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菅政権と自民党は衆院解散の時期を自己の利益で決めてはならない 菅政権は任期満了選挙を明言すべし【森田実の政治評論】2021年4月3日

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「政治家の秘訣は、何もない。ただただ『正心誠意』の四字ばかりだ」(勝海舟)

政界に広がる早期解散論

緊急事態宣言の解除とともに、政界の中で早期解散論を叫ぶ者が増えている。一部の政治家と政治記者が4月から7月の間の早期解散論を積極的に発言し始めている。菅義偉総理の記者会見でも政治記者は早期解散について質問するようになった。

早期解散論者は、早期解散であれば野党の選挙体制ができていないため自民党に有利であり、4月の訪米と日米首脳会談により菅内閣の支持率は上がる、などと発言している。また、「菅総理は小池百合子都知事の国政への挑戦を恐れている。7月4日の東京都議選前であれば、小池都知事の国政への挑戦を阻止できる」と言う者もいるが、本当だとすれば異常である。

しかし、こうした歪んだ主張はすべて「菅政権存続最優先論」に立っている。これは国政の私物化以外の何ものでもない。

菅総理は衆院解散について思わせぶりな発言はやめて、衆院選は任期満了の2021年10月に行うと宣言すべきである。衆議院議員の任期は4年である(憲法第45条)。菅総理は憲法を守るべきである。

早期解散論者に問いたい。新型コロナウイルスによる感染症が広がっているさなかに菅総理が衆院解散をして、国民の支持が得られると考えているのか。

4月25日の三つの衆参補選・出直し選で自民党の敗北を阻止するため衆院選をぶつけるという発想はあまりにも乱暴であり、常軌を逸している。

小池都知事の国政への挑戦を阻止するため東京都議選前か同日に衆院選を仕掛けるというのはあまりにも狂気的であり、とうてい許されることではない。菅総理は無責任な早期解散を実行するとは考えられないが、もしも行うようなら国民は菅政権を否定しなければならない。

「衆院解散権が総理個人にある」は憲法の曲解

衆院解散をめぐる憲法解釈を歪めたのは吉田茂総理だった。1952年8月末に吉田茂総理は臨時国会を召集し、すぐに衆院を解散し、10月1日に衆院選を断行した。「抜き打ち解散」である。私は大学生だったが、吉田茂は重大な憲法違反をしたと考えた。

吉田茂総理は1948年末に総理大臣になった時、衆院を解散しようとしたが、当時日本を支配していた米占領軍は、内閣による衆院解散は憲法上できない、憲法第69条(内閣不信任案の可決の時内閣は衆院解散ができるとの条項)によってのみ可能との立場をとった。この解釈は正しかった。そこで吉田茂総理は、米占領軍に、社会党、民主党から吉田内閣不信任案を出して可決するよう説得してほしいと要望した。こうして吉田茂内閣不信任案が可決され、憲法第69条で衆院を解散し衆院選を実施した。

1952年4月28日にサンフランシスコ講和条約が発効し、日本の施政権は日本政府にもどった。この4カ月後の8月末、吉田茂総理は衆院を抜き打ち的に解散した。吉田茂総理は憲法第7条の天皇の国事行為により解散を合理化した

天皇は象徴である。これは天皇が政治権力に関わらないことを意味している。憲法第7条の天皇の国事行為は儀礼的な規定であり、政治権力と無縁な天皇に衆院解散をさせることはできない――これが1948年時の憲法解釈だった。私はこの解釈は今でも正しいと思っている。

1952年10月1日の衆院選のあと、吉田茂内閣の衆院解散は憲法違反だとの議論が起こったのは当然だったが、吉田内閣は耳を傾けようとしなかった。このため衆院解散の是非は裁判所の判断にゆだねられた。しかし当時の最高裁長官の田中耕太郎は憲法判断を回避した。田中耕太郎裁判長が使ったのが「統治行為論」であった。裁判所には判断できないという論である。当時の政権は、違憲判決が回避されたことを拡大解釈し、「内閣による衆院解散は合憲である」としてしまった。

吉田茂総理が犯した憲法違反はその後政権党により合憲とされ、政権党は政権を維持するために、好き勝手に使ってきた。

しかも時の経過とともに「内閣の解散権」は「総理個人の解散権」にすりかえられた。今や新聞記者までも「衆院解散権は総理個人にある」と思い込んでしまっている。これは行き過ぎである。百歩譲っても内閣総理大臣は、少なくとも衆院解散の行為については慎重でなければならない。せめて与野党合意の上で衆院解散の時期を決めるべきである。

菅総理の自民党総裁としての任期は2021年9月までである。菅総裁のその後の地位は自民党にゆだねるべきである。その前に解散権を行使すべきではない。

衆院選は任期満了の時に行うべきである。菅政権と自民党は政治を私物化してはならない。政権の決定は、衆院選における国民の選択にゆだねるべきである。


【コラム:森田実の政治評論の記事一覧はこちら】

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