆肥複合肥料」という規格が新たに制定されたことで、製造・販売ができるようになった。
「エコレット」はこれを受けて全農と朝日工業(株)が共同開発したもので、混合堆肥複合肥料としては国内初のものだ。
上園部長によれば国内での家畜糞発生量は乾物換算で、牛糞が369万t強、豚糞137万t、鶏糞155万t強、トータルで662万tだという。これは「りん酸24万成分t(リン鉱石75万t強に相当)、カリ20万t弱(塩化カリ33万t弱相当)」にあたるという。全農のリン鉱石取扱量は24万t、塩化カリが19万tだというから、かなりの量の未利用資源だといえる。
◆撒きやすく低価格な「エコレット」
鶏糞については現在、鶏糞燃焼灰として4?5万t生産され利用されているが、将来的には9?10万tになると予測されている。鶏糞燃焼灰は現在、十分な供給があり、韓国や中国に輸出されているが、今後は「施肥コスト抑制の観点からさらに利用を促進していく」という。
具体的には、PKセーブなどの施肥コスト抑制銘柄、ペレット・ブリケット方式で製造する有機化成、配合肥料、さらにBB原料用銘柄などが考えられている。
いままで国内での堆肥利用については、有用な有機質資源として、また未利用資源の活用という意味でも「使いたい」という需要があったが、撒きにくい、品質面が不安、通常の肥料も施肥することにより結果的に必要以上の施肥量となってしまうなどの課題があった。「エコレット」は、こうした「課題解決の一翼を担う新肥料となると期待されている」。
鶏糞だけではなく、牛糞や豚糞など家畜糞堆肥を有効活用した混合堆肥複合肥料「エコレット」は、[1]堆肥を原料に使うため[2]為替や価格が変動する海外原料の使用量が少なくてすむので「安定した低価格」で提供される。またエコレットの1粒で有機土づくり効果と肥料効果が狙える。さらに粒状なので堆肥より撒きやすく施肥機を使用することができるといったメリットがある。
◆高窒素なインド産ひまし粕を輸入
施肥コスト抑制のための施策は「エコレットだけではない」と上園部長。25肥秋肥に塩安系PKセーブエコ3銘柄を追加し、PKセーブシリーズの普及拡大を図っていくことにしている。
25肥秋肥におけるPKセーブシリーズは39銘柄(全国14、ブロック25)で、そのうちPKセーブエコなど未利用資源を活用した銘柄は12となっている。
さらに全農では「急騰する菜種粕、大豆粕などの有機原料の代替え資材として、24年度から安価なインド産ひまし粕の輸入を行っているが、25年度はその取扱量を7000tまで拡大し、有機化成、配合肥料などの価格抑制に取り組んでいく」ことにしている。
ひまし粕とは、アフリカ原産のヒマ(トウゴマ)の種子を搾油した絞り粕で、種子1tから油約460kg、油粕530kgが生産される。日本では昭和初期に戦闘機の潤滑油として使用されていたが、平成7年に種子の輸入が困難になり、国内での搾油は取り止めとなり、肥料での利用もなくなっていた。
全世界でのひまし種子生産は約200万tで、うちインドは約150万tで、インドでの主産地はグジャラート州で、インド全体の8割を占めている。
上園部長によると、全農は「グジャラート州の大手企業と提携し、通常は窒素が4?5%のところを窒素8%の生産・物流体制を確立」して本格的に取扱うようになった。
このインド産ひまし粕は高窒素というだけではなく、窒素が速やかに分解し、作物に吸収可能な無機態窒素になる。さらにひまし粕は菜種粕などに比べると、25℃での窒素無機化率が66%と有機肥料のなかでもっとも高いという特徴をもっている。さらに菜種粕に比較して安価であることも大きな魅力になっている。
また中国での瓮福との合弁会社からのリン安は現在の4万5000tから6万tに増やす計画だ。これは全農のリン安輸入の20%に相当するという。
肥料関係でもう一つ全農が力を入れているのが「水稲育苗箱全量施肥栽培技術」の普及だ。これについては別掲の囲み記事を参照して欲しい。
◆「1日でも早く」高まる新ウンカ剤への期待
農薬についてはどうか。上園部長は、育苗箱処理剤の登場で、本田での農薬散布回数は「劇的に減った」。これを「もっと減らすには、さらに逆上って実用的な種子処理枝術を開発すること」であり、「それを今後追求していきたい」と考えている。
肥料・農薬代が水稲栽培コストに占める割合は農水省などの資料に寄れば19%ほどだ。これをさらにコストダウンするには「イノベーションしかない」といえる。だから「育苗箱全量施肥技術」などの技術と合わせて「トータルで下げていく」しかないともいえる。
農薬では、農薬開発積立金を活用したデュポン社との「新規水稲殺虫剤」の共同開発が進められている。
この新剤は、日本やアジアで水稲を加害する重要害虫であるウンカ・ヨコバイ類に卓越した効果を示すものとして現場の期待が大きい。とくに今年は西日本を中心にトビイロウンカが発生し、九州7県を含む14県で注意報が発令され、過去5年間でもっとも多かった。そのうち長崎・大分・宮崎では警報が発令され、坪枯れなどの深刻な被害が出ている。
上園部長のところにはJAの組合長たちから「いつから使えるのか?」「1日も早く使えるようにしてくれ」という要望が寄せられているという。本紙のホームページでも2月にアップされたこの関連記事へのアクセスが9月になって急に増えている。農薬登録には申請してから最近は3年くらいかかることから、上園部長は「頭が痛い」と苦慮している。
◆順調に稼働する北部九州広域物流センター
農薬では「県域を超えたブロック域物流」の取組みがある。
「現在の県域物流実施JAは、37県域197JAで、県域物流実施JAの物流コストは改革前の14%から10%に下がっている(80JAの平均)」。とくに九州では県域物流の面的拡大が進んでいるので、鳥栖に「北部九州広域物流センター」を設置し、24年12月から本稼働している。
このセンターは、農薬を対象に福岡・大分・長崎と県域を超えて物流を実現したことで当該3県の調達物流の合理化が進み、メーカーへの発注件数でみると実施前よりも85%削減されるなど、大きな合理化が実現したわけだ。
上園部長はこうした成果を受けて「さらなる改善に向けたシステムの構築と水平展開に積極的に取組んでいきたい」。さらに「肥料の受発注情報管理についても検討していきたい」とも考えている。
生産資材個々の価格だけではなく、技術や物流までを含んだ「トータルなイノベーションを行うことで、JAや生産者の生産コストを抑制し支援していくこと」が、いま全農の生産資材事業が行う課題ではないかというのが、上園部長の考えだ。
【特集・元気な国内農業をつくるために“いま全農は…”】
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