【2024年を振り返る】揺れた国の基 食と農を憂う(2)あってはならぬ 米騒動 JA松本ハイランド組合長 田中均氏2024年12月20日
あってはならぬ 米騒動
▽令和の「米騒動」
こうした状況下で、この夏スーパーに米がない状態が発生し、令和の「米騒動」として報道された。原因は、5年産米が猛暑により減少したこと、南海トラフ地震に対する備え、インバウンド消費の増加ということだが、一連の報道につられ日本人特有の「買いだめ」行動が急激に広がったことが大きい。
一時は、当JAの直売所でも米が無くなりそうだった。全国的にはJAが売り惜しみをしているとのSNS情報も流れたようだが、倉庫にある米は契約したものを保管しているので勝手に搬出できないのだ。新自由主義を唱えるどこかの知事は「今こそ、政府備蓄米を放出すべきだ」と声高に主張したが、食糧管理制度の時代と異なり、そもそも米は自由市場だ。民間在庫があるにもかかわらず備蓄米を放出するのは、ご自分の主張と相反するのではないか。ご都合主義のそしりを免れない。
令和の「米騒動」のような事態を防ぐには、平時に食料自給率を上げておくことが重要だ。生産を上げるには消費を増やすことだが、食習慣はたやすく変えられない。そこで、米粉による消費拡大がポイントになる。米粉の需要量は、2024年は6・4万tの見込みであり、5年で1・8倍に増えている。まだまだこれからだが、JAグループとしてもっと力を入れていく必要がある。
▽食料は消費者にとっては「生存」と「環境」の問題
食料は生産者にとっては「経済」の問題だが、消費者にとっては「生存」の問題であり「環境」の問題だ。食料の作り手である農家は、食料危機になっても飢え死にすることはないが、有事の際自給率の低い地域は真っ先に飢えることになる。例えば、台湾で紛争が起きれば、沖縄への海上輸送がストップして飢餓が発生するという。沖縄県の食料自給率は、カロリーベースで32%、サトウキビを除けば6%だそうだ。沖縄県内の米の収穫量だけでは、2日しかもたない。
衆参両院の議員定数は、選挙区の人口に基づいて配分されている。人の口の数、つまり食料の需要量に基づいている。一方、食料の供給量を基準に計算すると、北海道は59人、東京と大阪は1人になるそうだ。定数是正の際、配分基準に食料の供給量をぜひ入れてもらいたいものだ。
「環境」の問題とは、フードマイレージ(食料の輸送量(t)×輸送距離(km)、単位はトン・キロメートル)について考えれば分かりやすい。食料は海上輸送により輸入されるが、二酸化炭素の排出量を増やし地球温暖化の原因の一つになる。その排出量は、国内食料輸送の1・87倍。日本のフードマイレージは、韓国の2・8倍、英国の4・8倍、フランスの8・6倍。日本は、食料輸入大国であり、フードマイレージは際立って大きい。フードマイレージを減らすには、国産の食材を選ぶ、特に地産地消が効果的だ。消費者の皆さんには、フードマイレージを買い物の新たな判断基準にしてほしい。そして、「食料は輸入に頼ればよい」という人は、SDGs(持続可能な開発目標)のバッジを胸につけるのをやめてほしい。
▽「組合員・地域とともに食と農を支える協同の力」
SDGsといえば、その実現に向けた協同組合の実践・貢献に対する認知度を高めるために、2025年を国際協同組合年とすることを国連が決めた。JAも協同組合セクターの一員として、SDGsの実現に向けより一層存在価値高め、社会に認知される組織になることが求められる。
折しも10月のJA全国大会で「組合員・地域とともに食と農を支える協同の力」というスローガンを採択した。組合員の「ために」ではなく「ともに」の意味を咀嚼(そしゃく)する必要がある。2025年は、JAが組合員とともに地域社会に貢献する組織となる転換点にしたいものだ。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(160)-食料・農業・農村基本計画(2)-2025年9月20日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(77)【防除学習帖】第316回2025年9月20日
-
農薬の正しい使い方(50)【今さら聞けない営農情報】第316回2025年9月20日
-
Sagra della Porchetta Italica(イタリアの伝統的な焼き豚祭り)【イタリア通信】2025年9月20日
-
【人事異動】JA全農(10月1日付)2025年9月19日
-
【注意報】ダイズ、野菜類、花き類にハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2025年9月19日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】トランプ流企業統治改変の怪しさと日本への影響2025年9月19日
-
【サステナ防除のすすめ2025】秋まき小麦防除のポイント 除草とカビ対策を2025年9月19日
-
農業土木・鳥獣対策でプロフェッショナル型キャリア採用 課長級の即戦力を募集 神戸市2025年9月19日
-
「ヒノヒカリ」2万9340円 JAおおいたが概算金 営農支援が骨子2025年9月19日
-
米価下落に不安の声 生産委員 食糧部会2025年9月19日
-
【石破首相退陣に思う】地方創生、もっと議論したかった 日本共産党 田村貴昭衆議院議員2025年9月19日
-
配合飼料供給価格 トン当たり約550円値下げ 2025年10~12月期 JA全農2025年9月19日
-
(453)「闇」の復権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年9月19日
-
「1粒1粒 愛をコメて」来年産に向けた取り組み 令和7年度 水稲高温対策検討会を開催 JA全農ひろしま2025年9月19日
-
9月21日に第6回「ひろしまの旬を楽しむ野菜市」 「3-R」循環野菜や広島県産野菜を販売 JA全農ひろしま2025年9月19日
-
JA全農主催「WCBF少年野球教室」熊本市で27日に開催2025年9月19日
-
「長崎県産和牛フェア」東京・大阪の直営飲食店舗で開催 JA全農2025年9月19日
-
大阪・関西万博で「2027年国際園芸博覧会展 未来につなぐ花き文化展示」開催 国際園芸博覧会協会2025年9月19日
-
東京科学大学と包括連携協定を締結 農研機構2025年9月19日