全農 原料米の供給と「共同輸送」で日清食品と連携【2024年物流問題】2023年10月31日
JA全農は10月31日、日清食品と安定的な原料米供給と米や製品の「共同輸送」で包括的な連携を開始すると発表した。
連携を発表したJA全農の高尾常務理事(左)と 日清食品の深井取締役
全農と日清食品はカップライスの原料となる加工用米の取引を15年前から行っており、今回の包括的な提携で米をはじめとした国産農畜産物の中長期的な安定供給を強化するとともに、原料米と日清食品のカップライスやカップヌードルなど製品の共同輸送を開始する。
全農は1日に5000~6000tの米を全国で輸送しているが、重量であるため手荷役が敬遠され、トラックドライバーの労働時間規制が始まる2024年の物流問題が迫るなか、合理的な米の物流が課題となっていた。
一方、日清食品は「カレーメシ」を中心とするライス事業に力を入れ、昨年度は売上100億円を達成し、今後も倍以上の成長をめざす。そのためには原料米の安定的な調達が課題となり、昨年夏から全農と共同輸送などの可能性について協議してきた。
その結果、すでに10月から取り組みが始まっているのが岩手県と茨城県間の共同輸送だ。岩手県内のJAや全農いわての米穀倉庫から千葉、埼玉など関東にある米卸の精米工場へ米を輸送したトラックが、次に茨城県内の日清食品工場に移動、そこでカップヌードルなどの製品を積み込み岩手の製品倉庫に輸送している。4月から試験輸送を行い、10月から週に2便の定期運行が行われている。
トラックに積み込んだ貨物を目的地で降ろした後、別の貨物を積み込んで出発地まで戻る輸送形態をラウンド輸送と呼び、空車回送区間をできるだけなくし、トラックの配送効率を高めることができる。
全農によると岩手-茨城間のラウンド輸送により従来に比べてトラック1台当たりの実車率が約12%高まる見込みだ。
岩手~茨城間のラウンド輸送
もうひとつの取り組みが福岡県と山口県間のラウンド輸送。福岡にある全農の精米工場からカップライスを製造している日清食品の下関工場へ原料米をトラック輸送した後、同工場で製造されたカップライスなどを同じトラックで福岡にある日清食品の製品倉庫に輸送する。
福岡~山口間のラウンド輸送
この「調達物流」と「製品物流」を組み合わせたラウンド輸送は荷降ろし地と積み込み地が同じ。荷物を降ろしてから次の積み込みまでの距離が「ゼロ化」されドライバーの労働時間を7%削減できるという。
また、従来の輸送では空きパレットや空き容器を日清食品の製造工場から全農の精米工場へ別のトラックで返却していたが、この取り組みによって一部区間でそれらを日清食品の製品と混載して輸送できるようになった。そのためトラックの積載率が約9%向上しCO2排出量も約17%削減できる見込みだという。
物流問題の解決に向けては輸送業界による共同輸送など水平連携の取り組みは進められているが、サプライチェーンの川上から川下までの「垂直連携」の取り組みは珍しい。取り組みが進まない理由のひとつが双方が取引関係にあるためで、物流コストをどう価格に反映するかは取引条件そのものでもある。
ただ、今回、ライス事業に力を入れる日清食品は2024年の物流問題は製品を消費者に販売する物流クライシスだけでなく、原料米の安定調達ができるかどうか、「調達物流にもクライシスが来る。それはモノづくりに対する危機でもある」(同社構造改革推進部の舟根宏道部長)との認識で垂直連携に踏み込んだ。
全農の高尾雅之常務は「実態と課題をざっくばらんに出し合いながら取り組み強化に向けて話し合ってきた」と話し、日清食品の深井優裕取締役は「膝詰めで話してお互いの状況を知ることができた。業界の垣根を超えて社会課題の解決に貢献していきたい」と話した。
今回の2つの取り組みだけでなく両者間では鉄道や海上輸送を使ったラウンド輸送、トレーラーの混載輸送も検討している。
「米と国産農畜産物の取り扱い拡大に努め、生産者とJAにとってのより一層の安定的な販路を確保し、生産者の持続的な米の生産につなげていきたい」と高尾常務は話している。
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