問答無用の農協監査論議2015年1月26日
先週は、自民党の会合で農協問題が、集中的に議論された。議論の中心は、農協監査を、全中が行うのではなく、公認会計士に行わせる、という西川公也農水相の案である。大多数は反対の意見を表明した。
その後、週末に行われた記者会見で、農水相は、記者の質問に答えようとしなかった。
記者の質問は、何故そうするのか、という単純で、しかし最も根本的な質問だった。それに対して、最高責任者である農水相が、まともに答えなかった。
これでは、問答無用と言っているのと同じだ。この言葉は、戦前、議会制民主主義を否定する軍部の合言葉だった。そうして民主的な議論を封じ、戦争に突入した。
農水相は、記者の質問に対して、全く黙っていたわけではない。全中監査を止めるのは、農家の所得を増やし、地域のにぎわいを取り戻すためだ、という。
だが、これでは、何もいっていないのと同じだ。全中監査を止めるのは、日本を良くするためだ、というのと変わらない。答になっていない。「はぐらかして」いるし、愚弄している。
苦しまぎれに、全中が単協の自由を奪っている、などというが、そんな事実はどこにもない。
◇
言論を重んじる民主主義国家では、記者を愚弄することは、国民を愚弄することである。このことが、農水相には分かっていないようだ。記者は民主主義の守護神なのである。守護神を愚弄する政治家には、やがて選挙で天罰が下るだろう。統一地方選挙は近い。
記者の質問の主旨は、全中監査を止めることが、なぜ農家の所得を増やし、地域のにぎわいを取り戻すことになるのか、である。その因果関係を聞いているのである。
まともに答えなかったのは、この質問の主旨を理解できなかった訳ではないだろう。理解できたが、因果関係がないので答えられなかった、と考えるしかない。
◇
さて、農協監査には3つの監査がある。会計監査と業務監査と金融監査である。
会計監査は、その一部は、必要に応じて公認会計士に任せてもいいかもしれない。実際に農協では、今でも全国で30人余りの公認会計士にお願いしている。それで何も問題ない。
それで充分だが、農水相の考えは、全ての農協の会計監査を公認会計士に任せよ、というものである。そうすれば、農家の所得が増える、という。だが、なぜ増えるのか、説明が全くない。
◇
業務監査も外部に任せよ、という。だが、農協の業務は購買と販売だけではない。金融や共済もあるし、組合員の要望に応えて「揺りかごから墓場まで」の、農村生活にかかわる全ての業務も行っている。それぞれの業務に精通していなければ、監査はできない。農協監査士なら、数人でそれができる。
しかし、外部に任せたら、農協ごと、業務ごとに膨大な数の専門家に頼まねばならなくなる。そうしても農家の所得が増える、というのだが、説明がない。
◇
金融監査の外部化にも問題がある。
現行の全中の金融監査が優れていることは、すでに住専問題のときに分かっている。
あの時、金融庁(当時は大蔵省)の金融検査を受けていた銀行が、つぎつぎに破綻の危機に陥り、巨額の公的資金という名前の血税を使った。
しかし、農協は全中の金融監査を受けていたので、破綻の危機に陥ることはなかった。だから、国民の血税を使った農協は、1つもなかった。
この事実は、全中の金融監査が優れていることを、何よりも雄弁に物語っている。
それなのに、農水相は全中の監査を、根拠もなく問答無用で否定している。
◇
以上のように、全中の監査はあらゆる面で優れている。
その理由を、ひと言でいえば、一般企業の監査が大株主の私利私欲のための監査であるのに対して、全中監査は協同組合の監査だからである。それは、組合員のための総合的な監査というだけでなく、国民にとっての公正な監査であり、そうした社会的使命を農協監査士が自覚しているからである。
それを否定するなら、その理由を説明すべきである。問答無用とばかりに否定し、強権的に廃止するなど、言語道断である。
(前回 財界のための農協監査)
(前々回 協同組合国家への展望)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】普通期水稲に紋枯病 県内全域で多発のおそれ 長崎県2025年9月5日
-
「適正な価格」の重要性 消費者に訴える 山野全中会長2025年9月5日
-
米価暴落防ぐ対策を 小泉農相に小松JA秋田中央会会長2025年9月5日
-
(451)空白の10年を作らないために-団塊世代完全引退後の「技術継承」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年9月5日
-
【統計】令和7年産一番茶の荒茶生産量 鹿児島県が初の全国一位 農水省調査2025年9月5日
-
【統計】大豆生産費(組織法人)10a当たり0.7%増 60kg当たり1.6%増 農水省調査2025年9月5日
-
【統計】大豆生産費(個別)10a当たり0.8%増 60kg当たり10.7%減 農水省調査2025年9月5日
-
【統計】冬キャベツ、冬にんじんの収穫量 前年比2割減 農水省調査2025年9月5日
-
長野県産ナガノパープルのスイーツ「いっちょう」「萬家」全店で提供 JA全農2025年9月5日
-
『畜産酪農サステナビリティアクション2025』発行 JA全農2025年9月5日
-
「国産シャインマスカット」全国のファミリーマートで販売 JA全農2025年9月5日
-
「わたSHIGA輝く国スポ2025」参加の広島県選手団へ清涼飲料水贈呈 JA共済連広島2025年9月5日
-
「いちはら梨」が当たるSNS投稿キャンペーン実施中 千葉県市原市2025年9月5日
-
猛暑対策に高性能遮熱材「Eeeサーモ」無料サンプルも受付 遮熱.com2025年9月5日
-
農機具王とアグリスイッチ 構造再編をチャンスに「週末農業プロジェクト」始動2025年9月5日
-
鳥インフル ハンガリーからの生きた家きん、家きん肉等の一時輸入停止措置を解除 農水省2025年9月5日
-
旬の巨峰を贅沢に「セブンプレミアム ワッフルコーン 巨峰ミルク」新発売2025年9月5日
-
見る日本料理の真髄「第42回日本料理全国大会」開催 日本全職業調理士協会2025年9月5日
-
海業推進イベント「IKEDAPORTMARCHÉ」小豆島・池田港で初開催 池田漁業協同組合2025年9月5日
-
ガラパゴス諸島の生物多様性保全と小規模農家の生計向上事業を開始 坂ノ途中2025年9月5日