原木椎茸被害の法的解決 損害賠償は原子力ADRへ2018年9月11日
東京電力福島第一、第二原子力発電所事故が平成23年3月11日に発生してから7年が経過しました。しかし、農林業においては、原子力発電所事故による放射性物質の影響による被害がまだ続いています。私は、原子力発電所事故により被害が生じた原木椎茸生産者の代理人として、東京電力ホールディングス株式会社(東京電力)に対して、原子力損害賠償紛争解決センターへの和解仲介手続(原子力ADR)の申立てをしてきました。そこで原子力ADRについて紹介させていただきます。(写真は原木椎茸のイメージ)
原子力ADRとは、原子力発電所事故の放射線の影響により生じた東京電力が負う損害賠償に関する紛争について円滑、迅速かつ公正な解決を図ることを目的として設置された原子力損害賠償紛争解決センターでおこなわれる和解仲介手続です。原子力ADRにおいては、弁護士である仲介委員及び調査官により、当事者から提出された書面等による審理がおこなわれます。また必要に応じて当事者が出席する口頭審理期日が開催されることもあります。審理の参考とされるのは、原子力損害賠償紛争審査会が定めたいわゆる中間指針と原子力損害賠償紛争解決センターの総括委員会が定めた紛争解決の基準である総括基準になります。原子力ADRの特徴として、(1)申立手数料が無料であること、(2)訴訟のような厳格な立証が要求されないこと、(3)非公開手続であること、が挙げられます。
原子力ADRのメリットは東京電力への直接請求手続と異なり、中立的な立場にある原子力損害賠償紛争解決センターの判断による和解案が提示されることです。また、直接請求手続における東京電力の提示金額より低額の和解案が提示されることもありません。さらに、損害を証明するために必要な資料が存在しない場合には柔軟な対応がなされます。審理期間は一般的に6か月程度とされていますが、原木椎茸の事案の場合、事案の複雑性等のため1年程度を要することがありました。それでも裁判による解決よりは早いことになります。
具体例としては、直接請求では認められなかった原子力事故前からの栽培規模の拡大計画が原子力ADRでは認められ、約3500万円の賠償が認められた事例があります。また、直接請求手続では会社全体の利益を基準として賠償額が算定されましたが、原子力ADRでは事業部門の利益を基準として賠償額を算定することで、約1000万円の増額が認められた事例があります。これらの事例は、今後の原子力ADRの参考になるものとして原子力損害賠償紛争解決センターのホームページ上で公表される予定です。
このように原子力ADRは、原子力発電所事故により生じた原木椎茸生産者の被害について、東京電力の提示した賠償金額が妥当でない場合に柔軟に審理を進め、法律的観点から適切な和解案を提示しました。原木椎茸以外の農林業者に生じた被害の場合にも同様の審理がなされるといえます。
多くの農林業者はこれまで、直接請求手続において東京電力の基準で算定された賠償金を受領してきました。しかし、原子力ADRを利用すれば賠償金額が増加する多くの事案があると思われます。直接請求における賠償金額に疑問がある場合には、十分な被害回復の観点からも原子力ADRを活用することを積極的に検討していただければと思います。
【原子力ADRの連絡先】
○TEL:0120-377-155
(石塚大作 弁護士・日本公認会計士協会準会員)
(関連記事)
・最高技術の乾椎茸品評会 JA全農(18.06.08)
・消費者の2割が福島産の「安全性に不安」(18.03.30)
・脱原発で安全な食料「豊かな国土」再生へ【菅野孝志・JAふくしま未来代表理事組合長】(18.03.20)
・東電、土壌汚染対策費用は一切認めず(13.04.02)
重要な記事
最新の記事
-
協同心の泉 大切に 創立記念式典 家の光協会2025年5月2日
-
【スマート農業の風】(14)スマート農業のハードルを下げる2025年5月2日
-
(433)「エルダースピーク」実体験【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年5月2日
-
約1cm程度の害虫を強力捕獲「吊るしてGET虫ミニ強力タイプ」新発売 平城商事2025年5月2日
-
農中情報システム 自社の導入・活用のノウハウを活かし「Box」通じたDX支援開始2025年5月2日
-
洗車を楽しく「CRUZARD」洗車仕様ホースリールとノズルを発売 コメリ2025年5月2日
-
戦後80年の国際協同組合年 世代超え「戦争と平和」考える パルシステム神奈川2025年5月2日
-
生協の「地域見守り協定」締結数 全市区町村数の75%超の1308市区町村に到達2025年5月2日
-
ムコ多糖症ニホンザルの臨床徴候改善に成功 組換えカイコと糖鎖改変技術による新型酵素2025年5月2日
-
エフピコ×Aコープ「エコトレー」など積極使用で「ストアtoストア」協働を拡大2025年5月2日
-
JA愛知信連と高機能バイオ炭「宙炭」活用に関する協定締結 TOWING2025年5月2日
-
5月の野菜生育状況と価格見通し だいこん、はくさい、キャベツなど平年並み 農水省2025年5月2日
-
「ウェザーニュースPro」霜予測とひょう予測を追加 農業向け機能を強化2025年5月2日
-
東京・大阪の直営飲食店舗で「岩手県産 和牛とお米のフェア」を5月1日から開催 JA全農いわて2025年5月2日
-
新潟市産ももで食育出前授業を開催 JA全農にいがた2025年5月2日
-
山形県さくらんぼハウス栽培研究会が研修会を開催 山形県さくらんぼハウス栽培研究会2025年5月2日
-
全農直営飲食店舗で「いわて純情米」フェアを5月29日まで開催 JA全農いわて2025年5月2日
-
トランプ農政・小規模農家に暗雲 熊本学園大学教授 佐藤加寿子氏【トランプの世界戦略と日本の進路】2025年5月1日
-
新品種から商品開発まで 米の新規需要広げる挑戦 農研機構とグリコ栄養食品2025年5月1日
-
米の販売数量 前年比で86.3%で減少傾向 価格高騰の影響か 3月末2025年5月1日