JAの活動:JAアクセラレーターがめざすもの
手押し車の電動化で労力軽減 (株)CuboRex 寺嶋瑞仁代表取締役【JAアクセラレーターがめざすもの】2020年11月2日
(株)CuboRexが製造開発した手押し一輪車の電動化キット「E-cat kit」は中山間地域のミカン園での運搬作業を軽減すると注目され、この10月から和歌山県で販売が始まった。電動一輪車ではなく、どの農家も持っている一輪車(ねこ車)を電動化するキットで、農家が自分で電動化する。同社の寺嶋瑞仁代表取締役にその狙いと農業への期待などを聞いた。
(株)CuboRexが開発した「E-cat kit」
--ねこ車電動化キット「E-cat kit」はどんな経緯で開発したのですか。
もともと現在の副代表を務める嘉数正人が「E-cat kit」のプロトタイプを開発し、建設現場などで使えないかと提案していました。
一方、私は和歌山県有田市の生まれで周囲はみかん畑ばかり。バイトするといえばみかん農家で、学生でもかなり高額な時給をもらっていました。主に収穫したみかんを手押し車で運ぶ仕事をしていましたが、はっきり言ってつらい作業でした。100kg近い重さを段畑の狭い道を運んでいくわけですから。
電動手押し車自体は世の中に存在しますが、柑橘生産ではほぼ使われていません。その理由はみかんの収穫作業に合ってないからでした。山の斜面の段畑でかつ細い道を通らなければなりませんから、そのため細長くコンテナを積むことができる形状になっているわけです。
そこで副代表の嘉数が開発したプロトタイプのねこ車を和歌山のみかん農園に持ち込んで使ってみるなかで、動力の搭載を考えついたということです。試作機を1年かけてブラッシュアップしてきて、今年の10月からJAありだを通じて一般販売を開始しました。
--どういう部品がキットになっていますか。
モーターが内蔵されているホイールとそれを動かすリチウム系バッテリー、それとスピード調整用のコントローラーです。1回の充電で2時間半動くというものです。私たちの実証では作業速度が約2倍、体への負担が半分になりました。
「E-cat kit」概要
--農家が自分で組み立てて電動化していくというものですが、その理由は何でしょうか。
弊社のポリシーは、利用者自身が欲しいものを生み出して試すことができる世の中をつくるというものです。それを私たちは不整地のパイオニアとして「道なき未知を切りひらく」と言っています。
農業の現場など屋外環境は多様性のかたまりです。さらに農業は工場のラインと違って季節や作物によって作業内容が一気に変わります。そこでは何が求められるかといえば、それぞれの季節や品目に合わせるという多様性が求められると思います。それは今ある環境や条件を生かすということも選択肢になるはずで、そう考えると段畑は単にマイナスではなく段畑のメリットを生かす道もあるはずです。しかし、そうした多様性を生かそうということに一企業が製品を製造して対応をするのは困難です。
だから、メーカーとしての私たちが提供するのは農家が自分自身で必要なものを作り上げる仕組みだということです。もちろん必要なものは自分で作るといってもエンジンまではできないでしょう。しかし、エンジンという駆動部分を、自分で工夫して作った運搬用具などに組み込むことはできると思います。
スマートフォンでも日々アプリを自分で入れ替えていると思いますが、それは自分が必要とするシステムに手直しして、効率よく仕事をしたいからといった理由からではないでしょうか。それと同じように農業の現場でも完成したものを使うだけではなく、農家のみなさんが自分で作り上げることを前提として、それに必要なユニットシステムを提供することをめざしているということです。
そのなかで実際に提供できる製品として「E-cat kit」と電動クローラユニット CuGo(キューゴー)と呼ばれるクローラシステムを販売しています。このクローラシステムはよりひどい悪路を想定したもので、実際にキャベツの運搬などの動力として使われています。
--JAアクセラレーターに応募した理由は?
まさにアクセラレターという言葉どおり事業を加速化したいということでしたが、JAグループとの連携によって事業の確実性も高めることができました。とくに自分たちの計画では全国に打って出るつもりはなく、まずはJAありだ地域だけで量産と販売を行おうと考えていたのですが、JAと連携することで来年から全国展開に向けた種まきが前倒しでできるようになりました。
JAの営農センターについて私は生産資材を販売する拠点だと思っていましたが、その地域で営農を続けるための仕組みを提供する部署だということが分かりました。ですから農業機械のメンテナンスや、肥料の使い方をサポートしているということなどが分かって、これは「E-cat kit」にとって心強いと思いました。キットですから買って帰ればすぐに使えるというものではありません。組み立てが簡単だといってもどうしてもサポートが必要な人もいると思いますから。
それからこれまでは正直に言ってみかん産地しか見ていませんでした。それがJAグループとの連携でもっと品目や産地を掘り下げることができるとも思っています。
--日本の農業にどんなことを期待しますか。
自分で工夫することが当たり前という農家のみなさんが増えていけばいいと思っています。販売でも多様なルートで販売していますが、それも農家の工夫の結果だと思います。そうしたかたちで、より良い成果が得られるように工夫をしていくということが大事ではないかと思っています。
私たちは現在、「不整地のパイオニア」として農業機械にアプローチしていますが、機械に限らず農業全体に対する農家のみなさんの工夫を引き出すことができればと考えています。そしてそれを受け入れる社会であってほしいと思います。
--現場の課題を技術が解決すると農業自体のハードルが低くなり、農業や農村に関わりたいという人を増やすことにもなりますね。
まさにそうした観点で取り組んでいきたいと思います。工夫というのはしんどいですが、楽しいことです。それを知ってもらえたらと思います。
※「E-cat kit」の全国販売は2021年2月を予定。販売料金は11万6000円。詳しくは同社ホームページで。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日