農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割
内田樹氏に聞く「国民を飢え死にさせない」(5)2018年8月10日
「グローバル資本主義は終焉する」からこれからは従来の「成長モデル」から「定常モデル」へ基本的な考え方を変えるべきだと内田樹氏は近著で説いている。その内田氏の説に大きな刺激を受けているという小松泰信教授に聞き手になっていただき、食料安全保障と農業そして農協の在り方についてお話いただいた。
◆今の自民党は、かつての自民党ではない
小松 全力を傾注することで、信頼を構築していけるとは思うのですが、こつこつ積み上げた信頼を一気に崩すことを繰り返してきたのがこの組織です。農村や農協界は、「自民党の票田」と呼ばれたように、ここまで痛めつけられているにもかかわらず、自民党の支持基盤です。その理由と、そこからの脱却するために何が求められているのでしょうか。
内田 まずはっきりさせておかねばならないのは、今の自民党は、かつての自民党とは異なる政党だと言うことです。
かつての自民党には、農業や農村のことを理解し、地元有権者に頼られていた保守政治家が少なからず存在してました。今の自民党には、そのような人はもういない。TPP反対から賛成への転換がその証左ですよ。
今の自民党には第一次産業に対する長期的なビジョンはありません。目指す方向がシンガポール化なんですから、そんなものあるはずがない。農業や農村は切り捨てる。もう交通網も、行政サービスもない。学校も医療機関も警察も消防もない。それでも暮らしたいというのなら、どうぞ。でも自己責任ですから。病気になっても病院はないし、犯罪があっても警察も来ない。それでも田舎で暮らしたいというのなら、どうぞということです。
そんな国家戦略には同意できない、と声を上げるべきなんです。人口減少そのものを国難と叫ぶけれども、人口5000万人といえば、明治40年代と同じ。その頃も、日本中で人びとは暮らしていたわけですからね。国難などと危機を煽って何がしたいの、と問うべきです。
◆ 「成長か、死か」がグローバル経済
小松 問うと、経済成長がしたくないんですか、と反問されますよね。
内田 その時は「経済成長しなくて良いですよ。できないものはできない。無理したらその反動は大きく、失うものがあまりにも大きい」と答えます。そもそも経済成長は、そうしなければ成立しようがない株式会社の論理です。生まれてたかだか二百数十年程度の歴史しかない非常に特異な株式会社の論理で、農業、教育、医療、さらには自治体や国家の運営まで作り替えていくのは、愚挙で暴挙です。
小松 農業をはじめ第一次産業には、成長とか強いといった第二、三次産業の言葉が馴染まないことは私も常々言及してきました。
内田 もちろん昨年よりもおいしいものができた、作り方がうまくなった、という質に関する成長は喜ぶべきことですが、例年作で御の字、という産業です。しかし、成長論者にとって成長率0%は産業の名に値しない、存在する価値のない産業、ということになる。
小松 ということは、新自由主義一辺倒の政策ビジョンで株式会社をビジネスモデルとした制度設計に対して、「農業」も「協同組合」も適合できません。この二重の不適合から反動勢力に位置づけられ、農業協同組合は解体含みの改革を迫られているわけですね。
内田 そうです。だから、農業とは何か、協同組合とは何か、どうあるべきかという原理原則をあきらかにして、それに基づいて、現政権の農業政策を批判してゆかなければならない。農業協同組合は農村地域や農業の最後の防波堤であるべきです。その歴史的使命を果たすためにも、冒頭で指摘した自己点検、さらには自己審判に早急に着手すべきです。
小松 まったく同感です。これからも、農的世界に向けてラジカルな発言を期待しております。本日はありがとうございました。
【略歴】
(うちだ・たつる)
1950年東京都生まれ。
東京大学文学部仏文科卒。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。神戸女学院大学文学部教授を経て2011年退職。現在、神戸女学院大学名誉教授。京都精華大学客員教授。昭和大学理事。神戸市内で武道と哲学のための私塾「凱風館」を主宰。合気道七段。主著に「ためらいの倫理学」「レヴィナスと愛の現象学」「先生はえらい」など。「私家版・ユダヤ文化論」で第6回小林秀雄賞。「日本辺境論」で2010年新書大賞。執筆活動全般について第3回伊丹十三賞受賞。近著に『ローカリズム宣言―「成長」から「定常」へ』、『「農業を株式会社化する」という無理』(共著)など。
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