JAの活動:JA全農創立50年特集 なくてはならない「JA全農」を目指して
担い手不足解消に地方創生へ 全国に広がる労働力支援【JA全農創立50年】2022年3月28日
担い手不足に悩む農業現場を支援するJA全農の労働力支援の動きが広がっている。昨年4月に旅行会社のJTBと連携協定を結んで農作業を受託する全国的なスキームを作り上げ、今月4日、「全国労働力支援協議会」が設立された。昨年からサクランボ農家などへの労働力支援を始めた全農山形の取り組みを取材した。
サクランボ農家での労働力支援の様子
サクランボの生産日本一を誇る山形県。農家の高齢化などが進み、毎年、収穫期の6月は人手不足が深刻化している。昨年4月、JA全農山形営農支援課に配属された佐藤大輔さんは、この時期をターゲットに全農協に足を運んでニーズを聞き取った。昨年のサクランボの作柄は霜害が深刻で例年よりニーズは低かったが、3農協から支援を求められた。
労働力支援は、全農やJAが農家から受託する作業内容を聞き取り、パートナー企業が多様な労働力を確保する仕組みだ。2015年に大分県でスタートし、全国に支店を持つJTBとの連携で全国展開に弾みがついた。JTBとしてもコロナ禍で観光ニーズが激減する中、観光業関係者の働く場を確保できるメリットがある。
もっとも、立ち上げには苦労が伴った。収穫や選果場の作業は天候などに左右され、労働時間を十分に確保できないケースもある。このため佐藤さんは、不測の事態に備えて約70日間も現場に出向いた。最終的に初年度は農家やJA施設など12か所からサクランボや洋梨のラ・フランスの収穫作業などを請け負い、のべ約650人による支援を実施した。
佐藤さんは「多様な層を働き手として取り入れることができ、生産者、参加者双方から来年も参加したいとの声をいただいた。実績とともに自信につながった」と手応えを語る。農家の評価も上々だ。ラ・フランス収穫作業を委託したある農家は「事前の段取りが必要な面もあるが、ほぼ期待通りに作業してもらえた。来年度はサクランボの収穫もお願いしたいと考えている」と話している。
全農の取り組みのメリットの一つが、作業チームに比較的スキルの高いリーダーを置くことだ。このため生産者は1人1人に細かく指導せずに済む。また、参加する側も1日単位で気軽に参加できる。佐藤さんは「直接雇用より農家が委託する料金は少し高くなるが、生産者は現場指導や事務作業から解放されて作業に専念できる。人を雇うことの苦労を知る生産者ほどメリットを理解していただけた」と振り返る。
思わぬ収穫もあった。ラ・フランス農家を手伝った女性が作業後、「お店でラ・フランスを見たら間違いなく買います」と話すのを聞き、佐藤さんは労働力支援が"産地のファン"を増やす効果に気づいたという。「作業を通じて産地や農産物への愛着が根付いたのだと思う。労働力支援は究極の販売戦略になるのではないか」
一方で作業リーダーの力量にはばらつきがあり、今後の育成が大きな課題となった。「スキルの高いリーダーの育成やつなぎ止めには通年で働く場を確保する必要がある。ただ、東北は冬は雪もあるので、今後は例えば冬は温暖な地域で、春から秋は山形でという広域的な枠組みも考えたい」と語る。
佐藤さん来年度、請負体制の規模をのべ人数で約4000人に増やすとともに、新たに農作業と旅行を絡めたツアーの企画に挑戦したいと意気込む。「果樹園の収穫体験より踏み出した、本気で農作業をするツアーを考えたい。それによって地域の人たちとコミュニケーションを図り、リピートする関係づくりにつなげたい」。JTBと連携してトライアルとしての実現を模索する。
こうした姿は全農の方針と合致している。全農は全国協議会の発足に合わせて「91農業」を提唱した。「ライフスタイルに農的生活を1割入れませんか?」をコンセプトに、旅行の1日を農作業にあてる「9旅行1農業」などをPRする。また、今後の活動計画として、林業や漁業団体と働き手を融通しあう仕組みづくりの検討などを始める。こうした多角的な農作業支援が新たな地方創生につながるかどうか、期待が高まっている。
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