【アグリビジネスインタビュー】世界とつながり農業共生へ ZМクロッププロテクション 住田明子社長2023年8月2日
JA全農と三菱商事に合弁会社として2017年に設立されたZМクロッププロテクションは6月28日の株主総会で代表取締役社長に住田明子取締役を選任した。社長就任にあたっての抱負などを聞いた。
薬剤を通じ社会貢献
ZМクロッププロテクション 住田明子社長
――設立目的、業務内容、経営理念などを改めてお聞かせください。
ZМクロッププロテクションは、JA全農と三菱商事の合弁会社として設立されました。農薬事業における両者の強みを生かし、シナジー(相乗)効果を発揮することが目的です。
具体的には、全農には権利を保有する原体がいくつかあり、さらに神奈川・平塚の営農・技術センターが研究開発機能を持っています。三菱商事はアジアを中心に原体製造拠点や農薬販売会社を持っており、国内メーカー様の農薬原体の輸出を手掛けておりました。
そこで、両社の機能の一部を移管する形で事業を開始し、現在は全農保有原体の国内非農耕地および海外向けの展開、原体の製造・登録支援、本邦メーカー品農薬の輸出事業を主な業務としています。設立は2017年11月、事業開始は2018年4月で6年目を迎えました。
当社のミッションステートメントは「全農と三菱商事の総合力と自由な発想で、日本発のソリューションを世界の農業・非農耕地の現場にお届けし、豊かな社会作りに貢献します」です。
――2020年以来のコロナ禍、さらに昨年からのウクライナ情勢のもと、世界とわが国の食料、農業をめぐる情勢の変化、業界の課題等についての所見をお聞かせ下さい。
当社は輸出の業務もありますし、農薬の原体は海外で製造していますからコロナ禍は非常に大きな影響を与えました。現地の工場での製造が停滞してしまうだけでなく、製造しても運べないということがありました。
農産物であれ、工業製品であれ、ある国での一つの原材料の生産力低下が、グローバルのサプライチェーンに大きな影響を与え、それは、価格の高騰、供給の遅れ、供給不足という形で現れました。あらためて、世界がつながっているということを感じました。
一方で、生活者としての私たちは一般消費財や食品の値上がりを目の当りにしていますし、生産者である農家のみなさんは生産資材の高騰と向かい合っています。ただ、海外でも農業生産資材の価格は上がっていますが、それにともなって生産物価格もそれなりに値上がりして生産者を支えています。しかし、日本では農産物の価格がなかなか上がりません。物価は上がっているのに農産物の価格は上がらないというのは、日本の農業生産にとっては課題になっていると思います。
農業生産資材の高騰は、二つの世界的な出来事に加え、円安という要因が加わってより複雑かつ大きな影響を受けています。どの事象を一過性とみて、どの事象はトレンドとして続くのかを見極めて、対応することが大切だと感じております。
――こうした情勢のなかでトップ就任にあたっての抱負と今後の事業展開の重点事項をお聞かせくだい。
重点施策としては三つ考えています。
弊社の事業のひとつに全農保有原体の製造支援があり、また、自社剤の製造、輸入もしていますが、この数年、コロナ禍による海外の工場稼働の停滞、原材料の高騰、円安などの要因で、安定製造・安定輸入ができない局面が何度もあり、製造価格も高騰しました。
ですから、重点施策の1つ目は、ZMCPとして国内の農業生産に影響が出ないよう、安定生産と製造コスト低減に引き続き取り組むことです。これは私たちの責務だと考えています。
二つ目は、ウクライナ情勢もあって各国、農業生産に非常に力が入っており、全農保有原体の海外農業場面への展開が期待できることから、そこはしっかりと力を入れていきたいです。ようやく海外へも出かけやすくなりましたので、各地での積極的な試験の実施と、登録取得、販売拡大への取り組みを加速していきます。
海外の需要が増加すれば原体製造が拡大し、その結果、製造コストの低減に反映できる可能性があります。翻ってそれは日本の農家のみなさんにも寄与することになると考えております。そういう意味でも海外展開に力を入れていきたいということです。
三つ目は国内非農耕地場面への積極的な展開です。全農原体のひとつをシロアリ剤として開発しており、昨年3月から「ネクサスZ800」という商品名で販売しています。人畜毒性が低く、シロアリへの効果も高い剤です。本剤を全農のくらし支援部にも取り扱いいただき、協業しながら事業を進めているところです。農業場面ではありませんが、安心できる生活にも貢献できればと思っています。
これらの重点事項をすすめながら、私が社長に就任して考えておりますのは、ステークホルダーの皆様に信頼される、息の長い会社を目指していこうということです。
JAの発信力に期待
――改めて日本農業の現状と課題をどう考えていますか。基本法の見直し検討が進んでいますが、これからの食料・農業・農村政策への期待をお聞かせください。
やはり食料安全保障をどう考え、どんな施策を打ち出していくのかということだと思います。それを受けて日本の農業生産基盤をどのように固めていくのかということが大事なポイントではないでしょうか。
そのうえで日本の農業生産物の品質の高さは世界が認めるところですから、次のステップとしてたとえば、農産物の輸出増を後押ししていく戦略も重要になっていくと思います。
――みどりの食料システム戦略についてはどんな対応をお考えですか。
私どもは新規の合成を行う機能を持たないので、導入がメインになります。その新規の原体の導入にあたって、みどり戦略に合致しているかどうかは重要なチェックポイントとなります。
一方、弊社には国内農業生産にかかわる製品は現在2原体あります。トリホリン(商品名サプロール)とメタムソディウム(商品名キルパー)で、どちらも歴史のある有効成分です。再評価制度にも対応して、より長く日本の農業に貢献していきたいと考えています。
このうちキルパーは土壌処理ができますので、キルパー処理が土壌環境に与える影響についても研究を進めており、みどり戦略に沿った使い方などを検討していきたいと考えています。
また、バイオ農薬やバイオスティミュラントについても環境負荷低減の視点から注目しており、今後当社で何ができるのか検討していきたいと考えております。
――では、JAグループの役割、期待することをお聞かせ下さい。
JAグループは、ステークホルダーである生産者と消費者の両方と接点があるという強みがあります。日本の農業は今、さまざまな変化の時を迎えていますが、この強みを生かして日本の農業基盤を確立し、食と農を未来へつなぐだけでなく、農業を含めた地域活性化による日本の食料安全保障確保に貢献していただければと思います。
また、農薬メーカーは製品の開発、販売をしますが、開発した製品をより効果的に、安全に使用していただくために、製品に関する情報を生産者にしっかり伝えていただくこともJAグループに期待するところです。製品だけでなく、法律や政策などの情報をきちんと伝えるということはJAグループの大きな機能だと思います。
ZМCPは全農と三菱商事の合弁会社であり、JAグループの一員ともいえますので、側面からにはなりますが、JAグループの活動や日本農業に貢献したいと考えております。
――ありがとうございました。
すみだ・あきこ 1968年京都生まれ。神戸大学大学院農学研究科修了。94年JA全農入会。農業技術センター農薬研究部に配属。その後、東京支所、大阪事業所、本所、関東事業所で、農薬の技術普及、購買等を担当。2018年営業開発部営業企画課長、21年耕種資材部農薬課長、22年耕種資材部次長。23年4月よりZMクロッププロテクションに出向、23年6月代表取締役社長に就任。
ZМクロッププロテクション
2017年11月設立。所在地は東京都千代田区内神田1-2-10羽衣ビル。株主は全農50%、三菱商事50%。事業内容は全農保有原体の海外向けおよび国内非農地向け展開、本邦メーカー品農薬の輸出、全農保有原体の製造支援、登録業務、ジェネリック農薬の調達など。
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