JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
「ひと」の保障をさらに保有契約維持で経営安定【有長光司・JA共済連常務理事】2018年12月28日
・ペーパー・キャッシュレスの時代に
低金利政策、少子高齢化のもと、経営環境が悪化するなかでJAの信用・共済事業はどのように展開すべきか。新世紀JA研究会は11月に開いた第21回「危機突破・課題別セミナー」で、この課題について議論した。特に地銀や信用金庫など、同じエリアで営業する金融機関との比較で、いかに差別かするかなどが焦点になった。
これから共済事業の現状と取り組みについて報告します。今日の少子高齢化は共済事業にも大きな影響を与えています。人口が減少するなかでも共済や保険はそれなりに普及していますが、必ずしもすべての人が保障に加入しているわけではありません。例えば、同じ世帯で共済にご主人だけ加入していてご家族は加入していないケース、また組合員であっても共済に加入していないケースなどが見られます。
そうした人にどうやって契約していただくかがポイントです。新規でJA共済に加入した人、これを共済連ではニューパートナーと呼んでいますが、平成29年度ではこのニューパートナーは32万人でした。これは当初目標の62.8%にあたります。共済以外の民間の保険もありますが、まだまだ頑張らなければ、と思っています。
また、共済連では3Q運動で全戸訪問活動を展開しています。この運動で、平成29年度には547万世帯を訪問しました。これは目標の97.5%にあたります。
そのなかで、「ラブレッツ」の活用を進めています。「ラブレッツ」とは、共済事業で使っているタブレット端末ですが、これにより共済契約の流れをわかりやすく説明することができます。いろいろな事務手続きが短時間ででき、JAの契約処理が効率的にできるようになります。この端末について、いま普及に努めているところです。
JA共済は「ひと・いえ・くるま」の3本柱が基本です。自然災害が増えるなかで、「いえ」の保障はかなり普及が進み保障が拡大しました。しかし、「ひと」の保障に関しては必ずしもまだいきわたっていないのが実情です。
次に平成29年度の主要な事業の実施事項についてですが、現在、地域活性化に向けた地域貢献活動の取り組みを強めています。農業分野では担い手サポートセンターへの活動支援、直売所への施設助成、無人ヘリコプターの導入支援などを行い、平成29年度には、前年度より65・5%増の1825件の活動を行いました。農業以外でも、同じく前年度より34.8%多い2414件の活動を実施しました。また共栄火災と連携して個人農業者・担い手経営体への保障提供、個人農業者への保障(農業者賠償責任保険)提供なども行っています。
一方、事務の軽減化も大事です。JA全体の事務を100%とすると、共済の事務にかかる時間は18・8%です。その事務のなかでも新契約事務や、毎月の掛金収納などの共済事務が約半分を占めています。その部分に「ラブレッツ」を利用することで時間短縮を進めます。
「ラブレッツ」でペーパーレス、キャッシュレスによる処理が実現すると事務負担が大きく軽減できます。平成29年度末では「ラブレッツ」の活用により21%の業務負担を減らすことができました。対象を拡大するとさらに10%の業務量削減が可能となり、全体でおよそ30%の削減ができるとみています。
例えば書面での契約申込み処理が30分かかるところ、「ラブレッツ」だと事務所に戻る必要がなくなることに加え、10分ちょっとで処理を終えることができます。現在、JAでは共済の事務処理の概ね70%から80%がペーパーレス、キャッシュレスで処理されています。旧契約の変更など、まだペーパーレス対応できていない部分もありますが、今後順次進める予定です。
次に経営収支ですが、生命総合共済・建物更生共済合計で平成27年度新契約高が18兆3000億円、平成28年度の新契約高は17兆6000億円でした。また、平成29年度には建物更生共済の転換が増えたこともあり、新契約高は32兆円となりました。一方、保有契約高は27、28、29年度でそれぞれ273兆円、267兆円、259兆円と、すこしずつ減っています。新規契約も大事ですが、保有契約を維持することも重要です。
支払共済金で変動が大きいのは建物更生共済です。平成28年度における建物更生共済の支払共済金の額は2300億円余りでした。これは熊本地震など、自然災害によるところが大きく、翌平成29年度の建物更生共済の支払共済金の額は平成28年度の約半分になっていますが、今年度については、あちこちで台風被害や豪雨などの自然災害が増えていることから、今年度の支払共済金の額は平成28年度に近いくらいの金額になるであろうことを考えておく必要があります。
次に運用です。しばらく低金利が続いていますが、共済の保障期間は長いので、それほどの影響はありません。ただし、公社債利息収入の減少等により正味財産運用益は減少し、正味運用利回りも低下しています。平成29年度の正味運用益は9589億円を確保、正味運用利回りは1・75%でした。
共済事業の基礎利益は「費差」(予定していた事業費と実際にかかった事業費の差)、「利差」(予定利率に基づく予定利息と実際の運用益の差)、「危険差」(予定していた事故共済金と実際の事故共済金の差)からなり、このなかから契約者割り戻しを行います。平成29年度の基礎利益は7463億円。内訳は費差が1188億円で、利差が886億円、危険差が5388億円でした。
平成30年度の割戻し率は費差、危険差は据え置き、利差は公社債等の利回りの低下を踏まえ、1.70%から1.60%への引き下げ、また会員への出資配当も1.80%から1.75%への引き下げとなりました。
配当以外には、奨励金で各種の助成措置を講じております。平成27年度から100億円規模の特別奨励を実施し、平成28年度からは共済証書等の契約者への送付を連合会から直接行っています。これにより郵送経費を連合会が負担することからJAの手間に加えコストを省くことができます。同じく平成28年度から地域・農業活性化積立金を創設し、JAが行う地域・農業活性化の取り組みに助成するなど、さまざまなお手伝いをしています。
平成30年度事業計画では、(1)事業基盤の確保と「ひと」保障を中心とした取り組み強化、(2)共済事業としての自己改革の着実な実践、(3)事業を取り巻くリスクへの対応力強化、の3つを基本方針に掲げています。
平成30年度は、29年度に引き続き、少子高齢化のなかで十分保障されていない、「ひと」の保障を拡大するとともに途中解約を防ぎ、保有契約底上げのため、地域・エリアの特性に応じた推進を進めていきます。その活動の中心はLAです。LAへの指導、サポートにかかる取り組みを進めるとともに新しい技術を順次取り入れ効率化を進める方針です。
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
新世紀JA研究会のこれまでの活動をテーマごとにまとめています。ぜひご覧下さい。
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