【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】価格転嫁対策検討の現在地2023年11月9日
新たな政策の「目玉」のように打ち出された「強制的」価格転嫁対策の検討だが、現実はどうなっているのだろうか。
飼料、肥料、燃料などの高騰にもかかわらず、農家の農畜産物の販売価格が十分に価格転嫁されず、農家の赤字が膨らんでいる。
フランスの制度を参考に、日本においても、政府がある程度の強制力を持って、農家のコスト高を流通段階別の価格に反映していける仕組みを創出することが、新たな政策の目玉として表明された。
フランスは、労働者の賃金も、労働法に基づき、2%以上の物価上昇が生じたら自動的に引き上げられることになっているが、農産物の取引価格についても、農家のコスト上昇分を販売価格に反映する「自動改訂」を 政策的に誘導する仕組みが一応できている(Egalim 2法による)。
酪農については、カナダでは州別MMB(ミルク・マーケティング・ボード)に酪農家が結集しているから、寡占的なメーカー・小売に対する拮抗力が生まれ、価格形成ができる。カナダではMMBを経由しない生乳は流通できない。そうしないと法律違反で起訴される。それを背景にして、MMB(ミルク・マーケティング・ボード)とメーカーはバター・脱脂粉乳向けの政府支持乳価の変化分だけ、各用途の取引乳価を自動的に引き上げていく慣行になっており、実質的な乳価交渉はない。
アメリカでは、連邦ミルク・マーケティング・オーダー(FMMO)で、メーカーが酪農家に最低限支払うべき加工原料乳価の最低額は、乳製品市況に基づき、連邦政府が決め、飲用乳価に上乗せすべき最低限のプレミアムも2600の郡別に政府が設定している。
つまり、各郡別に飲用乳にメーカーが支払うべき最低価格価=全米一律の加工原料乳価+郡別上乗せ額、となっている。
日本でも、以前、そのような仕組み作りのための算定ルール(フォーミュラ)の検討が「酪農乳業情報センター」(現Jーmilkの前身)で行われ、筆者も検討に参加したが、小売部門の参加が得られなかったこともあり、頓挫した経緯がある。
筆者は、今回の我が国での検討について、「フランスでも実効性には疑問も呈されているし、小売主導の日本の流通システムで、簡単に強制的なルールが決められるものではないし、それを検討しているうちに、酪農・畜産はじめ農家は赤字で倒産してしまい、間に合いそうにない。」という懸念を指摘してきた。
現時点では、やはり政府が誘導する強制力の導入の困難さが明白になってきており、どう掲げた旗を処理するのか、という状況ではないかと思われる。
民間で話し合う場を設け、検討して下さい、ガイドラインを作りましょう、といったレベルで、ある意味、お茶を濁さざるを得なくなることが懸念される。
そもそも、消費者負担にも限界があるから、生産者に最低限必要な支払額と、消費者が支払える限界額にギャップが生じているのだから、それを埋めるのこそが政策の役割なのに、政策での財政出動はせずに、あくまで民間に委ねようとする姿勢が問われる必要がある。
政府による生産者に対する赤字補填の直接支払いは欧米諸国で普通に行われている。この確立こそが今求められているのではないか。
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