脱炭素時代の国際基準を日本で実装 小売業や生産資材の参画を拡大へ 農林中金「インセッティングコンソーシアム」2025年9月19日
農林中金は食農バリューチェーン(VC)におけるカーボンニュートラルとネイチャーポジティブへの移行に向けた「インセッティングコンソーシアム」に、新たに16社が参画し、農研機構をテクニカルパートナーに迎えたことを公表した。"インセッティング"は日本では馴染みが薄いが、GHG(温室効果ガス)の削減に向けて、国際的に注目されている考え方だ。同金庫の食農法人営業本部営業企画部サステナビリティ共創グループの宮島誠史部長代理に、今後の課題や展望を聞いた。

GHG削減では、企業活動などで排出されるScope1(自社施設からの直接排出)やScope2(購入電力などに伴う間接排出)だけでは不十分で、最も排出量が大きいScope3(サプライチェーン全体の排出)の削減が国際的にも日本においても大きな課題となっている。「インセッティング」は「カーボンオフセット」のようなVCの外でのGHG削減は含めず、「VCの内部で計測し、実際に削減を目指す」ための仕組みだ。
ここでいう「食農VC」とは、生産(農業)から集荷・加工、流通、小売、そして最終的な消費に至るまでの価値を生み出す一連のつながりを指す。特に、食農分野では「農家由来のGHG排出が全体の約70%を占める」とされ、対応が不可欠となっている。
食農分野でScope3削減を進める上で大きな壁となってきたのが、農家に対する「トレーサビリティ」(履歴管理)だ。従来の国際基準では、企業が一次サプライヤーである農家の排出量を直接把握する必要があり、日本でも海外でも「農家ごとの測定はコスト的にも技術的にも難しく、多くの企業が行動に踏み出せなかった」。

この課題を受け、GHG削減目標を認定する国際的な枠組みのSBTi(Science Based Targets initiative=科学的根拠に基づく目標イニシアチブ)は、排出量を算定する基準の改定を予定している。企業とサプライチェーンの間に物理的なつながりが確認できれば、農家単位での測定に代えて「マスバランス方式(計算による按分)」に基準を「緩和」する。現在、SBTiや排出量の国際基準を定めるGHGプロトコルなどが連携し、国際的な実務ガイダンスの統一化も進められている。
そのため、日本でも食農分野に適した基準づくりが急務となり、農林中金は2024年に「インセッティングコンソーシアム」を設立。食農VC全体をつなぎ、Scope3削減を具体化する推進役を目指している。食品メーカーや小売業、研究機関、スタートアップなどを巻き込み、農産物ごとの削減技術、炭素会計への計上方法、トレーサビリティや効果測定、カーボンオフセットなどとの二重計上回避の仕組みづくりなどを進める。

コンソーシアムでは、国際基準を国内に適用・応用し、農産物ごとのGHG排出量算定のルール作りや、食品メーカーなどが投資を行った環境配慮型農産物に「何らかのプレミアムを付与する」ことなどを検討している。ただ、そのための投資を「農家が単独で行うのは難しい」。そこで、食品メーカーなどVCのステークホルダー(参加者)が投資などでコストを負担しあい、「最終的にはVC全体でのコストカットを目指し、投資と環境保全が循環する仕組み」も想定している。
そのため、まずは国際基準に準拠した日本版ガイドラインを策定し、Scope3削減に向けて「具体的な行動に移す」ことを目指している。日本版には生物多様性や生態系回復を重視する「ネイチャーポジティブ」の概念も盛り込み、「SBTiの動向を踏まえ、今年度中に方向性を公表する」予定だ。
今回、コンソーシアムに「米穀」「畜産」「土壌」の三つのワーキンググループ(WG)を設置した。米穀WGでは「JA単位や県単位での中干延長や秋耕など」の技術を検討。畜産WGでは「排泄物の堆肥化、飼料改良、げっぷ由来排出の抑制」など多様な策を検討している。土壌WGでは「作物や輸入依存の違いを踏まえ、環境配慮型栽培や『地産地消』による輸送由来の削減」なども議論する。
今後の課題は、コンソーシアムに参加する企業拡大だ。現在、小売業からはファミリーマートが参加しているが、農林中金は他の流通・小売企業や、肥料・農薬など資材メーカーの参画を呼びかけ、川上から川下まで幅広い主体を巻き込んだ実効性ある仕組みづくりを目指している。
宮島誠史部長代理
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