農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割
【対談】自給率向上の具体策を 農業あっての地域・国家(2)【山田俊男参議院議員・菅野孝志JAふくしま未来代表理事組合長】2018年10月19日
◆担い手像を明確に
山田 政策サイドでみると、その条件づくりができているのかという疑問があります。経営が成り立つには、水稲で10~20ha必要です。それには農地の集積、機械装備、雇用をどうするかの課題が出てきます。「こういう農業者を育てるのだ」というあるべき姿を明確にして、そのためにこうした支援をするのだと、目的と手段を明確にして取り組むべきですが、それが成り行きまかせになっているようにも感じています。
菅野 水田農業は20~30haは必要です。すると、それが家族農業でできるのかという問題が出てきます。稲作や園芸は人手による細かい作業が欠かせません。若い担い手だけでなく、高齢者や女性も現役の農業者として欠かせません。その点で、いまの国の補助事業は独立した経営を前提にして、担い手となる若い人が、自分は地域の中の一員だということを感じなくさせる恐れがあります。そう感じることのないような支援をするのが政策の役割だと思います。
山田 日本と同じように条件の悪いスイスやオーストリアでは、地域で作ったものは地域で売り、安全で安心な農産物を買う消費者がいます。アメリカの主要な農業地帯では株式会社の農業参入を認めていません。家族経営や小規模経営も成り立つようにしているのです。フランスには若い農業者に限定して支援するサフェールという仕組みがあります。売りに出た農地は公募の就農希望者に斡旋し、営農資金も提供するというものです。株式会社の参入を認める日本の農地中間管理機構とは大きな違いです。
菅野 管内の認定農業者を訪問して感じることは、地域の生産とその基盤を維持するため担い手が欠かせないということです。農村の集落は若い担い手が少なく、歯抜け状態になって、農道や水路の維持が困難になっています。若い人を育てる環境づくりが大きな課題です。若い人がいれば地域や農業が活気付き、自給率も上がります。地域づくりプラス地域の農業のあり方をきちんと議論し、政策に織り込むべきです。
◆農業に「思想」が必要
山田 そうした政策には、農業についての「思想」が求められます。ヨーロッパでは、国民の食料確保や環境保全のため、自国の農業を大切にするという思想が国民に根付いています。日本も、「食と農」について、これだけの手立てが必要だという方針をもとに、手厚い施策が必要だと思います。
菅野 自民党の「地域の農林水産業振興促進議員連盟」のメンバーが100名を超えたようですが、38%の自給率はどのように議論されているのでしょうか。
山田 これまで、福島大学の生源寺先生や東大の安藤先生を講師に招いて4回勉強会を開きました。秋には5、6回目を開催する予定です。担い手が圧倒的に減っていることへの対策が必要です。ところが、規模拡大に関しては、規制改革推進会議が、そのためには「農地法は不要」「米価はさがってもよい」と言っています。とんでもない暴論です。家族農業は大切で、地域で農業を続けるには所得の保証が欠かせないことなど、認識を共有しています。
今日、日本の地域があるのは農業が営まれているからです。その農業を農協が支えている。それにもかかわらず、農協は既得権益に固執している、信用・共済事業を切り離せという。それは絶対駄目です。このことを強く主張しなければならない。
菅野 既得権益ではなく、おいしく安全なものを食べてもらいたいとの思いで農業をやっているのです。よく「魅力ある農業」という言い方をしますが、他の産業ではそういう表現はしない。魅力の有無だけではなく、われわれは農業で生活が十分できればいいのです。地域における人と人の繋がりのなかで、消費者との関係を強め、生活を豊かにする。それが結果的に38%の自給率を向上させる力になるのだと考えています。
山田 そうした願いを実現するには、生産者の所得を支える政策が必要です。その仕組みづくりがヨーロッパに比べて遅れています。一方で、現実的には農業で食べて行ける条件をつくらなければなりません。そのためには集落営農の法人化も必要になります。そこで機械化・規模拡大し、担い手を確保する。その政策をきちんとやっていく。さらに担い手のいないところでは、農協出資の法人も含め、それぞれ地域にあった仕組みづくりが求められます。
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