JAの活動:今こそ農業界の事業承継を
【現地ルポ】10年計画で着実な事業承継を (有)たけもと農場(石川県能美市)2018年3月2日
・全ての「見える化」で到達点と目標を共有
・(有)たけもと農場(石川県能美市)
・竹本彰吾:代表取締役(全国農業青年クラブ連絡協議会副会長)
・竹本敏晴:取締役会長
どうすれば農業の事業承継はできるのか? と悩んでいる農業経営者や後継者の方々、そしてその橋渡し役であるJAのTACの皆さんは多いと思う。ここでレポートするたけもと農場は、事業承継の成功例であることに間違いはないが、そこには多くの紆余曲折が多々あり、10年経っても「まだ承継は終わっていない」というというように、そこには事業承継を確実に進めるための多くのヒントが隠されていた。
◆米作日本一に 輝く稲作農家
(有)たけもと農場の事務所前に立つと、あたり一面に広がる田んぼの向こうに、霊峰・白山の峰々の真っ白な雪を抱いた神々しいまでに美しい姿が出迎えてくれた。
金沢平野の一角にあり、霊峰・白山の雪解け水に恵まれたここ牛島(旧寺井町)は、京都南禅寺の荘園時代からの歴史があるという米どころだ。たけもと農場のすぐ近くには九谷焼の陶芸村や北陸最大の古墳群が点在するという歴史豊かなところでもある。
竹本家はこの地で代々稲作農業を営み彰吾さんは10代目だという。彰吾さんの祖父・平一さんは、その技術が高く評価され「米作日本一」で表彰されている日本を代表する稲作農家の一軒だ。平成5年にJA石川県中央会の指導を受けて有限会社化し、現在、竹本家の農地を含めて45haの農地を地域の約100軒から受託し、水稲・大麦・大豆を生産している。そのほ場はたけもと農場から半径1km圏内に集中しているというように、地元にしっかり密着した農業法人だ。
◆息子の背を押した親父のプレゼン
そうした家で育ってきた彰吾さんは「いずれは誰かが継がなきゃ」と漠然と感じてきたが、これからの人生の進路を変える時期・高校3年生の時に、就農を決意したという。
決意をさせたのは、父・敏晴さんの次のようなプレゼンだったという。
敏晴さんは、彰吾さんの目の前に1年間の年収(農業収入ではなく所得)分の金額を1万円札で積み上げて見せたうえで、たけもと農場に対する地域の人たち、JAや取引先などから寄せられる期待について「熱弁」をふるった。そして最後に「ワレのしたいようにすれ、でも、農業に就いてくれたら嬉しい」と結んだ。その場で彰吾さんは、就農することを約束した。
高校卒業後の進路については「4年間は外の世界に触れた方がよい」ということで大学へ進学するが、敏晴さんは「大学は4年間だけで、修士課程にすすむことはダメ」だとした。そして大学を卒業後、「農業知識はゼロ」という彰吾さんはどのように農業に携わっていけばいいのか?
◆3段階の10年計画作成を
その具体策が下図の「事業承継10年計画」だ。
これは、歴史ある稲作農家・竹本家に先代の平一さん時代から、農研機構中央農業総合研究センターの梅本雅氏や山本淳子氏が調査のために訪れており、両氏から農業経営における事業承継の進め方などについて、全国のさまざまな具体例などを直接あるいは両氏の講演会などで聞いたうえで作成したものだ。これを実行するうえでは、梅本・山本両氏だけではなく地元の普及員やJA支店の営農指導員、4Hクラブの仲間たちと交流し、父子の「1対1に風を通したことが、よかった」と彰吾さんは、第3者の存在の重要性を強調した。
この「計画図」はあくまでも10年を3段階に分けてどうステップアップしていくかを描いたものだ。この計画に沿って毎年、前年の実績と今年度の目標を明確にした「計画」が文書化されている。
1年目を終えた段階の年間計画の「農作業・基本技能」の実績は▽主要3農作業では、概ねオペレータをした▽全作業を通して経験し、年間の流れの概要を把握した、であり、2年目の計画としては▽オペレータ技術の向上▽基本技能の向上となっている。「経営管理」では▽経営管理全領域図を作成▽農地管理台帳(一筆ほ場、地主別小作台帳)作成▽ホームページの作成、公開が1年目の実績で、2年目の計画は▽在庫管理▽販売管理▽ホームページの充実があげられている。また、1年目に小松能美農業青年グループ(4Hクラブ)加入し、その活動に積極的に参加していくことが2年目の計画にあげられている。その他の項目についても、実績と今後の計画や必要な情報についても「見える化」し、共有できるようにしていることも事業承継では大事なポイントだといえる。
(写真)竹本彰吾代表取締役(全国農業青年クラブ連絡協議会副会長)(左)と竹本敏晴取締役会長
◆事業承継は 「守る」ではない
たけもと農場の事業事務所には「国産のイタリア米」という文字が目につく。ここではイタリア米を生産・販売しているのだ。これは彰吾さんのアイディアで、当初は敏晴さんは「遊び」だと思っていた。ところが金沢など地元だけではなく東京のイタリアンレストランからも注文が入り、当初はあまり良く思っていなかった敏晴さんも「新しいビジネスの柱になるかもしれない」と評価しはじめている。経営管理面のデータ化やホームページとそれを活用したネット販売など、敏晴さんでは手につけにくい仕事を彰吾さんが積極的に取り入れている。
敏晴さんは「考えてみれば、私は有機農業や産直にこだわってきてが、父(平一さん)がいれば許されなかったでしょう。でも、農家が生き残っていくためには、新しいものを、次世代の芽をどう育てるのかも大事ではないですか」と考えている。
彰吾さんも「意見がそれぞれあることが必要で、意見を全く合わせるのはけっこうナンセンスは話だ」。何代も続いているので「よく同じことを何代も続けれるよね」といわれることがあるが「実は同じことをしている感覚はない」し、「父もやることを全部継げとはいわん。ワレの好きなようにすれ」と約束しているという。
そして農業経営の承継問題に悩んでいる同世代の仲間に、「受け継ぐということは、守ることではない。せっかく経営基盤があるのだから、それをベースにベンチャーとして新しい仕事をつくっていくことも視野にいれて承継」することが大事だという。継ぐべきことは継ぎながら、その時代時代に合わせた工夫していくことも、事業承継の大事なポイントの一つだということだ。
◆地域・人の承継が課題
事業承継10年計画を終え、平成29年に彰吾さんが代表取締役(つまり社長)に就任して、敏晴さんは会長になった。そのことは、地域や関係者には伝えたのだが、地域の人たちは「やはり会長のところに相談しに来ます」という。
ある人から「畑だけがしごとではないヨ 坊や」と彰吾さんはいわれたことがある。
地域との関係、人と人との関係、お付き合いする個々人の性格など、これから「承継することがまだまだある」と彰吾さん。
「10年経ったが承継はまだ終わっていない。まだ3~4年かかる」よと敏晴さん。
だから「承継の10年計画を立てる前の10年が大事」で、そのために「承継を前提にしたTACなどの活動が大切」だと敏晴さんは取材の最後に語ってくれた。
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