生産資材:土づくり
【特集・土づくり】地力増強と環境にやさしい農業を 石灰窒素による稲わら秋すき込みで2016年11月21日
吉田吉明(デンカ(株)技術顧問技術士)
「土の日」は10月第1土曜日、「国際土壌デー」は12月5日
地球温暖化対策の新たな枠組みである「パリ協定」は11月4日に発効し、日本も11月8日に批准手続きを行った。これにより、地球温暖化対策への取り組みは加速することになり、農業分野でも対策が求められると考えている。これまで政府は、日本型環境直接支払制度を創設し、さらに農林水産分野における排出量取引事業等を推進しているが、農業の生産現場では地球温暖化対策に対する意識はまだまだ低い。
◆上方修正されたメタン排出量

図1 1990-2012年の日本の水田からのメタン排出量
最近、農研機構農業環境変動研究センターは「数理モデルに基づく水田からのメタン排出量算定方法の開発」に基づいた新しい計算方式でメタン排出量を計算し、「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」に採用されている。
近年の有機物施用量の増加、常時湛水する水田の割合の増加、寒冷地での有機物分解の遅れ、圃場の排水性の良否が反映され、特に東北地域が大幅に増加したことから、1990年~2012年のメタン排出量は約530キロトンC/年(CH4換算で716キロトン/年、CO2換算で1万7900キロトン/年)となり、これまでの数値の2倍以上に上方修正された(図1)。
◆生育が抑制される春すき込み

図2 石灰窒素施用により還元障害を回避
政府の「地球温暖化対策計画(平成28年5月に閣議決定)」は、農地土壌の温室効果ガス(メタン)排出削減対策に水田における有機物の管理の方法を「稲わらすき込み」から「堆肥施用」に転換することとしている。
しかし、堆肥づくりや散布が労力的に大変なこともあり、コンバインの普及に伴い刈取り後の稲わらが放置され腐熟の進んでいない稲わらの春すき込みが多くなっている。特に東北の積雪地帯では、労力などの面から秋起しが普及しにくい状況にあるため、実態は7~8割が春すき込みであると推定されている。
もともと、腐熟の進んでいない稲わらをすき込むことで、代かき後の浮きわらの発生、強還元化により有機酸や硫化水素など、いわゆる「ワキ」の発生による根痛みと根腐れを起こす。根痛みによる養分の吸収抑制やわら分解時の窒素の取り込みによる窒素不足などにより、水稲の初期生育が抑制されることが指摘されている。
図2は、石灰窒素を20キロ/10アール施用し稲わらの秋すき込みを行った埼玉県の現地圃場での実証試験における石灰窒素無施用区(左)と、石灰窒素施用区(右)の田植え3週間後の状態を示したもの。右の写真のように、石灰窒素施用区では、無施用区に比べ、浮わらが減少し、ワキの発生が無かったため、初期生育が良好であることがよくわかる。
◆地力維持する貴重な有機物

図3 石灰窒素の稲わらすき込みによるメタン削減試験結果
また、水稲作付期間中でみた場合、石灰窒素による稲わら秋すき込みはメタンの発生を抑制する効果があり、それを示したのが図3である。
福島県農業試験場(左)では、稲わら600キログラム/10アールに対して石灰窒素を25キログラム施用し秋鋤込みによって、無施用秋鋤込みより47%削減、春鋤込みに比較して69%削減となっている。
最近の試験例であるが、山形県農業総合研究センター(右)が秋稲わらに石灰窒素を表面施用し春に鋤込む試験を行っており、その方法でも31%のメタンが削減できることを示している。
堆肥の施用が減少している状況で、稲わらは地力を維持するためには貴重な有機物であり、有効活用が求められている。石灰窒素による稲わら秋すき込み(10アール当り稲わら500キロに対し石灰窒素20キロ散布を基本とし、微生物の分解作用により土中で堆肥化することから「土中堆肥」といわれている)は、過去に多くの公立農業試験場で試験が行われており、特に連用することで堆肥と同等、それ以上の増収効果が認められている。
◆石灰窒素・肥効調整型肥料に認定
以上のように、稲わらの腐熟を促進し、浮わらや還元障害による稲の初期生育抑制を防止するだけでなく、土壌中で分解され稲わらに取り込まれた窒素は地力窒素となり、有機物の供給は土壌の物理性の改善など土づくりに役立つ。
そして、堆肥と同様に炭素を貯留し、温室効果ガスであるメタンの発生も抑制するため、環境負荷軽減にも寄与することから、「石灰窒素による稲わら秋すき込み」は、「土づくり」と「環境負荷軽減」がキーワードであると考えている。
平成25年10月に、石灰窒素が農林水産省から肥効調節型肥料に認定され、併せて「有機物の腐熟促進のみを目的として石灰窒素を使用する場合は化学肥料の使用にカウントの必要がない」との見解を示したことに、この技術の後押しを期待したい。
◆ ◇ ◆
筆者は、「石灰窒素による稲わら秋すき込み」が堆肥と同様、環境直接支払制度の対象になることを要望しているが、もう少しすすめて、メタンの排出量削減や炭素貯留クレジットを排出量取引の対象として大企業との取引が考えられないか。国が推進している農林水産分野における排出量取引推進事業や都道府県レベルの地域二酸化炭素削減推進委員会を活用した仕組みが考えられないか。メタンの排出削減量のクレジット額を試算すると、組織的に行えば意外と大きな額になると思っており、その財源を土づくり資材や共同請負散布の費用に充当し、水田の土づくりの低迷に歯止めをかけ、地力増進と環境負荷軽減に貢献できればと考えている。
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