新たな水稲用除草剤「楽粒」開発の舞台裏 北興化学工業2022年11月28日
今シーズンから販売を開始した水稲用除草剤「サキガケ楽粒(らくりゅう)」、「ワザアリ楽粒」は、北興化学工業株式会社が開発した全く新しい拡散型製剤である。
この拡散性に優れる製剤にたどり着くまでには多くの苦労があった。今回は、楽粒製剤の開発担当者と製造担当者に苦労話の一端を聞いた。
入波平治氏
最初に登場するのは、楽粒開発の中心人物である開発研究所製剤研究部の入波平治氏である。
楽粒の開発の端緒となったのは、本社開発関係者と開発研究所の若手メンバーで将来の製剤について議論しているときだった。この場が開発のスタートとなった。
今後、農業者の高齢化が進むと、地域の担い手などの大型農家に水田の管理が集中し、1枚当たりの水田面積の大規模化や管理する水田の枚数の増加が予想される。こうなると水田作業の省力化が必要になる。農薬メーカーとしてこの問題に貢献できることはなにか。田んぼに入らずに畦畔から投げ込むだけで水田全体に薬剤の成分が拡散し農薬の効果が発揮される、そんな農薬があれば今後の農業に貢献できるのではないかと考えた。
そのためにはどうするか。まずは除草剤をターゲットとして考えた。今はジャンボ剤があり投げ込めば除草剤散布は終わる。しかし水田の周縁を歩かなければならない。1haを超える大きな水田では中に入らないと薬剤が拡がるかどうかが心配される。それらを解決するため、水田に入らなくても1ha水田の畦畔からの散布で除草剤の成分がしっかりと拡散し除草効果を発揮する、そんな除草剤をめざしましたと、入波平さんは話す。
これが楽粒のコンセプトとなった。その目標に向けて、製剤検討が開始された。まずは、製剤を構成する界面活性剤などの資材の選抜から。これまで多くの除草剤を作ってきた経験だけでは十分に有効成分を拡散させることができず、新しい資材、新しい配合比率を見出すため約1,000通りもの組み合わせを試し、ようやく新しい処方を見出すことができた。しかし、その処方だけでは従来のジャンボ剤を凌駕する拡散性までは実現させることができなかった。圃場の隅々まで有効成分を拡げる最適な拡散性能を得るため、形状、大きさ、溶けやすさを再度見直す必要に迫られた。お菓子、おもちゃなど農薬以外の素材についても目を向けて検討し、最終的にさらに数百通りもの製剤の試作を繰り返した。
ようやくたどり着いた製剤は、今までの常識とは全く異なる製剤であった。粒の大きさはバラバラのほうが良い、形は整っていないほうがよい、じわじわと水に溶けたほうがよい、というこれまでの経験では考えられない、そんな製剤にたどり着いた。その後、圃場試験を繰り返し、処方の微調整を行い、有効成分を水田内に自由に拡散する楽粒を完成させたと話した。
武貞徹氏
次に登場するのは、製造部の武貞徹氏。出来上がった処方で、工業的に製造する現場の苦労を聞いた。
大きくて軽い楽粒は、通常の粒剤と比べると直径は3倍、重量は三分の一である。コーンを扱っていたところに、ポップコーンを扱うようなイメージだ。大きくて軽い楽粒の製造は、通常の生産ラインでは困難を極め、製造工程を一から見直す必要に迫られた。既存の設備に手作りで部品を作り、組み立て、追加、調整し、不具合があれば再度組みなおし、調整、テストを繰り返した。ようやく楽粒の製造に目途が立ったのは試行錯誤をはじめて季節が二つ過ぎていた、と武貞氏は話す。こんなに苦労した楽粒が世に出るのはなによりもうれしいと笑いながら話した。
8月、9月、10月と、今年楽粒を使用した農家からの熱いメッセージを当サイトでお伝えした。北興化学工業が苦労して完成させた楽粒は、ドローンを含めた様々な散布方法にも対応できる製剤で、今後の製品ラインナップの充実が多くの農家に朗報となると期待される。
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