【ジビエとは何か】 日本ジビエ振興協議会・藤木徳彦理事長2016年10月18日
鳥獣被害対策としてのジビエ
畜産との違いは?
捕獲した野生鳥獣を営業許可を取得した処理施設で解体したものでなければ流通してはいけない、また客に提供する際には加熱処理した肉を提供しなければならないなどの規定があるジビエ。
今回、このジビエがこのまま普及していくかについて、藤木理事長にお尋ねした。
--ジビエに興味をもったのはいつからですか。
1998年に長野県でフランス料理店をオープンしたころからジビエ料理は扱っていました。
もともと、店を持つ前の修業時代から飼われていない天然のもの、野生のものであるジビエに魅力は感じていました。でも一番のきっかけは、20歳の時にフランスでシカとカモをたべたこと。"野生だから臭いし硬いだろう"と思って食べたら、おいしかった。
日本に帰って当時のフランス料理のジビエを食べたけれど、おいしくないと思った。焼き方が違ったんでしょう。
--農水省から「地産地消の仕事人」として認定を受けていますね。ジビエは"地産地消"としてみていますか、フレンチの文化としてみていますか。
フレンチの文化として見ています。
本来は店を営業する上で、冬の食材が少ない時にジビエを提供するというところから発想を得ています。
--「ジビエ」がメディアで取り上げられています。この急速な発展の流れに、とまどいは感じていますか?
とまどいではなく、"こうあるべき姿"になったんだと感じます。
もともと世間では、ジビエという言葉はあまり定着していなかった。農水省に相談に行っても、担当してくれる課は以前はありませんでした。昨年から農村振興局や自民党の議連が立ち上がり、わたしも今は日本ジビエ振興協議会という立場に立っています。
食には流行があり、時に、これは残酷な結果ももたらすことがあります。
例えば、関東でジンギスカンブームが起こった時、長野では羊の増産が行われました。けれど今はブームは廃れて、年老いた羊だけが残っている。どうするのか。
ジビエも、流行として終わらせることは簡単だと思う。けれど、今は国も、議連も、鳥獣被害の視点から、ジビエの文化を日本に定着させようと働きかけています。
--肉、というくくりでいくと、実は畜産農家の方々にとって、チャネルを奪われる心配があるのではないかと思いますが、いかがですか。
これは非常にデリケートな問題です。畜産農家の方は、ジビエがもっと表にでてきたら「ライバルだ」と敬遠するかもしれません。
しかし、ジビエの本来の入り口は"鳥獣被害対策"なのです。農家の方が困っている被害を軽減し、捕獲した動物を資源にしようとしているだけに他なりません。
最終的に肉を売る、ということはありますが、あくまでも入り口は違うんだということを念頭に置いていただきたい。
牛や豚などの生産量に比べると、シカ・イノシシなんて微々たるもの。それに、料理の種類が違うと思います。
すきやきを、鹿肉で食べたいと思いますか?
牛や豚にあう料理、シカ・イノシシなどジビエに向く料理と、ちゃんと分ければいいと思います。
--ジビエを扱いたいとJAなどが考えたとき、最初の一歩はどう踏み出すべきでしょうか。
あくまでも理想論ですが、JAでジビエをやりましょう、となっても、相談する窓口がありません。そこを協議会がお手伝いしたいと思っています。距離が離れていても、相談会などをやっていきたい。
取り組みの最後にはジビエ肉の流通が必要になってきます。川下の販売チャネルをJAは持っています。
私は、JAの力を是非お借りしたいと思っています。二人三脚でやっていきたいですね。
◇ ◆
野性鳥獣による農作物の被害額は200億円前後で近年推移しており、そのうち7割がシカやイノシシ、サルによるもの。急速な生育数の増加と生育域の拡大で自然生態系にも深刻な被害が起っている。
平成25年12月、環境省と農水省は共同で「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を取りまとめ、そのなかで「ニホンジカ、イノシシの個体数を10年後(平成35年度)までに半減」することとした。27年度には25年度の捕獲率(捕獲頭数÷生息予測頭数、ちなみに25年度のシカの捕獲数は約38万頭)の約2.1倍で捕獲を行わなければ目標の達成が難しいことが分かっている。
長野県でフランス料理店を営むシェフ・藤木徳彦氏は、捕獲した野生鳥獣を食肉のジビエとして普及していくことを目的にNPO法人日本ジビエ振興協議会を2014年に設立。農水省や自民党のジビエ議連などとの取組みや、ジビエ肉の流通などの正しい知識をプロ向けの調理セミナーなどで伝えている。
長野県では、一部のAコープでシカ肉の販売を行っている。これは農家が罠免許を取得し、捕獲した鳥獣は移動式解体処理車(ジビエカー)で取りに来てくれ、処理施設(ここでは信州富士見高原ファーム)が購入。ここで処理したジビエをAコープで販売している。
移動式解体処理車は、来年度には実証実験の結果がでてくる。全国の自治体で取り入れたいと考えている場所で取り入れ、鳥獣被害対策として活用されればよいと思う。
衛生も担保され、消費者にトレーサビリティを示せ、安心・安全を提供できることを藤木氏たちは目指している。
(写真)真剣に講義する藤木理事長、10月13日に行われた家庭向けジビエ講座(JAビル)、9月1日ぐるなび主催で開かれた飲食店向けジビエセミナー
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