【令和6年度農薬危害防止運動】適切利用で環境考え 宇井伸一農水省農薬対策室長に聞く 2025年6月2日
令和7(2025)年度農薬危害防止運動のテーマは「使用前、周囲よく見て ラベル見て」。運動の意味を宇井伸一農林水産省農薬対策室長に聞いた。
農水省農薬対策室長・宇井伸一氏
農薬は昔からありますが、とくに戦後の食料難の時代に食料を増産するために病害虫の防除には欠かせない資材として登場しました。しかし、農薬としての効果は非常に高いものの人や家畜への毒性が強いものも出回っていました。
そうなると人や家畜への被害も多く発生したことから、事故の防止を目的に昭和28(1953)年に危害防止運動が始まりました。
その後、農薬を使う人への安全もさることながら、環境への影響も考慮されるようになりました。それも水生生物だけでなく、最近ではミツバチへの影響も注目されるようになっています。
したがって、農薬を幅広く安全に使ってもらうことが大事だということから、昭和28年当時と比べるとこの運動の範囲が広がってきている状況です。ただ、注意すべき基本的な事項は変わらないと思っていますので、そこをしっかり守って使用していただくことが大事だと思っています。 農薬には殺菌剤、殺虫剤が多く、菌も虫も生き物でこれを防除するというものですが、われわれ人間も生き物ですから使い方を間違えてしまうと人間もダメージを受けかねません。きちんと使っていただいてこその農薬ですから、それを改めて考えて適正に使用していただきたいので、農薬の使用量が増える6月から8月までを農薬危害防止運動期間として設定しているということです。
昨年はラベルをしっかり見ることと、事故が多いクロルピクリン等の土壌くん蒸剤を使用する際の適切な管理の徹底についての二つを強調して情報発信しました。
今年は農薬全般について基本に立ち返ることが大事だと思っています。
何点かありますが、特に「見る!」ということを強調したいと思っています。
注意事項はラベルに書いてありますから、まずはラベルをしっかり見ていただくことです。英語で「見る」は「ウォッチ」と「ルック」と「シー」の三つがありますが、ルックとシーではなく、「ウォッチ」でなければならないということです。
令和7年度の運動のテーマは「使用前、周囲よく見て ラベル見て」ですが、この「見て」はルックやシーではなく「ウォッチ」です。注意深く見てください、ということです。
使用する場面はさまざまですが、住宅地が周りにあったり、ミツバチが飛ぶ時期などは巣箱が置かれていることもありますから、「周囲よく見て」とは、周辺も注意深く見ていただくということが不可欠です。今回はこのように「よく見て」を強調したキャッチフレーズにしました。
重点指導事項の一つ目は「農薬ラベルの使用法の確認」です。ラベルを見ずに、誤った方法で使用して残留基準値を超過してしまうこともあります。農薬を使う人間の責務として「うっかり」は許されません。
また、現在、農薬の再評価が行われていますが、再評価後に上市していくことになると、新しい被害防止方法がラベルに記載される場合もあります。たとえば、ミツバチへの被害を防止するため、ミツバチの飛ばない開花期を避けて散布するなどが想定されます。また、農薬を使用する人を対象とした新たな防護装備の着用も使用法に加わることも考えられます。
このように新しく守っていただくことが加わってくることにもなりますから、ラベルをしっかり注意深く見るということがますます重要になってきます。
二つ目は「土壌くん蒸剤使用時の適切な取り扱い」です。事例としてクロルピクリンを挙げると、これは土壌中でガス状になり拡散することで線虫や病原菌を消毒しますが、揮発性があります。土壌中からガスが抜けてしまうと効果が薄まるとともに、揮散したガスが人に刺激を与えることになります。
したがって、しっかりと土壌を被覆しないで使用すると近隣の住民や通行人に対して被害を与えることになりますし、何より使用している人にダメージを与えることになります。事故の原因としては土壌の被覆が不十分であったり、薬剤を注入した後に被覆資材を取りに戻っている間に土中から揮散してしまったなどがあります。
そのため使用する時には土壌をしっかり被覆し、使用する人は防護装備を着用するということが極めて大事だということです。被覆資材も薄いものでは漏れてしまうこともありますから厚みのあるものなど、ガスが揮散しにくいものを使用する必要があります。
三つ目は「住宅地等で農薬を使用する際の周辺への配慮及び飛散防止対策」です。これは今年度のテーマの「周囲よく見て」ということになります。風向きを見て風下に住宅地があるのであれば散布を中止し、風が弱い時や無風の時に散布するなどの配慮が必要です。
また、農薬散布についていつ散布するかなど、情報発信をしていただくことも大事だと思います。看板を設置したり、地区の掲示板への掲示、回覧板での周知、チラシを作成し直接ポストに配布するなどです。できるだけ周辺に農薬散布について周知し、理解してもらうことを心がけていただきたいと思います。
四つ目が「誤飲、盗難等防止に向けた適切な保管・管理」。その一つは農薬を使用する人の身を守るということです。農薬を飲料のペットボトルに移し替えて保管して誤飲するという事故は今だにあります。また、管理不足で農薬が盗難に遭って危険な使われ方をしてしまうということも無きにしもありませんから、鍵を掛けて保管するなどしっかり管理をしていただきたいと思います。
JAグループは組織力があり、情報発信力がありますから、農薬危害防止運動についての情報発信をお願いしたいと思っています。また、われわれ行政サイドと現場のみなさんの橋渡しにご協力をいただければありがたいと考えています。
また、JAは直売所を運営していますが、そこに出荷する生産者のみなさんにこの機会に改めて農薬危害防止運動について伝えていただければと思います。直売所は新鮮でおいしく安全な農産物が売られているイメージがあると思います。しかし使用できない農薬が直売所で使われていたとか、基準値超過だったといった事案が発生すると消費者の信頼を裏切るばかりか、地域のブランドが毀損(きそん)しかねません。改めてこの機会に注意を促していただければと思います。
運動は6月から8月の3カ月間ですから、この期間に現場のみなさんに知ってもらい改めて強く認識していただくには、やはり情報をいかに早く現場のみなさんに浸透させるかが重要だと思っています。JAグループのみなさんには短期間のうちに正しく熱意を込めて情報を伝えていただくことをお願いします。
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